第150話 とあるエルフ妹の独白
(Side???)
「ただいまー」
「今、かえったぞ」
家に入った瞬間。
眼の前が、真っ暗になった。
__だって
家具が、ぜんぶ無くなって、家が、がらんとしていたから。
お父さんとお母さんは、ぐったりと床に座っていた。
「何があった!」
兄さんが、お父さんにかけ寄った。
「まさか。また、追い出されるの?」
おもわず、お母さんにたずねた。
「何を言ってるの。
エルフ王国や、ドワーフ王国じゃあるまいし」
「公爵さまが、そんなことをするわけなかろう?」
ふたりで、からからと笑いだした。
__え?
どういうこと?
「じゃあ、何で、家具がひとつもねえんだよ!」
兄さんが、お父さんに詰め寄った。
「引っ越しするからに、決まってるだろ」
あっけらかんとして、お父さんが答えた。
「引っ越しって、どこへだよ!」
「ブロックたちも、行ったことのあるところよ」
「それも、つい、最近だって聞いてるぞ」
ふたりして、にやにやしていた。
「つい、最近?」
「まさか、魔導王国へ引っ越すの?」
たしかに、魔導王国から帰ってきて、間もなかった。
ただ、式典やら何やらに、引っ張り出されたお陰で。
家に戻れたのが、今日になっちゃったけど。
「それこそ。まさか……だよ」
「クララは、まだ、気づかないのか?ほら、そこ」
お父さんが、部屋の隅を指差した。
__これって
「『転移魔法陣』じゃねえか!
こんなもん、どうやって……」
「まあまあ。それは、向こうに着いてからのお楽しみだ。
とにかく、みんなで、行こう」
「そうね。じっさいに、見たほうが早いものね」
そういって、お父さんたちに、引っ張られるように、魔法陣に乗った。
いっしゅんの暗転。
わたしたちは、転移していた。
「ここって……」
「クマ族が住んでるアーティファクトじゃねえか!」
でも、前に来たときとは、違ってた。
前は、大きな筒の中に転移したんだよ。
でも、今日は、部屋の中に、直接、転移してた。
それも、とっても広い部屋だった。
魔導王国のときに、借りてた部屋より、ずっと広い。
寝室もたくさんあるみたいだった。
「今日から、ここが、我が家だ」
「お店には、さっきの『転移魔法陣』で通うのよ」
ふたりで、嬉しそうに言った。
その時。
開けっ放しにしていたドアから、子供がふたり、顔を出したの。
エルフの女の子と、ドワーフの男の子だった。
「兄ちゃんたちも、来たんだ」
「じゃあ。食堂に行こう」
男の子は、兄さんの手を引いて。
わたしは、女の子に手を引かれて、見覚えのある廊下を歩いた。
「やあ、いらっしゃい」
「おお。来たか」
「待ってた、クマ」
すごく広い食堂だった。
そこには、たくさんのエルフとドワーフ。
そして、クマ族たちが集まっていた。
テーブルに、たくさんのご馳走をならべて。
それから、わたしたちの歓迎会が始まった。
なんと彼らは、暗黒大陸のエルフとドワーフたちだった。
『転移』して、遊びに来ているらしい。
それも、泊りがけで頻繁に。
もちろん。アーティファクトの調査も兼ねてだけど。
「こんどは、ウチの里にも遊びにおいで」
「そうだな。ウチの里にも来るといい」
エルフもドワーフも、暗黒大陸の里に、招待してくれた。
暗黒大陸では、ヒューマンとの交易をやめてしまったらしい。
そして、エルフとドワーフの里を、転移魔法陣で接続。
農作物なども分担して、完全な自給自足体制を築こうとしてるらしい。
今は、そこに、クマ族も加わって、三者で、物資のやりとりをしているとか。
「でも、正確には、四者なんだよ」
「もうひとりは誰か。わかるか?」
エルフとドワーフから、尋ねられた。
「まさか。シュウなのか?」
兄さんが、即答した。
「そうだよ。そもそも彼が、大量の物資を、我々に供給してくれたんだよ」
「塩、胡椒、砂糖、小麦、米……数え上げたらきりがない」
「ほかに、紙、布、筆記用具などもあるね」
「つまり。わたしたちの中心には、常に、シュウくんがいるんだよ」
「リーダーシップを発揮しているとか。
もちろん、そんな意味ではないぞ。
あの性格だ。そんな気は一切ない」
「ただただ。膨大な食材や、素材を提供してくれてるんだよ」
「わたしたちは、それで、いろんな料理を作った。
これまで、存在しなかった道具も、たくさん作り出した」
「毎日が、ほんとうに楽しいんだよ。
わたしたちって、ほら。ものづくりが大好きだろう?」
「でも、彼は、恩を着せたりしないぞ。
もちろん、出し惜しみもしない。
ただ、私たちに、感謝してくれる」
「だから、私たちもね。
彼のためなら、何でもしようと思ってるのさ」
__そうなんだ
それで、わたしたち家族も、こうして歓迎してもらえたんだね。
「君たちのことは、シュウくんに相談された。
彼は、すごく怒っていた。
友達が、エルフとドワーフのバチモンに、侮辱されたと。
ホンモノが、ニセモノに侮辱されるなんて、理不尽すぎると」
「バチモンって聞いて、みんな、笑っちゃったけどさ。
でも、シュウくんの目は確かだからね」
「でも、それをいうなら。
わたしたちの方が、ドワーフとエルフの混血で……」
「うんうん。たしかに、びっくりするくらい珍しいとは思うよ。
でも、そんなのは、シュウくんにとって、どうでもいいことだよ。
彼が、見てるのは、人柄とか人間性とか。そういう部分だから」
「君たちは、誇るべきだ。
シュウくんが認めたエルフであり、ドワーフなんだ。
少なくとも、わたしたちは、みな、そう思っている」
「とにかく、彼のことばを聞いて、族長のふたりが言い出したんだ。
ならば、ぜひ、我々の仲間に加わってもらおうってね。
そして、会いに行ったんだよ。君たちのご両親に」
「族長って、ま、まさか…」
「そうだよ。君の思ってるとおりさ。
エルダー・ドワーフの族長と、そして、ハイ・エルフの族長。
つまり。この世界の、全てのエルフとドワーフを統べる『長』だよ」
「ただ、我らは、どちらも、長い長い時を生きる種族。
自分たちで考え、自分たちで責任を取らねば、とてもやってゆけぬ。
だから、ふたりとも、里のやり方に口を出すことは、ほとんどない。
まあ、よほどの危機でもあれば、別だがな。
その点は、理解してもらえるかの?」
*
わたしたちが、『母船クーマ』に引っ越してから、もう7日。
兄さんが、しびれを切らして、クマ族の子にたずねたの。
「シュウは、いつ、ここに来るんだ?」って。
シュウくんたちは、ふだん、違う場所で暮らしてるらしいの。
そして、ときどき、遊びにくるんだって。
「ええっ。兄ちゃん、知らないの、クマ」
「なんのことだ?」
「今、学校ってとこ。休みなんでしょ、クマ」
たしかに、そうなの。
公爵領の学校は、いま、工事中。
理由は、かんたん。
王都の学生が、移ってきたからだよ。
『北』の貴族は、王都を放棄したでしょ。
だから、『北』に属する学生は、公爵領の学校に編入したの。
いつも、なんで、こんなに空き教室ばっかりなんだろうって思ってたけど。
この日に備えていたんだね。
だから、ほんとは、ちゃんと収容できる予定だった。
ところが、平民の学生も増えちゃってたんだ。
これも、シュウくんのせいかもしれない。
すごい平民がいるって噂が、広まってたから。
そんなわけで、学校は、増築工事の真っ最中。
だから、しばらく休校になっているの。
それで、私たちも、学校でシュウくんに会えないわけ。
会って、早く、お礼を言いたいのに。
「休みだから、ここで、シュウが来るのを待ってたんだよ」
「ふうん。そうだったんだ、クマ。
じゃあ、知らないのも当然、クマ」
「何のことだ?」
「目つきの怖い兄ちゃんたち、別の大陸に遊びに行った、クマ」
「別の大陸だと!」
「そう、クマ。別の大陸って言ってた、クマ」
「暗黒大陸のことなの?」
わたしも、おもわず、たずねた。
__もしかして
帰っちゃったんだろうか?
でも、『遊びに行った』って言ったよね。
「ちがう、クマ。
初めて行く大陸だって言ってたから、クマ」
「そうだったんだね」
__よかった
ほっとしたよ。
もう、会えないのかと思っちゃった。
「でも、安心する、クマ。
転移して、いつでも帰ってこれるから。
きっと、そのうち、遊びにくる、クマ。
また、すぐ、別の大陸に戻るかもしれないけど、クマ」
「そうなんだ……」
「話は終わったか?クマ。
じゃあ、ちょっと。皇帝のじいちゃんとこ遊びに行ってくる。
引っ越してきたばかりだから、いろいろ教えてやる、クマ」
それだけ言うと、クマの子は、走り去ってしまった。
「わたしたちのほかにも、最近、引っ越してきたひとがいるんだねー。
皇帝って言ってた気がするけどー。
まさか、帝国の皇帝陛下じゃないよねー?」
「いくらなんでも、そりゃねえだろう。
きっと、聞き違いだぜ」
「そっか。そうだねー。
でも、いいなあ。シュウくんたちー。
わたしも連れてってほしかったよー」
「しょうがねえだろう。
オレたちは、家の手伝いがあるんだからよ。
母さんだって、父さんだって、すげえ忙しいんだぞ」
__そうなんだよ
ひとが、急に増えたからね。
お客さんもすごく増えた。
戦力の強化とかで、お父さんにも、注文が増えてるし。
「でも、アネットちゃんなら、きっと、お土産、買ってきてくれるよねー」
「そうだな。シュウは、あてにならねえけどな」
「ふふふ。それはそうだよー。あのシュウくんだもん」
気が利くのか、利かないのか。
よく、わかんない男の子だからね。
でも、早く、会いたいなー。シュウくんたちにー。
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