第123話 ダンジョン研修が再開した

三日後。



ぼくたちは、ふたたび、ダンジョン街に来ていた。




「……ったく、もっと早く連絡してくれねえと。


一番乗りできなかったじゃねえか」


ドワーフ兄が、愚痴った。




ゴーレム馬車だから、短時間で、王都近郊のダンジョンに到着したけど。


そもそも、研修再開の連絡自体が、遅かった。



ていうか。学園生の貴族たちが、待ち構えていたんだと思う。


だから、再開の目処が立った時点で、すぐにアナウンスしたんだろう。



ダンジョン研修は、すでに始まっていた。


だから、街のあちこちには、学園生の姿があった。




ぼくらは、ダンジョンの入口に向かった。


このまま、エントリーして、研修に入ってしまう予定だ。





「きょうは、ラウラも来てるのね。


もしかして、今、こっちに着いたばかりなの?」



見覚えのあるお姉さんが、担任に話しかけてきた。


前回の研修の時、駆けつけてくれた学園の講師だ。


ミノタウロスを倒した後だったけど。



「ええ。いま、到着したばかりよ」



なんだか、親しげだね。


お友達かな?




「君は、あの時のテイマー君ね。


あらっ。きょうは、白竜と白狼もいるのね」


さっそく、ちびたちに駆け寄った。



ビアンカは、侯爵令嬢が。


ヴァイスは、食いしん坊が、抱っこしている。



「まあっ! あなたも復帰したのね。


良かったわ。これで、ラウラも安心ね!」


ヴァイスより先に、食いしん坊に、話しかけていた。



「はい。ご心配をおかけしました。もう、大丈夫です。


わたしなんて、大したことないってわかったので……」


ずいぶん、しおらしいことを言っている。



「……そんなことはない、と思うけど。


でも、謙虚なのは、いいことよ」


そういって、ヴァイスを撫でている。



「ほんとにかわいいのね。


ちっちゃくて、真っ白で、とても魔獣とは思えないわ。


赤いベストも、すごくおしゃれよ。


戦わせる気にならないってのも、わかる気がするわ」


お姉さんが、納得していた。



「でも、この間は、魔物をたくさん狩ったのです。


大活躍だったのです」


ルリが、訂正した。



「少し前の『公爵領魔物殲滅作戦』で、頑張ったんだよね」


アネットが、さりげなく補足した。




「たしかに、最近、魔物が活発になってきたものね」


「あの謎の『青い光』と『巨大竜巻』のお陰で、しばらく、おとなしかったのにね。


でも、いつまでも、楽をさせてはくれないわね。


それにしても……。何だったのかしらね。あの光と竜巻って……」



お姉さんたちの話が、光と竜巻の話に移ってしまった。


もちろん、ぼくは、黙って聞いていた。


ヒスイの耳をふさぎながら。




「でも、兄さまは、本部でのんびりしていたの。


だから、スライムが指示を出して、ビアンカたちだけで戦ったの。


それで、『テイマー要らずの三従魔』って褒められてたの」



ヒスイが、さりげなく話を戻した。


ぼくを、怪訝けげんな顔で、見上げていたけど。



でも、『のんびり』じゃなくて、『待機』してたんだぞ。


のんびりしていたのも、事実だけど。



「そ、そう……だったのね。


『テイマー要らずの三従魔』なんて、すごい二つ名ね」


いくぶん戸惑いながらも、ヴァイスを褒めていた。


相変わらず、善意に解釈してくれたんだろう。



ヴァイスは、しっぽをふりふりしている。


うれしいらしい。




「それにしても、個性的なパーティね」


学園講師のお姉さんが、ぼくらを見ながら、しみじみと言った。




ぼくたちのパーティって、要するに、全員だ。



① ぼく

② ソフィア

③ アネット

④ ルリ

⑤ ヒスイ


⑥ ドワーフ兄

⑦ エルフ妹

⑧ 侯爵令嬢

⑨ 食いしん坊


⑩ ビアンカ

⑪ ヴァイス

⑫ スライム


合計で、九人+三匹。



エルフもドワーフもいるし。


ちびっこもいる。


さらに、従魔も。



__たしかに



個性的なパーティかもしれないな。




パーティには、とくに、人数の制限はないらしい。


研修だから、ゆるやかなのか。


そもそも、そういうものなのか。


それは、わからない。



要するに、全員が、積極的に参加すればOKなんだと思う。


ただのパワーレベリングでは、研修とは言えないからね。




お姉さんたちと別れて、ダンジョン入りした。


といっても、まず、広いホールに入る。


ここから、階段を降りてはじめて、ダンジョンの『領域』になる。


ホールには、たくさんの学園生がたむろしていた。



__順番待ちかな?



受付っぽいところで、エントリーした。



「おや? 今日は、従魔連れなんだ」


また、見覚えのある男性講師がいた。



「たしかに、かわいいな。


首輪じゃなくて、赤いベストとはね。


ほんとに、かわいがってるんだな」



お兄さんが、感心していた。


他の講師たちの視線も、ビアンカたちに釘付けだ。



ビアンカたちのしっぽが、さりげなく揺れていた。


スライムは、頭の上で寝てるけど。





そんな声が聞こえたんだろう。


周囲の学園生の視線も、ぼくたちに向けられた。



「見て! 真っ白な従魔よ!」


「ただの噂と思ってたのに、ほんとだったのね」



「真っ白で、かわいいわね。


真っ赤なベストまで、着てるわよ」


「ええ。あんな従魔なら、わたくしも欲しいですわ」



男子の視線は、ソフィアたちに向けられた。



「すげえ美人のエルフがいるぞ。


お近づきになりたいな」


「あいつら、平民学校の連中だろう。


エルフがいるって知ってたけど、ひとり増えたんだ。


それにしても、すごい美人だな」



ひそひそ話してる連中ばかりじゃなかった。



「おい、平民。


お前は、初級部のコまで、連れて行く気か?


お前なんかじゃ。とても守れねえだろう。


オレたちが預かってやるよ。


そのエルフふたりと一緒にな」



にやにやしながら、五人ばかり近づいてきた。


ぼくたちのことを、知らないらしい。




講師たちも、にやにやしている。


でも、たぶん、学生たちとは別の意味だと思う。


だって、見覚えのある講師が、耳元でささやいたから。



「ほどほどに、頼むよ」って。



__もしかして



コレも、研修の一貫なの?



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