第99話 皇帝
だだっ広い『執務室』の真ん中に、豪華なソファがあった。
品の良いローテーブルの上には、空になった酒瓶が、散乱している。
きっと、超が付く高級品ばかりなんだろうね。
ソファーには、豪華なローブを
がっしりとした、レスラーのような爺さんだ。
でも、両手で頭を抱えて、ただ、じっとしていた。
「お爺さま……」
絶望に打ちひしがれた老人の姿を見て、孫娘は涙ぐんだ。
広い『執務室』に、護衛の姿はなかった。
孫娘の言葉を借りれば、『世界一強い爺さん』だ。
だから、護衛なんて、必要ないのかもしれない。
でも、そのお陰で、バルコニーから、堂々と入ることができた。
世界一さまさまだ。
ほんとうなら、帝城の城門で、きちんと名乗るべきだと思う。
でも、きっと、疑われるに決まってる。
最新鋭艦ですら、撃墜されたんだ。
そんな恐ろしい森から、ぼくが、孫娘を救出してきたなんて。
誰も、信じてくれないだろう。
だから、門前払いされるのが、オチだと思った。
その上、孫娘まで疑われるかもしれない。
そうなったら、強行突破しかなくなる。
それはそれで、ゲームみたいで楽しいかもしれないけど。
でも、現実は、ゲームじゃないからね。
あとあと、面倒なことになると思ったんだ。
そもそも、【卵ハウス】なら、『執務室』のバルコニー前まで入り込める。
あとは、バルコニーに転移するだけだ。
【卵ハウス】には、窓もドアもない。
出入りは、いつも空間転移だ。
だから、ある程度、バルコニーに近寄れば、簡単に転移できる。
うなだれる
「帰ってこられて、ほんとによかった。
お祖父様を、ひとりぼっちにするところでした」
「ひとりぼっち?」
思わず、聞き返した。
巨大帝国の
さすがに、ひとりぼっちはないだろう。
__もしかして
独裁者なの?
「お祖父様が、心を許せる相手は、もう、ぼくしかいないんです。
お祖母様も、ぼくの父さまも母さまも、みんな死んじゃいましたから」
「なるほどな」
独裁者説は、保留かな?
でも、大帝国の皇帝だ。
王妃が、死んだ婆さんひとりとは思えない。
だとすると、子供だってひとりじゃないだろう。
__それで、わざわざ
『心を許せる相手』って言ったのか。
__それなら
心を許せない家族は、どれだけいるんだろう?
権力者も、その家族も、けっこう、大変だな。
継承権を争って、殺し合ったりしてるのかな?
「お爺さまっ!」
孫娘が、
そして、呆然とした。
死んだとばかり思っていたのだろう。
散乱した酒瓶が、その証拠だ。
頭を抱えて、彫像になっていたのも、そのせいだろう。
「これは、夢か。そうじゃな、夢に違いない。
あんなに、かわいい女の子の格好をして。
やはり、女の子として、生きたかったのかの。
あの子を守るためとはいえ、ワシは、罪深いことをしてしもうた……」
そういって、ぼろぼろと涙を流した。
__もしかして
未だに、死んだと思ってる?
孫娘は、泣きながら、
そして、酒瓶を握りしめた。
__え?
なんで、酒瓶?
「お爺さまっ、しっかりしてください!
わたしです。クラリスです!」
いかにも手慣れたように、酒瓶で、パカンと
__ええっ!
ぼくは、自分の目を疑った。
孫娘が、違う世界のニンゲンに見えた。
いわゆる、極道系?
「まさか! ほんとうにクラリスなのか!」
なんと。あっという間に、
酒瓶パンチが、効いたらしい。
「はい、お祖父様。クラリスです。ただいま、戻りました!」
「ああ……、クラリス。ほんに、クラリスじゃ。
よくぞ、生きて戻ってくれた!」
「で、でも、お祖父様。ごめんなさい。
生き残れたのは、ぼくと聖女さまだけなんです。
ほかの乗組員たちは、ぜんいん………」
「何を言うておる。あやまるのは、ワシのほうじゃ。
大切なお前を、あやうく死なせるところじゃったのだから。
己の力に溺れて、暗黒大陸を見くびったのが、間違いじゃった。
そ、それにしても、いったいどうやって?」
「はい。船が焼け落ちた時は、聖女様の結界で守っていただきました。
そして、
そう言って、孫娘は、ぼくを見上げた。
「そうか。貴殿が、クラリスを連れてきてくれたのか。
ありがとう、シュウ殿。この恩は、生涯忘れはせぬ。
まあ、生涯と言っても、見てのとおりの爺じゃ。
さほど長いとも言えぬがのう」
さすが、世界一強い
ぼくを見ても、驚くどころか。からからと笑っていた。
「ここへは、勝手に入らせてもらった。
なるべく早く、孫娘を届けたほうがいいと思ったからな。
実は、例の船も持ってきている。引き取ってもらってもいいか?」
なにしろ、超巨大な粗大ゴミだからね。
持ち主に返却するのが、一番だよ。
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