第50話 峠(2)
「ずいぶんと楽しそうに、お話ししてるのですね」
なぜか。 冷たい声だった。
「こ、こ、これは、ソフィアさま!
とうとう見つけられたのですね!
ご自分を守ってくださる殿方を!」
「ええ。 あなたとは、そんな話をしたこともありましたね」
ソフィアの知り合いだったとは。
ちょっと、びっくり。
話の内容も、意外だし。
「お、覚えていてくださったんですか! こ、光栄です!」
女性騎士の顔が、ぱあっと紅潮した。
「あの時。 逃げずに戦ってくれたのは、あなただけでしたから。
男性の騎士たちは、あっという間に、逃げ出してしまったのに。
あなたは、たしか……。 騎士団長の娘でしたね」
__へえ
ソフィアと、共に戦えるほどの
しっかり者のお姉さんにしか、見えないのにな。
いや。 それ以前に、男性の騎士が、情けないのか。
ソフィアとこのお姉さんを置いて、逃げ出すくらいだもんな。
たしかに、足手まといになるくらいなら、逃げてくれた方がいい。
でも、逃げるくらいなら、最初から、ついて来なければいいのに。
醜態を
ソフィアは、いつも、そんな連中を引き連れて、戦っていたのか?
味方を頼ることもできずに、たったひとりで。
「そ、そんなことまで、覚えていてくださったんですか!
そうです。 父は、帝都の騎士団長を務めています!」
「ええ、覚えてますよ。
戦いから逃げたら、父に、叱られると
「なんだ。 お前も、父親に苦労したクチか?」
それで、アネットのことも、理解できたのか。
やっぱり、ガラの悪い父親なのかな?
「まさか。 そんなことありませんよ。 父は、私の誇りですから」
思いのほか、やさしい声で答えた。
どうやら、まともな父親らしい。
かわいそうなのは、アネットだけか?
「わたしだって、そうだよ。
お父さまは、わたしには、とってもやさしいんだから」
今度は、隣に、アネットも来た。
ぼくの心の声が、聞こえたんだろうか?
「ふ、ふたりとも、話を聞いていたのか?」
でなきゃ、こんな話題にならないよね。
「ええ。 最初に、わたしの名が出てきましたから」
__そうだった。
エミリー嬢のことを尋ねたせいで、話題が変わったんだった。
「でも、あなたのいうとおりですよ。
シュウは、初めて出会った時から、私を守ってくれました。
いきなり、私の前に立って、魔物を蹴散らしたんですよ。
それも、【邪神の森】の奥で。
あの時は、ほんとうにびっくりしました。
そして、その後もずっと、私には、戦わせようとしませんでした」
懐かしそうに、ソフィアが言った。
けっこう、最近のことだけどね。
「だが、最初は、ソフィアが助けてくれたろう?」
「ええ。 シュウの強さを知りませんでしたから。
あの時は、余計なことをしてしまいました」
「余計なことじゃないぞ。
今でも、あのオーガは、一発、殴ってやりたかったと思うけど」
「オーガ? 殴る? それも【邪神の森】のオーガを?」
女性騎士が、
「ええ。 そうなのですよ。
丸腰で、オーガに殴りかかろうとしてたのです。
それも、一度、殴り飛ばされた直後にですよ。
だから、つい、手を出してしまったのです」
「めちゃくちゃだね」
「めちゃくちゃ、どころじゃないです。
いくら強いからって……。 死にたいんですか?」
女性騎士に、
「そうでもないのですよ。 シュウは。
シャドウ・ウルフは、素手で
ヴァイパーは、体当たりして、頭を
「ヴァイパーって、エミリーちゃんを助けた時の、大きな魔物でしょ?
シュウくんが、石をぶつけて、頭をとばした」
「ええ。でも、【邪神の森】ですよ。
あのヴァイパーの、ほぼ倍の巨体でした」
「めちゃくちゃだね」
「とても、ニンゲンとは思えません。
まるで、サイクロプスの話でも、聞いてるみたいです」
「ふふふ。 サイクロプスでは、あのヴァイパーは倒せませんよ」
コレって、
素直に、喜んでいいのかな?
そんな話をしているうちに、峠の頂上に到着した。
展望台なのだろうか。
大きな広場があった。
そして、そこには、豪華な馬車が、何台も停まっていた。
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