第59話 白衣の天使
翌朝。
朝ご飯を食べながら、たずねてみた。
「ソフィアは、別の大陸に行ってみたくないか?」
「もちろん、行ってみたいです。
この大陸では、どこへ行こうと戦姫と見られますから……」
たしかに、それって
いつも、戦う義務を負わされているみたいで。
ソフィアだって、『ふつうの女の子になりたい』はずだ。
なんか。 大昔のアイドルみたいなセリフだけど。
でも、この大陸では、やっぱりムリなんだね。
それだけ、ソフィアは、この大陸を守ってきたんだ。
ソフィアのためには、別の大陸に渡るしかない。
誰も、ソフィアのことを、知らない大陸に。
そこでなら、ソフィアも、のびのびと生きられるだろう。
まあ、とびきりの美少女エルフだからね。
目立つことは、避けられないけど。
「別の大陸には、どうやって行くんだ?」
「一般的なのは、王国から海路ですが…」
「王国は、ダメだな」
わざわざ、ぼくを狙っている国に行くのも、馬鹿げている。
今すぐ、報復したいわけでもないし。
「そうですね。 王国は、難しいです。
まず、街を火の海にして、戦力を陽動し。
そのスキに、船を、船員ごと奪うしかありません」
いや。 それ、テロリストのやることだから。
いくら、元戦姫さまでも、そこまでやらないよね?
でも、どうすればいいかな……と、二人で悩んでいると。
ピーンポーン!
チャイムが鳴った。
ぼくは、階段を駆け下りた。
は?
そこには、白衣を来た天使がいた。
「念のため聞いてやる。
それは、白衣の天使のつもりか?」
「ほかの何に、見えるというのですか?」
天使が、ふくよかな胸を張って言った。
「AV女優」
だって、白衣の
ちょっと動いただけで、チラチラ見えそうだし。
「なんですか、ソレ?」
「知らんでいい。 それで何の用だ?」
「【加護】を追加しに来ました」
「そんなことできるのか?」
「ふつうはやりませんよ。
それでなくても、シュウさまって【加護】だらけなんですから」
「まあ、そうだろうな。 いつも女神には感謝してる」
「そうそう、そういうとこですよ。
女神って、そういうのに弱いんですよ。
まあ、天使もそうですけどね」
「そういうのって、感謝することか?」
「そうです。 ほんと、多いんですよ。
恩恵を与えても、感謝しない奴って!
恩知らずな奴には、マジで腹がたちますよ!」
「まあ、それはそうだろうな」
怒っても、天使は美しい。
今日は、美しすぎるAV女優だけど。
ひとしきり怒りをぶちまけると、作業に入った。
まず、天使は、玄関の壁に手をかざした。
すると、見たこともない文字が、浮き上がった。
つづけて、壁の一部が箱になって、せり出した。
箱の上面に、たくさんの文字が浮き上がる。
それは、知らない文字のキーボードになった。
「ええと、解除コードは……。
か・い・じょ・す・る・の・じゃ……でしたね」
そのまんますぎる……と思ったけど、言わないでおいた。
カチャ!
音とともに、箱のフタが開いた。
箱のなかには、きらびやかな宝石が、円を描いていた。
強く輝いている宝石と、やや暗い宝石がある。
天使は、やや暗い宝石のひとつを指で押した。
かちり!
まもなく、その宝石も、強い光を放った。
そのあと、天使は、もうひとつ、宝石を光らせた。
ふたつ追加になったのだろうか?
箱のフタを閉じると、壁の中に戻った。
もう、ふつうの壁にしか見えない。
ぴこん!
音とともに、【管理画面】がポップアップ。
________________________
【加護一覧】
① 不壊
② 不倒
③ 快適
④ 浄化
⑤ 的中
⑥ 加速
⑦ 反射
⑧ 収集
⑨ 結界
⑩ 隠蔽 New!
⑪ 飛行 New!
_______________________
⑩ 隠蔽 ⑪ 飛行 が、点滅していた。
これが、追加されたんだね。
「えーと。 ステルス、インビジブル、光学迷彩……。
シュウさまの知ってる言葉だと、そんな感じです。
とにかく、【卵ハウス】が見えなくなります。
でも、実体はありますからね。 ぶつかるとわかりますよ。
もちろん、【反射】を起動してると、相手が吹っ飛びますが……。
【飛行】は、文字通り空を飛びます」
「つまり、魔物に気づかれずに、空を飛べるってことか?」
「ええ。 まったく、そのとおりです」
「じゃあ、他の大陸へも渡れるんだ?」
「もちろんです。 宇宙は、ちょっとムリですけど」
__いつもながらの、ジャストタイミング
いまも、ぼくのことを見てるのかな?
でも、見てるのは、あの
そんなに、悪い気はしない。
おっさんの神だったら、キレそうになったろうけど。
よかったよ。 かわいい女神ばっかりで。
「わかった。 ものすごく助かる。 女神にも礼を言っておいてくれ」
「承知いたしました。 では、良き旅を……」
天使は、帰って行った。
帰り際に……。
『私を味見したくなったら、いつでも言ってくださいね』
とか言っていたけど……。
二階に戻った時だった。
ピーンポーン!
再び、チャイムが鳴った。
ぼくは、また、階段を駆け下りた。
玄関に、作業着コスプレの天使が五人もいた。
白衣の天使は、やめたらしい。
「改修工事に参りました。 まず、コレにサインを」
サインして、【不壊の加護】を一時的に解除。
五人は、家に上がり込むと、階段前で輪になった。
「 「 「 「 「せーのっ!」 」 」 」 」
掛け声でいっせいに、床に、かかと落とし。
ばりーーーん!
すごい音がしたら、下へと続く階段が現れた。
「隠し部屋になってたんですよ」
「下の部屋も、三階と同じつくりですよ」
__ふうん
あの階段って、もともと、下の階に続いていたんだ。
【卵ハウス】って、いったい、何階建てなんだ?
「工事が完了しました。 これにサインを」
「完了って、これだけなのか?」
「工事は、これだけですね」
「でも、この床の封印。 めっちゃ頑丈なんですよ」
「そうそう。 天使五人のパワーでやっと壊せるんです」
「そろそろ、おわかりでしょう?
女神さまって、すっごく、幼稚なんです」
「こんな仕掛けをして、面白がってるんですよ」
次の瞬間。 落雷が。
ボヤいていた天使が、黒焦げになった。
「下の階へ降りたら、チュートリアルが始まります。
内容は、簡単ですけど、いちおう、見ておいてくださいね」
「女神さまたち、けっこうノリノリで作ってましたからね。
しっかり、見てあげてくださいよ」
そう言って、天使たちは帰っていった。
ぼくは、急いで、階下に駆け下りた。
なんだかんだ言っても、女神たちは、かわいい。
けっこう、 『新作』を期待してたんだ。
階段を降りると、自動的に、チュートリアルが始まった。
のじゃロリ女神の、かわいい声が、部屋に響く。
「久しぶりじゃのう。
異世界からの来訪者にして、我らが使徒よ」
__ええっ! ぼくは、使徒だったのか?
「くくっ……。 もしかして、
じつは、ちょっと、思いつきで言ってみたのじゃ。
すまんのう。 悪気はないのじゃ」
__くっ! なんなんだ。 このいきなりの屈辱は。
「おぬしの異世界生活も、いよいよ、第二ステージに突入した。
そこで、おぬしに、新たな【加護】を
それは、名付けて……。
えっ? もう、追加しちゃったって?
じ、じゃあ、【加護】の概要でも説明す……。
えっ? もう、交代の時間?
じ、じゃが、わらわは、まだ話らしい話はしておらんぞ。
なに? 全体の尺が短いのに、悪ふざけしてるからだって?
で、でも、一回くらい言ってみたかったのじゃ! 女神っぽいセリフを!
あ、こらっ! 引きずるでない! よせと言っとるじゃろ……」
そのままずるずると、のじゃロリは、退場した。
そのあと、本格的なチュートリアルが始まった。
とはいっても、けっこう簡単な内容。
天使の言ったとおりだったね。
最後は、女神たちが、チアガール姿でボンボンを振っている。
これって、ホントに、チュートリアルビデオだよな?
どっかのアイドルグループの宣伝用PVじゃないよな?
__でも、かわいいなあ。 あとで、何回もリピートしよう。
アレ? だけど、のじゃロリがいないぞ。
そう思った瞬間。 のじゃロリが画面右から走ってきた。
そして、ぴょーんと飛んだ。
体をひねりながら、空中で二回転。
__もしかして、ムーンサルト!
トンと着地して、ポーズをとった。
アンスコが、チラッと見えて、すごくかわいい。
思わず巻き戻して、一時停止したら、後ろから殺気が。
__し、しまった!
ソフィアを呼びに行くのを忘れてた。
「シュウ。 ずいぶん遅いので、心配して来たのです」
ソフィアの声が、おそろしく低い。
「女神さまに愛されてるとは聞いていましたが。
シュウは、ちいさい女神さまに、ご執心だったのですね」
画面は、ちょうど、のじゃロリのアップ。
しかも、パンチラシーンだった。
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