第33話 天使再来

ソフィアの祖父母が帰った後。



ピーンポーン!



チャイムが鳴った。



慌てて玄関に降りると、作業着コスプレの天使がいた。


それも、三人ほど。


ちなみに、三柱とか、助数詞にこだわるつもりはないよ。




「三階の改修工事に来ました。


えーと。 『清く正しい関係を維持するため』の工事だそうです。


それじゃあ、ちょっとお邪魔しますね」



「え? ……あ、ああ。 よろしく頼む」



「工事中だけ、【不壊】を解除しますんで、コレにサインを」


前と違って、いかつい石版を差し出した。


羽ペンも、金色だ。


サインすると、【卵ハウス】全体が、いっしゅん光った。



「ちょっと仰々ぎょうぎょうしいでしょう。


 【加護】関係は、扱いが面倒なんですよ」


天使が、苦笑しながら言った。


じつに、美しい苦笑だった。



三人が階段を登っていくと、まもなく、音が響いた。



きゅいーん、きゅいん、きゅいん!


ばりばりばりばりばり!


とんとん、かんかん!


ごりっ、ごりっ!



ちょっと、心配になる音だった。



そうそう。 


ソフィアが、フリーズしたままだった。


とつぜん、天使が来たからかな?


かわいいので、ぎゅっと抱きしめた。


キスするふりをしたら、「焼きますよ」と睨まれた。



元に戻ったみたいだ。



音がやむと、【卵ハウス】が、二回、光った。


そして、天使たちが降りてきた。


たぶん、【不壊】が復帰したのだろう。





「いやあ、飲んでみたかったんですよ。コレ」



天使たちが、日本酒をぐびぐび飲んでいた。


もちろん、天使たちのリクエストだ。



カップは、もちろん、ドワーフ製。


コレも、気に入ったらしいので、お土産にしてもらった。



自分が作ったものを、女神や天使に使ってもらう。


あるいは、食べてもらう。


それは、『最高の誉れ』だと、ソフィアが言っていた。


ドワーフにとっても、エルフにとっても、そうらしい。


だから、横流しにはならないと思う。 たぶん。




「想像を上回る味ですね」


「シュウさんの魔力が、アレだからですかね」


「そうよねー。 めっちゃ、アレだよねー」



天使たちが、女子高生のように盛り上がっていた。


なんだろう。 アレって?



「コホン。 話は変わりますが…。


シュウさんは、何人くらいまで増やす予定ですか?」


「増やすとは?」


ぼくは、首をかしげた。



「私たちって、けっこうイケてるんですよ」


そういって、天使は、作業帽をとった。



金色の髪が、輝きながら、床に広がっていく。


あまりの美しさに、ぼくは、思わず、息を呑んだ。


ソフィアの隣で、不覚にも。



それから、天使は、いたずらっぽく言った。


「ちょっと、押し倒してもらえれば、すぐ堕天できるんです」


「そうそう」


「一発で、堕天よねー」



かなり怖い話だった。



しかし、次の瞬間。


どこからともなく、落雷が。



100%安全住宅神話が、いっしゅんで崩壊した。



黒焦げになる、三人の天使。



「ひっ!」


ソフィアが悲鳴をあげて、抱きついてきた。


ぼくは、悲鳴を必死で飲み込む……しかなかった。


男の子って、つらい。



「ああ、忘れるところでした」


三秒で復帰した天使が、何事もなかったかのように言った。



「こちらに、サインをお願いします。


【卵ハウスの倉庫】へのアクセス許可証です。


『おすそ分け』をいただくための手段ですよ。


ふつうは、祭壇に供えてもらうんですけど、いちいち面倒でしょ。


それで、【倉庫】から直接いただくことにしたんですよ」


今度は、銀色の紙に、銀色の羽ペンだった。



「それからですね。 ついで……というわけでもないのですが。


【倉庫】にある魔石を、十個ほど引き取らせていただきたいんです。


【資材用タブ】の、一番と三番にある魔石ですね。


アレがあると、バレ……こほん、下界にあってはならない魔石ですから」



【資材用タブ】は、たしかに、最初からあった。


でも、食べ物が最優先だったから、資材なんてどうでもよかった。



まさか。 そんな恐ろしい魔石が、入っていたなんて……。


どうして、そんなものを【卵ハウスの倉庫】に、入れておいたんだろう?


まあ、今回、引き取ってくれるんだから、もう安心だけど。



こっちから言い出したことなので、もちろんサインした。


たしかに、いちいち、おそなえするのって、面倒だよな。



「ありがとうございます。


じつは、コレ、私たち天使にもアクセス権があるんです。


もちろん、シュウさまの意向を汲んでのことですけど。


女神さまって、そういうところはやさしんですよ。


うふふ……。ホント、そういうところですけ……」


そこで、また落雷。 黒焦げになった。


三秒で復帰したけれど。






天使たちが、玄関から帰った後。


三階に上がってみた。



部屋の真ん中に壁ができていた。


厚さ1メートルほどの壁が。


扉はないので、開放感はそのままだ。



実をいえば、ぼくは、二階で寝るつもりでいた。



祖父母たちは、イケイケだったけど。


たいせつなのは、ソフィアの気持ちだ。


もちろん、先のことはわからない。


でも、いまはまだ、このままがいい。



女神たちは、それを察してくれたのだろう。


いや、むしろ。 ずっと、監視してるのか?



__ふうん。



女神の悪口だけは、ぜったい言わないようにしよう。


いつも感謝してるから、大丈夫だけど。

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