第11話 番外編①

 新生活が始まってしばらくたった頃のことである。女たちはいつものようにテーブルを囲み、矢を作っていた。アイナも森に出る前の少しの時間、一緒に作業をしていた。 

 女たちの技術も上がり、おしゃべりをしながらでも上手に矢を作れるようになっていた。その日も、日差しが心地よく、穏やかな風が吹いていた。


 ふとした瞬間、不意にエラがアイナに向かって「アイナはいつゲッターさまとこづくりするの?」と尋ねてきた。  

 その言葉が耳に入った瞬間、アイナは「うぇっ」と乙女らしからぬ声を発してしまった。

 周囲のアルとイレは興味津々で、アイナの返事を待っている。

 アイナは照れくささを隠そうとしたが、頬は真っ赤に染まっていく。「私はまだ若いから、子作りなんて早いよ」と、何とか言葉を絞り出した。


 エラは無邪気に「もうこどもうめるから、はやいことはないよ。アイナからゲッターさまをさそったほうがいいよ」とアドバイスをした。

 アイナは「ゲッター様は私のご主人様だから、そんなことできない」と言いながら、ますます赤くなってしまった。

 エラは首を傾げて、「しゅじんっておっとっていういみでしょ?ならもんだいなくない?」と質問した。

 アイナは恥ずかしさに耐えながら、「それにそういうのは好きな人同士でしないと」とモゴモゴしながら言った。


 その瞬間、少し離れたところで作業をしていたウタが静かに「アイナはゲッターさまにおつかえしているから、むりだといっています」と、エラに教えてくれた。

 アイナはその言葉に少しホッとしたが、それでも心の中のもやもやが消えることはなかった。「それに、そういうのは好きな人同士でしないと」と再度言った。

 エラが「アイナはゲッターさまがすきではないの?」と続けると、アイナは逆に「みんなはガプロが好きなの?」と質問を投げ返した。


 エラは「ガプロはたくさんしょくじもってきてくれるから、すきだよ。ゲッターさまもいろいろつくってくれるから、すき」と元気よく答えた。

 エラの言葉に、アルも頷きながら「やっぱりガプロはかりや、いものさいばいがじょうずですからね」と続けた。

 女たちの会話はどんどん弾んでいく。

 イレは「さいきんはカプルとアッグもゆみがじょうずになったから、もうすぐえものをとってきてくれるかもね」と話を少し変えた。


 すると、ウタが作業の手を止めずに「ジュアのくんせいがとてもおいしくてすきです」と言った。

 みんなはその言葉に同意し、それぞれの好きな食べ物の話に盛り上がった。


 ウタが「アイナはゲッターさまをどうおもっているの?」と尋ねると、アイナは考え込んでしまった。


 アイナはゲッターとのこれまでを思い出す。

 彼女はゲッターよりも1カ月早く生まれてずっと一緒に育てられた。

 1カ月だけおねえさんの彼女には、少しだけ、ほんの少しだけだけど、何をしてもゲッターより上手という自信があった。

 身長もアイナの方がずうっと少し高かったが、洗礼式の時に追いつかれ、今ではゲッターの方が若干背が高くなってしまった。

 最近のゲッターは筋肉もついてきて、洞窟内から重い石材をたくさん運び出しているため、ひと回り身体が大きくなったように感じる。

 この前、水浴びの時にチラッと見たゲッターの姿は、引き締まった身体で特に背中の筋肉がかっこよかった。アイナは思わずドキッとしてしまった。そう言えば、顔も精悍で大人っぽくなってきた気がする。


 そんなことを考えていると、横から「おーい。おーい。アイナかえってきて」とエラの声がした。アイナはハッと我に帰り、「そんなにゲッターさまのことをかんがえていたの?」とエラに言われ、周囲のみんなからニヤニヤされてしまった。その瞬間、アイナは今日一番真っ赤になった。


 彼女は心の中でぐるぐると考えを巡らせながら、「森に行ってくる」と言って立ち上がり、急いで森へと走り去った。

 森の中に入ると、アイナはしばらく自分だけの時間を過ごすことにした。

 木々の葉がささやく音や、風の匂いを感じながら、彼女は自分の心の中を整理しようとした。周囲の静けさを感じながら、アイナは自分の気持ちと向き合う。


 その日、森ではアイナの心のもやもやを晴らすかのように、普段より多くの動物が狩られた。



             ⭐️⭐️⭐️


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