第5話

あの殺人事件から、

1週間が経っていた。


警察は、

被害者・浜口エリカと、

容疑者・犬養さやかとの間に、

面識がないことなどから、

さやかの通り魔的な犯行と見ているようだった。


瑠璃子は、

珈琲を一口飲むと、

テーブルの上に置いた。


「ああ緊張する」


瑠璃子は、

くだんの事件で亡くなった、

前社長・エリカの後任として、

ネイルサロン「エクセレント」の

新社長に抜擢ばってきされていた。


新社長就任会見場には、

前社長の悲劇的な死だけでなく、

その後任の新社長が、

25歳の超美人と言うことで、

多くのマスコミが駆け付けていた。


また、SNSでは、

新社長・森原瑠璃子に付けられた、

愛称「モリルリ」がバズっていた。


すると、

瑠璃子の控室のドアをノックして、

社長秘書の川島明音かわしまあかねが入ってきた。


明音は真面目な顔で言った。


「社長。

会見まで、あと30分です」


瑠璃子は応えた。


「そうね。

ありがとう、明音さん」


川島明音は、35歳。

10年前に起業した、

このネイルサロン「エクセレント」の

創業メンバーの一人。


そして、

前社長のエリカとは、

大学の同級生である。


エリカが社長の時から、

秘書として、

エリカをずっと支えてきた。


新社長・瑠璃子にとっても、

頼もしい存在だった。


瑠璃子がそんなふうに考えていると、

明音が藪から棒に言った。


「社長は、

前社長の寵愛を、

ずいぶんと受けていましたね」


瑠璃子は言った。


「何?

どうしたの。明音さん」


明音は少しイラつきながら言った。


「私は、

前社長に10年お仕えしてきました。

前社長・浜口エリカは、

私の人生の全てでした」


明音の突然の告白に、

瑠璃子は狼狽うろたえた。


「明音さん。

いったい何の話?」


明音は無視して続けた。


「私にとって、

前社長は、

いいえ、

エリカ様は、

生まれて初めての推しでした」


瑠璃子は驚いた。


「え?

そうだったの!」


明音は続けた。


「しかし、

エリカ様に、

10年もお仕えしてきたのに、

エリカ様は、

社長、

あなたにばかり親しく接していましたね。

同じ女性だというのに、

こんな扱いは、

不公平ではないですか。

私があなたを、

どれだけ羨み、

どれだけ憎んだか、

あなたには分からないでしょうね」


瑠璃子は言った。


「明音さん。

あなたの気持ちは分からなくはないわ。

でも、

エリカ社長の寵愛なんて、

それはあなたの勘違いよ」


明音は瑠璃子の発言を無視して言った。


「そんなエリカ様が、

突然殺害された。

あの犬養さやかとかいう女にね。

社長、

あなたはあのさやかという女と、

お住まいがお隣だったそうじゃないですか」


瑠璃子は言った。


「そうよ。

でも、ただのお隣さん。

(本当は私の推しだけど)」


明音は見透かしたように言った。


「社長。

単刀直入に伺います。

あなたがあの女を使って、

エリカ様を殺害するように、

示唆した黒幕ですね!」


瑠璃子は目を丸くした。


「冗談でしょ!

私がそんなことするわけないじゃないの。

明音さん、一旦冷静になって!」


明音は苦笑した。


「私は至って冷静ですよ。

冷静に考えた結果、

あなたとあのさやかって女が、

結託して、

エリカ様の命を奪った。

そうに決まってるわ!」


瑠璃子は少し考えてから応えた。


「正直言うと、

私に全く動機が、

無かったわけじゃないことは認めるわ。

明音さん。

おそらく秘書のあなたなら、

気付いていたと思うけど、

私はエリカ社長から、

パワハラとセクハラを受けていたの。

そしてそのことで、

とても苦しんでいた。

だって誰にも言えなかったんですもの。

明音さん。

だけど、エリカ社長を殺害しようとまで、

思ったことはなかったわ。

本当よ。

信じて!」


明音は呆れたように言った。


「笑わせないで。

誰が殺人犯の言うことなんか、

信じるものですか。

もういいわ。

このままじゃ、

らちが明かないわね」


すると、

明音はポケットから、

果物ナイフを取り出すと、

瑠璃子に向けて、

突き出した。


瑠璃子は慌てて言った。


「明音さん。

とにかく、冷静になりましょう。

そのナイフを下ろして。

お願い!」


明音は悪魔のように微笑んだ。


「社長。

あなたは、

私の唯一にして、

最高の推し・エリカ様の命を奪った。

その報いを受けるべきなのよ!」


瑠璃子は声をあららげて言った。


「だから、

さっきから言ってるけど、

私はエリカ社長の殺害には、

一切関与していないの。

明音さん。

あなたの思い違いなのよ!」


明音は体を震わせながら言った。


「もう戯言ざれごとは聞き飽きた。

エリカ様のかたき!」


明音は、

果物ナイフを突き出したまま、

瑠璃子めがけて、

一直線に突進してきた。










  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る