0004 はっきり言っておかないとね
「アリアさんのお部屋にはあと三日で相部屋のコが到着する予定。のんびりよねえ」
それは同感。だって、入学式って五日後でしょう? 到着して荷ほどきして、必要な品を買いだしたりしていたらあっという間に式の当日がくる。のんびりか、ギリギリ好きか知らないけど私が早く着いたのは家がさっさと私を追っ払ってしまいたかったから。
「基本的な門限は二〇時よ。お祭の日なんかだと多少緩和されるわね。あとは……」
寮母さんは残りの決まりについては自身が口で言うより、と思ったのか冊子と学生証を見せてくれたので「あとで見てね」ということだろう。そうこうして部屋に着いた。
鍵を手の一振りで解除。扉を開けてくれたので私は荷物を持って中に入り、見渡してみる。寝食と学習の為の部屋、といった感じ。相部屋のコは、どんなひとかしらねえ。
「アリアさん、手をだして。鍵を」
「はい」
「……。うん、これでよし。さ、あとは荷ほどきしたり、買い物にいくならまた声をかけてちょうだい。ご両親からのお小遣いが届いている筈ですから。町の地図は要る?」
「要りません。私にお小遣いはないので。どうしても困ったら兄たちに土下座でもすれば見捨てはしないでしょうし「こんなの」でも一応、妹ですから。損得勘定はする筈」
「……。ねえ、ご家族が嫌い?」
「ええ。この世界で一番、大嫌いです」
ほんの少々、一秒さえ惜しく私は断言した。大嫌いだ。ニアリスだけ特別扱いで私を日陰に追いやっても自分たちは笑ってすごす、あんなやつら。私だけを見捨てた連中をなんの奇跡で私が好いてあげられる、というの? 世界がひっくり返ってもありえない。
つまり、世界なんてひっくり返らないから絶対に、ない。そんなの重々承知だわ。
これまでも、これからも、ずっと惨めに生きて誰の目にも留まらず。ただ息をして不気味につくり笑いを浮かべて淡々とすごして老いて、あとはひっそりと死にゆくだけ。
――そんなの、わかっている。
「……そう。お友達ができるといいわね」
「そんな必要ないものをつくる努力はしない主義ですので私はひとりで結構ですよ」
「強制はしないわ。ただなにかあったら遠慮せず言ってちょうだい。私には寮生たちを守る義務があるの。お兄さんたちもセルカディカ学園なら会うこともあるでしょうし」
それは、いやなことを言われたら言っていいってこと? 無駄だわ。あいつらも「核石だけは」立派だ。家族でこんなみっともない大きさ、どころか小ささの核石、私だけだもの。誰も私のことなんて守ってくれない。核石が見えないわけでなさそうだけれど。
でも、ちょっと、ほんのちょっとだけ嬉しいように感じてしまったのは私の浅ましさだろうなあ。ニアリスの下品さとは違う浅ましさ。いつか、核石が人並みになるかも。
いつか、この核石と私というひとを見て、認めて、必要としてくれるひとが現れるかもしれない。なんて、バカみたいなことを考えると同じだけありっこないと否定する。
否定するのは楽。夢に浸って現実に傷つくよりずっと楽で苦しくない。痛くない。
そんな
その方がありがたいし、ついつい裏があるのでは、と考えてしまう
これがニアリスだったらはち切れそうな鞄が二〇個でも足りなかったでしょうよ。
けど、私の場合普段着が数着と一応パーティ用に仕立てられたドレスだけしか衣服はないもの。あとは日用品ばっかり。それだって生活に必要な最低限の品ばかりだもの。
思わず、笑えてくる。むしろ、笑いしかでない。一度だけ仏頂面の長兄に習慣のつくり笑いを「気持ち悪い」と言われたことがある。……勝手すぎていっそ呆れるわよね?
家の長が家族会議で言い渡したことまで否定するなんて私からなにもかも奪う気?
せめて微笑みくらいは、例え薄気味悪くても「笑顔」くらいは自由にさせてほしかったのに。それすら、自由にならなくて。ひとり部屋にこもっている間だけ真顔に戻る。
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