序章:運命の足音 シーン②:心咲との偶然の出会い

シーン②:心咲との偶然の出会い

丘を登り切る手前、陽向は自然に足を止めた。足元には雑草が生い茂り、思わずそのまま進むことに不安を感じるほどだった。目の前に広がる景色は美しく、確かに古城は近くにあるはずなのに、道があまりにも細くて、あまりにも誰もいないことで、どこか自分が迷子になってしまったかのような気分になっていた。スマートフォンの地図を取り出してみたものの、電波が届かず、画面にはただ「通信中」の文字が出ているだけで、頼りにはならなかった。

「困ったな…。こっちで合ってるのか?」

その時、ふと静寂を破る声が響いてきた。陽向は驚いて声の方向に振り返った。草むらの向こうから、ふわりと現れたのはスリムな女性だった。彼女は一瞬陽向と目が合うと、穏やかな微笑みを浮かべながら歩み寄ってきた。その長い黒髪が風に揺れ、日差しを浴びるたびに艶やかに輝く様子が、どこか非現実的な美しさを感じさせる。彼女が持っていた小型のキャリーバッグが、その優雅な動きに調和しているようだった。首からぶら下げた聴診器も、何とも不思議な印象を与えた。

「お待ちください!そちらに進むと道がわかりづらくなりますよ!」

陽向はその声に少し驚きながらも、彼女の言葉を注意深く聞いた。彼女が立ち止まった距離で、陽向はさらに言葉を続ける。

「えっと…ごめんなさい。道を間違えてしまったかもしれません。」

その言葉に、女性は少し考えるように目を細め、そして穏やかな笑顔で返した。

「いえ、ここで迷うのは珍しくありません。この辺りは地元の人でも、入り組んだ小道で迷うことがあるくらいですから。」

その言葉はどこか落ち着いていて、陽向の緊張を少しずつほぐしてくれるものだった。都会の喧騒から逃げてきたはずなのに、この無人の風景と迷子の不安が交錯していた陽向にとって、その落ち着いた声がどこか安心感を与えてくれるように感じた。

「僕は…観光で来たんです。少し休む場所を探していて、古城の近くにいい宿があると聞いたので。」

陽向がそのまま話すと、女性は首を少し傾け、興味深そうに彼を見た。

「そうでしたか。初めての方なら、この先の道には注意してくださいね。私も時々通りますが、迷いそうになります。」

その言葉に、陽向は少し驚いた表情を浮かべた。

「え、そうなんですか?」

彼女は軽く頷き、そして手を伸ばして草むらの先を指し示した。

「私は心咲(みさき)と言います。獣医師をしていて、近くの牧場の診察に来ていました。」

陽向はその名前を聞くと、少し驚きながらも、自分の名前を名乗った。

「陽向です。よろしくお願いします。ところで、どうしてここに?」

心咲は少し深いため息をつくと、目を伏せてからゆっくりと答えた。

「最近、この地域で家畜の奇妙な病気が増えていて…その原因を調べているんです。でも、なかなか解決策が見つからなくて。」

その言葉に、陽向は彼女が背負っている重荷を感じ取ると同時に、何もできない自分に少し無力さを覚えた。

「大変なんですね…。僕に何かできることがあればいいんですが。」

その言葉に、心咲は一瞬だけ驚いた表情を浮かべたが、すぐに微笑みを浮かべて答えた。

「その気持ちだけで十分です。でも、気をつけて進んでくださいね。何かあったら助けを呼んでください。」

陽向は頷きながら、その微笑みを見送った。心咲が再び草むらの中に消えていくのを見届けると、陽向は少し心が軽くなった気がした。しかし、その言葉が心に残り、また古城の不思議な雰囲気と相まって、胸の中に小さな不安の芽が静かに育っていくのを感じていた。

シーン②終わり

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