第14話 ちょ、ま、え?

「ななみ、どういうつもりだ!」

「え―、だってぇ」


 秘密基地しりょうしつに持ってきていた椅子に七海を座らせ、湊は少し強めの声で七海を問い詰める。


 それに対しあいまいな答えを繰り返す七海に少し湊はイラついて、これまでよりも強い声で七海に言う。


「ななみがふざけてると俺が思って、みんなの目から外れた時に俺が離したらどうするつもりだったんだよ!」


 七海の足は真っ赤になっていて、いつものように足を組むこともしない。


「でも、よかったでしょ?」

「なにがだよ」

「えー、わかってるくせにー」


 七海が胸を張り、強調する。


「ちが――、じゃなくて!実際かなりひどいケガだろ?なんでふざけたんだよ!」

「チェッ、騙せると思ったのにぃ」


 答えをはぐらかす七海を見て、もう聞いても無駄だな、と思った湊は理由を聞き出すのを諦める。


「ほら、保健室行くぞ」

「やだ!それだけは絶対にいやだ!」

「なんでだよ!」


 保健室に行くのを断固として拒否する七海を不思議に思い、湊はそう聞く。


「むー、えー、どーしよっかなぁ。いおっかなぁ」

「はやく」

「わかったよ、せっかちなんだから」


 七海は一呼吸おいて、次の言葉を紡ぐ。


「あのですね、保健室に行くとですね、ボクのことを心配してくれまして……その、過剰に。それで、ですね」


 ちらりと湊を見る七海を見て、湊は続けて、と七海に言う。


「放課後?とかにですね、人がたくさん集まってくるわけですよ、ボクのまわりに。それがイヤでしてね、あの……、はい」

「なるほどな。めだちたくないと」

「はい、そうです」


 いつの間にか七海は敬語で話し始め、もじもじとし始める。

 その姿を見た湊は髪をぐいっと上げる。


「わかったよ。だけど、ちゃんと病院には行けよ?まじで」


 ぱああっと七海の顔が明るくなる。


「うん、わかった!」


 そのあとはいつもと同じ。

 ご飯を食べて、楽しく話して、また昼休みの終わりを示すチャイムが鳴る。


 そしてなんとか七海を教室に戻し、残りの授業を受ける。


 そして授業が終わり、穏やかな放課後が訪れる――――、と湊は思っていたのだが。


「一条くぅん?ちょっと話をしようか?」

「俺等の質問に答えてくれれば終わりだからさ?」

「ちょっと時間いいよね?」


 そう詰め寄ってくるB組――いや、ところどころ他の組の人も認識できる。


「ちょ、ま、え?」


 そして無理やりどこかへ湊は手を引かれて強制連行される。


 そんな光景を七海は面白く思うとともに、帰るときどうしよう、などと考えていた。




 〜〜〜


「はぁ、ひどい目にあった」

「仲良くなれたみたいでよかったじゃん」

「あのなぁ」


 あのあと何があったかというと。

 男子陣には七海との関係を問い詰められ、女子陣からは湊が何か答えるたびに黄色い歓声が上がる。


 特に大変だったのが七海と連絡先を交換しているのか?という問い。


 当然スマホを持っていない湊は繋いでいないと答えるが、栄町……いや、大多数の人は高校生にもなってスマホを持っていないなんて信じない。


 じゃあスマホを俺らに見せてみようか?、と言われても持っていないのだから仕方がない。スマホを持ってない、と答えれば、「見せたくない、つまり見せられない……ふぅん、そういう関係なのかぁ」なんて言われる。


「スマホ持ってないほうがおかしいんだよ、 ふつう。これでわかったでしょ?」

「体に刻めつけられたよ……」


 なんとか畑仕事で得た自慢の足の速さと体力で逃げ切ることができたが、かなり大人数から問い詰められるというのは疲れるのだ。

 そして湊の隣にいる七海は、保健室から借りた杖を使って歩いている。


(さすがに学校外では無理だからな)


 一応七海は湊をからかうためにお願い?をしていたが、さすがの湊でもそれは拒否した。


「やっぱスマホ、買ったほうがいいのかな」

「逆に何でもってなかったのか気になるけれど。院長さんももってたでしょ?」

「えーと、俺には連絡先を交換するような友達がいなかったのと……」

「たのと?」

「と、じゃないな。そこまで必要性を感じなかったってとこかな」


 それを聞いた七海はニヤッといたずらな笑顔を浮かべて湊に話しかける。


「じゃあ、今は必要なんじゃないのかなぁ?」

「えっと、つまりそれは……」


 湊の頭に古川や栄町に引っ越してきてから仲良くなった人たちの顔が浮かぶ。

 当然その中には、七海も含まれている。


「えーっと、もっと古川とかと親密にかかわったほうがいいってこと……かな?」


 頭に浮かんだ予想を何とか追い返して、湊はそう言う。

 しかしそれは正解ではなかったようだ。

 七海はぷくーっと頬を膨らませ、不満を表情に出す。


「そうじゃなくて。ボクだよ、ボク」


(あ、それでよかったのか)


 湊が追い返した予想は見事にあたっていたようだ。


「ボクと連絡先を交換してる人なんて、咲ちゃんとあと数人だよ?男子とだったら湊が初めてなんだから。こんなチャンス、逃すべきじゃないよ?」


 グイっと七海が顔を湊に近ずける。

 しかしもともと体勢が不安定だったからか、そのアピールプレイで後ろによろめく。


「危ないっっ!」


 よろめき、後ろに倒れそうになった七海を湊が支える。


「ふう、びっくりしたなぁ、まったくもう!」

「それはこっちのセリフだよ……」

「……それで、周りから注目集めてるけど大丈夫?」


 下校時間から少し遅れていたため生徒が少なかったのは幸いだが、近隣住民や数は少ないながらも生徒、そして一番好奇の目で見つめているのは……


「……先生」


 湊たちの体育教師であった。


(一番、見られてはいけない先生にっっっっっっ)


 体育教師といえば厳しく、生徒から嫌われているように思えるかもしれないが、この先生は青春バッチオッケー、超推奨‼いつでも相談に乗ってやるぞ?的な感じの先生なのだ。


(や、ばいぞ)


 救いを求めて体育教師を湊は見つめるが、きらきらと微笑みながら湊と七海を見ている。そして湊の視線に気づいたのか湊に向けて親指を立てる。


(いいぞ、じゃないんだよおぉぉぉぉぉ)


 湊はこの場にいるのがきつくなって、七海を背負って走り去った。

 ……それによって、さらに目立ってしまっているのだが、きっと言わないことが優しさというものであろう。



 何とか距離をとって七海を降ろす。

 そして息切れしている湊に七海が追い打ちをかける。


「次の日曜、一緒にスマホを買いに行こう?安心して、咲ちゃんも来るから」


 それを聞いて思わず湊は吹き出してしまう。


「ななみっっ!お前と咲穂でもう計画してただろっっ!」

「聞こえないねー?」

「ななっっ「それにもともとは……ボクの服……まぁ、ちょっと、いや結構かな?のセンスが全くないから咲ちゃんと一緒に買い物に行こうってだけだったし!みなとはついでだから!」


 結局湊は七海に押し切られ、日曜日は拘束されることが決まったのであった。




 ~~~


「ただいま」

「お帰りお兄ちゃん。お、今日は七ちゃんと一緒に来たのね」

「お邪魔するよ?咲ちゃん」


 そんなこんなで盛り上がる2人を差し置いて、湊はすぐにソファに向かい横になる。


「咲穂、今日は作ってくれないか?」


 それを聞いた咲穂は一瞬にして振り返る。


「なんでっっ!?」

「いろいろあって、疲れたんだよ。七海は足ケガしてるから、一人でやってくれ」


 それまでゆっくりしようと湊はするが、それは2人が許さない。


「お兄ちゃん!!」

「みなと!!」


 救いを乞うような目で、しかも顔がいい二人にそんな目で見られたら、普通の人ならイチコロなのだろうが、湊の中ではこれが普通なのだ。日常なのだ。


 ……しかし妹好きな湊だ。

 咲穂を見て重い腰を上げ、キッチンへ向かう。


「わかったよ」


 それを聞いた咲穂と七海は2人ハイタッチする。


「いやー、よかったよ。今やボクの胃袋は湊につかまれているからね」

「私も料理できないしー」


 そんな2人を見て湊は溜息を吐く。


「頼むから料理は出来るようになってくれ……」

「「普通冷凍食品だけでもいいんですー、おいしいご飯が食べたいだけなんですー」」


 姉妹のように息がぴったりな2人。


「まったく……」


 しかしそう言っている湊は、無意識に笑顔になっていた。


(ただの、夢であり憧れだった。昔のように3人でふざけあって、なんの不安もなくただ生きるのが。ふとした時に共に星を見上げ、笑いあえる友達にまた出会いたかった。また、あの時のような最高な日々を送りたかった。最高の感情を、また味わいたかった。……この栄町に引っ越すと聞いた時には、心が躍った。もしかしたら、またななみに会えるかもしれないと。期待した。体が成長しても、決した変わることのない日常ってやつを、味わいたかった。その夢は、いつの間にか叶った)


 湊は栄町に引っ越してくるときの気持ちをしみじみと思い出す。


(この景色を、ずっと俺の瞳に映したい)


 そう思った。




 ===

 第14話投稿しました!


 自分はろくに恋愛なんかしたことないので(どっちかというと相談される側でしたね…)読んだ小説や漫画などの情報しか知らないのでありきたりなパターンだな、とか現実性がない!とか思うかもしれませんがよろしくお願いします!


 投稿遅れて申し訳ございません……


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