私の薔薇色の人生~んなわけあるか!~

大黒天半太

私の薔薇色の人生と思っていたもの

 薔薇色の人生ラ・ヴィ・アン・ローズにも終りはある。


 私の将来は薔薇色だと、よく言われて来た。

 魔法が支配するこの世界で、魔法の才能スキルに恵まれた貴族の家系に生まれ、幼くして火・風・地の三属性魔法に目覚め、一族の秘蔵っ子として十分な教育と指導を受けて来た。


 長じて王立魔法学院に入ると、三属性魔法に加え、魔力操作コントロール魔力回復リカバリー才能スキルも発現し、学院でも一二を争う成績を常に期待されていた。


 卒業すれば、名のある魔導師ウィザードの塔に認められ、塔を登りつめる。或いは、王家に選ばれ、王宮魔導師ウィザードの道に進むのも夢ではない。心からそう思っていた。いや、そう信じていた。


 だが、現実はしょっぱくて厳しい。


 魔法学院での学年一位など、何の保証も裏書もないオモチャの勲章であり、採用時の期待値以上のものではないことを思い知らされる。

 毎年学年の数につき一人居て、魔法学院二百年の歴史で千人を越え、それを上回る力量を現場で示した卒業生、魔導師ウィザードは枚挙に暇がないのであるから、むべもない。

 貴族の家柄と魔法の名門の家系の血も、それによって積み上がった自分の能力で、実績を上げて、初めて意味を持つ。


 魔法の行使と応用は、実戦経験の差によって、文字通り天地ほどの差が開くし、任務の達成率も推して知るべしである。


 むしろ、誇って来た家柄は『良いとこのボンボン、お嬢ちゃん』『お坊っちゃま、お嬢様』扱いで、自分が下手を打てば、家が嘲笑の対象になりかねない。


 小さな仕事から一つ一つ確実に達成して、成功体験を重ねることが、自信を大きくしっかりしたものにしてくれる。

 経験と実績が培った自信は、更なる大きな挑戦に当たって土台として支えてくれるのである。

 それがわかったのは、実体験として理解した後のことだったのだが。


 現実に、大きな実戦に立ち向かうことになった時、私は根拠のない自信しか持ち合わせのない、ハリボテの魔道士マジックユーザーだった。


 指揮する上位の魔導師ウィザードの下に、ギルドの傭兵団に護衛された新米魔道士達マジックユーザー、魔獣討伐がその初任務だった。


 城壁に囲まれた地方都市近くの外れの森とは言え、街道から離れた森は鬱蒼としており、昼間でも暗く陽も差さなかった。

 既に、ほぼ同等の戦力で構成されていた第一陣の討伐隊は、あっけなく全滅している。


 手応えのある情報も掴めないまま進めば、森の中での遭遇戦となるのは、ほぼ必然の結果だった。

 ドラゴンのような強力な魔獣こそ出ないものの、ダイアウルフの群れと言うか三十頭あまりの騎兵団ゴブリンライダーに、一頭とは言えグリフォンの騎士ゴブリンナイトが指揮を執っている。


 上位の魔導師ウィザードや歴戦の傭兵団ならまだしも、学院を出たての魔道士達マジックユーザーの手には余る戦力だ。


 だが、その時の私は、根拠のない自信に支えられており、果敢な(客観的には無謀と言う)挑戦を試みた。

 選りにも選って、仲間と協力した地道な戦闘ではなく、派手な一手を打ったのである。

 即ち、ダイアウルフの騎兵団ゴブリンライダーではなく、グリフォンの騎士ゴブリンナイトを狙って、ありったけの魔力で火球ファイアボール を連射したのだ。


 結果的には、吉凶両面の、正直に言えば、吉が三分に凶七分となった。


 騎士ゴブリンナイトこそ焼け落ちて倒せたものの、制御コントロールを失ったグリフォンは手負いで暴れ回った。

 指揮官を失った騎兵団ゴブリンライダーの半数は、ダイアウルフが炎を恐れて逃げ去るのを制御できず、残る半数の十数頭は狂乱状態となって、思ったより手こずる結果となり、こちらの被害は増えることになる。


 魔力回復リカバリーの強引な行使で何とか回復させた魔力で、再び火球ファイアボールを連射し、グリフォンを撤退させ、ダイアウルフとゴブリンライダーを一組倒した。


 放った火球ファイアボールの数を考えれば、敵の半数を倒せる程だが、ゴブリンナイトとゴブリンライダーを一人づつ、ダイアウルフが一頭、それが私の戦果である。


 戦略も工夫も無く、ひたすら魔力回復リカバリーし続け、その魔力でただ火球ファイアボールを乱射しただけで、私の初陣は、終わったのであった。そして、私の薔薇色の人生ラ・ヴィ・アン・ローズも。


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