第6話 おままごとの解像度が高くなっている気がする

 グラウンドで陸上部が片付け始める。


 英里奈えりながこちらに向かって小さく手を振る。勇輝と姫奈ひめなはゲームに夢中なので、オレだけが手を振りかえす。英里奈えりながこちらに微笑んだ。



  ※



「ただいまーっ!」

「「「おかえりなさーいっ!」」」


 英里奈えりなが戻ってくる。


「汗かいたでしょ」


 オレがスポーツ飲料を渡す。勇輝から英里奈えりなの好きな飲み物を聞いて自販機で買ってきていた。


「ありがとう!」


 英里奈えりながペットボトルを受け取りながら後ろに下がる。


「どうかした?」

「なんでもない」


 勇輝が横から口を出す。


「そういえば今日お姉ちゃん声高いね。体調悪いの?」

「声の高さ関係ない! ほら……汗かいてるから。スプレーとかしてるけど匂いとか気になるし」

「気にならないよ」

「本当?」

「いい匂いするけど」

「それは冗談にしてもキモいって。もう行こう!」


 英里奈えりなの口調がくだけて仲良い雰囲気になる。



  ※



 下りの各駅の電車に乗る。まだ3時過ぎで空いてる。英里奈えりなは汗を気にして、オレから距離をとる。オレ、姫奈ひめな、勇輝、英里奈えりなの順で座る。


 遠足も帰路かと思うと名残なごり惜しい。


 勇輝が英里奈えりなに不満を漏らす。

「もう帰るの? まだ3時すぎだよ!」

「そうねぇ、どうしようか……。優人ゆうとお兄ちゃんは、まだ大丈夫?」

「全然大丈夫」

「うちの近くにあるアスレチック公園はどうかなぁ?」


 英里奈えりなの家は、あの近くなのか。姫奈ひめなに聞く。


姫奈ひめなはどう?」

「うん、私もまだ遊びたい」


 英里奈えりなに返事する。

「いいんじゃない?」


 勇輝が喜ぶ。

「やったぁ!」


 内心ではオレも勇輝と同じ気持ちだった。



  ※



 アスレチック公園は、住宅地の中にあり、それほど大規模なものじゃない。でも子供には楽しめるアトラクションが並んでいる。


 姫奈ひめなと勇輝は遠足用の服なので思いっきり遊んでいる。

 

 オレと英里奈えりなは制服なので、2人でベンチに座り、姫奈ひめなと勇輝を気にしながら話す。


「オレも前はここ、遊びに来てたよ」

「勇輝が好きだから、私は今もよくくるんだ」


 姫奈ひめなと勇輝が1周目を周り、勇輝が2周目に向かう。


 姫奈ひめながこちらへ走ってくる。

「お兄ちゃん、のど乾いたぁ!」

「走ると危ないから気を……」


 姫奈ひめなが土の上でどてっと転ぶ。オレが急いで向かうと、姫奈ひめなは自分で立ち上がる。


「大丈夫か?」

「うん、大丈夫」


 オレが腰を落として姫奈ひめなの服から土を払う。腕を見ると、肘から先の腕を地面で擦りむいて血が滲んでいた。


「腕とか動かすと痛い?」

「痛くない」


 大きな怪我ではなく大丈夫そうだ。でも半袖なので、腕を大きく擦りむいてて痛々しい。英里奈えりなに聞く。


「どうしよう? 病院へ連れてくべきかな?」

「まず消毒ね。姫奈ひめなちゃん、こっち来て」


 英里奈えりなは自販機でミネラルウォーターを買うと、姫奈ひめなの腕にかける。

「冷たいけど我慢してね」

「うん」


 オレがお礼を言う。

「ありがとう。手際いいね」

「うちの勇輝もよく怪我するから。病院へ行くほどじゃないけど、しっかり消毒しなきゃね」

「うん。じゃあ薬局へ行って……」

「近いからうちに来ない? 消毒液とか絆創膏ならあるから」

「いいの?」

「もちろん」


 英里奈えりな姫奈ひめなに優しく声かける。

姫奈ひめなちゃん、お姉ちゃん家で手当てしようね」

「うん」

「勇輝、もう帰るから忘れ物ないようにね」

「オッケー」


 さっきから心配そうに見てる勇輝も元気に返事する。英里奈えりな姫奈ひめなと手をつないで歩き出した。

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