第19話

すると、みるみる奥村くんの顔から笑顔が消えた。


そして、聞いたことのない低い声で、彼は「どうして?」と聞いた。



あまりの豹変ぶりに私が驚いていると、彼は一歩、また一歩と私に近づいて、手を取り、髪に触れ、


「なんで? せっかく穏やかに一緒にいられると思ったのに」

と呟いた。


「奥村……くん?」と言いながら、ふらついて手をほどけないでいると、顔を引き寄せられ唇が重なった。



驚いて息をすると、また重なって、彼は蝕むようにキスをした。


やっと離れたと思うと、彼は私を力強く抱き寄せた。



「梓……俺の大好きで、大好きで、世界一大切な梓……」


そういうと、またキスをした。


私は初めてじゃないけれど、その蕩けるようなキスに頭がさらに朦朧として立てなくなりそうだった。


このままじゃマズい、と思いながら、体を這う彼の手を振りほどけない。



「奥村くん……!」


と辛うじて彼の名を呼ぶと、彼と正面で目が合った。

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