第6話 蹂躙(後編)
「この……バケモノめぇぇぇぇぇぇ!!」
「!」
焦りを覚えた塚村は、“怪人”に向けて両腕を構え、手の平から紅白色の極太火炎を激しく放出。それをまともに喰らった“怪人”は、影しか目視出来ないぐらい炎に包まれた。
塚村の有するスキルは、魔力から生成された特殊な炎『聖炎』を放ち、どんな魔物だろうと体内の魔力ごと灰燼に帰す
戦闘訓練の時、彼女と対峙した小型・中型・大型の魔物でさえ、彼女のスキルの前では太刀打ちできず、消し炭にされるのを俺は何度も見ている。
その証拠に、『破聖のディアボロス』の死骸は、聖炎の力により、徐々に炭化してきている。
彼女のスキルの炎の前では、流石に怪人でも助からないと思っていたが、その予想は大きく外れることになった。
「………(ザ…ザ…ザ…)」
「!!」
極太の聖炎を浴び続けてもなお、“怪人”は直立を維持していた。やがて、聖炎を放出し続ける塚村に、ゆっくりと接近し始めた。まるで強風を発生する巨大扇風機の風力に耐えながら、無理矢理にでも停止させるように。
「おい塚村! もっと火力を最大まで上げろ!!」
「これで最大よ!!」
「……はあぁぁぁっ!?」
「………(ザ…ザ…ザ…)」
「何で!! どうして!! 塵一つすら残らないレベルの最大火力なのに、どうして倒れないの!?」
最大火力の聖炎を浴びても尚、“怪人”は未だ倒れず。塚村は動揺でパニックになりかけていた。痺れを切らした修一が駆け出した。
「やむを得ない……塚村、スキルを停止しろ!! 俺のスキルでアイツを片付けてやる!!」
「高田くん!!」
修一に告げられた塚村は、言われた通りスキルを停止させた。やがて聖炎は徐々に治まると、炎に包まれ、影しか目視出来なかった“怪人”が姿を映した。炎に包まれたのにもかかわらず、全身には火傷が一つも無かった。
「本来なら今、使う予定が無かったんだが、消滅しやがれクソ野郎!!」
「っ!!」
修一は怪人に急接近し、右拳に握り締めた剣に紫色のオーラを纏わせ、“怪人”に斬りつけた。
修一の有するスキルは、自身の部位や武器、魔法に即死のオーラを付与し、触れた相手を即死させるか、肉体と魂を完全に消滅させるという、最も強力で凶悪な
修一のスキルなら、怪人を瞬殺してしまうに違いないと俺は期待したが……
「………」
「………へっ?」
即死スキルが付与された剣をモロに受けたにもかかわらず、刃が通らず、何時まで経っても怪人は消滅しない。修一も、自身のスキルが効かないことに唖然とする。
「う……嘘だろ、アイツを殺す為に二カ月間蓄積した、消滅のエネルギーだぞ。それをまとも喰らって、何で平気なんだよ!?」
「………(キッ!)」
「!!」
(ゴギャァァァッ!!)
「ブゲハッ!?」
斬りつけられた“怪人”は、怒りが籠もったような視線で修一を睨みつけた次の瞬間、強烈な一撃を込めた拳を修一の顔面に叩きつけた。その一撃を喰らった修一の顔面は、余りの衝撃により、前歯が数本も抜け落ちていた。
「………(チラッ)」
「ひっ! す、すみませんすみません!! こ、降参しま……す……(バタッ)」
修一の余りの惨状に怯え始めた塚村は、恐怖のあまり何度も謝罪した後、失神してしまった。
残ったのは……俺と莉乃さんだけとなってしまった。
(俺があの怪人の気を逸らします。莉乃さんは此処から逃げて下さい)
(何言っているの、大智くん! そんなこと出来ないよ!)
(見たでしょ、あの怪人の強さ。俺のスキルで全員の全能力値とスキルレベルを最高値まで上昇させても、全く歯が立たなかった。俺でも勝てない気がする。貴方だけでも逃げて、援軍を寄越して下さい!!)
(で、でも……)
(早く!!)
(わ、分かった)
俺は小声で莉乃さんに撤退するよう説得する。莉乃さんは納得してないようだが、渋々了承してくれた。
『
「はあぁぁぁぁぁぁ!!」
「ッ!!」
俺は“怪人”の気を逸らす為に、全能力値を最高値まで上昇させて突撃した。その隙に莉乃さんは扉に一直線に向かい、逃走を図ったが……
「………(サッ!)」
「……え?」
(ドッ!)
「かはっ!!」
「!?」
“怪人”は突撃してきた俺を素通り。逃走を図った莉乃さんの位置に瞬時に移動し、うなじを手刀で打ちつけて昏倒させた。
――あの怪人、莉乃さんが逃走するのを察知して、阻止したのか!?
「この野郎!! 彼女から離れろ!!(ブンッ!)」
(スカッ!)
「!!」
俺は彼女を取り戻す為に、“怪人”に急接近して殴り掛かるが、瞬きする間に一瞬で姿を消した。
「…? …!? ど、何処に……上かっ!!」
(ダァァァァァァンッ!)
「ぐあぁぁぁっ!!」
俺は周辺を見渡し、頭上だと気付いた刹那、頭上に移動していた怪人が天井を蹴り、落下の速度を加えた威力のチョップを俺の脳天に直撃させた。
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「う……うぐ…ぐ……」
「………」
床が陥没する程の威力を備わったチョップをまともに喰らってしまった俺は、体が思うように動けず、意識を失いかけていた。
それを確認するように、怪人はジッと眺めている。
俺は意識を失う前に、最後の力を振り絞って口を開き、“怪人”に問いかけた。
「お前…は、一体、何者…なんだ……」
「………」
「何の為に俺達を……何の為に大魔石を……」
「………」
「魔族軍の刺客か? それとも、俺達と同じ…召喚された勇者…なのか?」
「………」
「……何時まで無言でいるつもりだ。質問に答えろ!!」
「……どちらも違う」
「ッ!!」
何度質問しても尚、無言を貫き通そうとする“怪人”に、俺は返答を急かすように叫んだ。すると“怪人”は初めて言葉を発し、こう返答した。
「俺は……『真の敵』を倒す者だ」
「……?」
返答の意味が訳分からず、俺は考える間も無く、意識を失った。
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