第2話 勇者対先代魔王と、その顛末

 わたしは『過去知』の術法を用い、過去を覗き込んだ。




*




『ふはは、甘いわ! 闇の槍ダーク・スピアよ!』


『くっ、さすが魔王ね! ディンク、回復をお願い!』


『わかりましたアオイ。御神の癒しの光ミディアム・ヒーリング・ライトよ、勇者アオイを照らしたまえ』



 この現場の、長くてほんの数十分かそこらの過去が、わたしの脳裏に映し出される。そこでは魔王っぽい化け物と、あの死にかけていた少女が戦っていた。魔王っぽい化け物は、本当に魔王だったらしい。そして少女は勇者だそうだ。何かいかにもありがちな、剣と魔法のファンタジー世界だった。


 ちなみに余談だが、ファンタジーと言うのは空想とか幻想とか言う意味であり、ファンタジーがイコール剣と魔法の世界、というわけではない。世の中には、幻想の域にまで至った科学、と言うよりも科学っぽい題材を扱った、サイエンスファンタジーと言う物も存在するのだ。これも略称は、サイエンスフィクションと同じくSFだが。


 それはともかくとして、勇者には仲間が3人ほど付き従っていた。1人は先ほど勇者を魔法で回復させた、いかにも神官っぽい青年。1人は黙々と魔法攻撃で支援する、魔法使いっぽい青年。そして最後の1人は勇者と並んで剣を振るっている、いかにも戦士っぽい青年だった。


 だがわたしの目には、勇者一行の連携が奇妙に見えた。なんと言うのか、魔法の支援は今一歩タイミングが遅く、戦士は腰が引けていてその攻撃は牽制以上には……いや、牽制にすらなっているか怪しい。何か勇者1人だけが必死になっている、そんな雰囲気があったのだ。




 なんと言うべきか、勇者のパーティーにしては何やら挙動が怪しい。




 やがて光り輝く勇者の剣が、魔王の胸板をつらぬく。



『ぐ、ほっ!』


『これで、終わりよ!』



 だが魔王はにやりと笑う。わたしの耳には、魔王の思念が聞こえた。


(魔王召喚魔法陣よ……。わが命を糧として起動せよ! ……くくく、わしが盗み出させた勇者召喚魔法陣を改造した、魔王召喚魔法陣。現れる新魔王は、わしよりも強大になることは必定! 新たな魔王に踏みつぶされるが良いわ。これがわしの命をもってする、最後の報復ほうふくよ!)



『何を笑ってるのよ、魔王!』


『く、くく。我が死すとも、いつの日か新たな魔王が現れる。その魔王が地上を滅ぼすのを、我は冥府の底から見て、嘲笑あざわらって、や、ろう、ぞ。は、ははは、はははは! ぐふっ……』



 わたしはあきれ返った。『いつの日か新たな魔王が』と言っていたが、お前が死に際にわたしを召喚したんじゃないか、魔王よ。『いつの日』もくそも、あるものか。……と言うか、わたしが新たな魔王!? ……冗談だろう?そんな大役は、ウチの大首領様とかに任せるべきだろう。


 と、そこへ勇者の声が響く。



『終わった……。長かった……。やっとこれで、これで元の世界に帰れる……』



 最後の方は、涙声になっていた。勇者は俯いて、両手で顔を覆った。そして次の瞬間、その唇から苦悶の叫びが漏れる。……わたしはなんとなくそれを予想していたため、驚きはしなかったが。



『ぐっ!?』


『悪いな、アオイ』



 背中から勇者を剣でつらぬいたのは、勇者の仲間であったはずの戦士だ。剣の切っ先は、勇者の心臓に達しているだろう。勇者は茫然自失しつつ、戦士に問いかける。



『ジャン、な、なんで……』


『あー、ちょっとばかり国に人質を取られてるんだわ、俺たち。すまんな』



 ちっとも悪いと思っていなさそうな口調で、戦士は笑いながら言う。それに続けて、魔法使いが淡々と言葉を発した。



『どうせ貴女を元の世界に返すことは不可能なんです。国は魔王ゾーラムを確実に倒すため、勇者召喚の魔法陣に手を加えたんですよ。……勇者を召喚する際に与えられる力を水増しする様に、とね。

 で、勇者の力を水増しする代わりに魔法陣から削られたのが、帰還の術式と帰還先の世界座標を記録する箇所だったんです』


『ぐ……。あ……』


『わたしたちは最初から、貴女が魔王ゾーラムを倒したら、不意をついて貴女を殺すことを命じられていたんですよ。そのためにわたしたちは貴女に付けられたんです。魔王を倒すほどの者が、万一復讐に来たら大変ですからね。聞こえてますか?』



 魔法使いの青年は、抑揚よくようの無い声で言った。だが、いかに平板な声であっても、その裏にあるあざけりは隠せない。……少々むかっ腹が立った。



『……』


『死にましたか。ディンク、聖剣を回収してください。勇者以外に聖剣を持ち運べるのは、神官である貴方だけですからね』


『……神よ、お許しを』


『へっ、何をいまさら。お前も同じ穴のムジナだってことを忘れんな。確かに家族を人質に取られちゃいるが、ムチだけじゃなしにあめもたっぷり与えられてるだろうがよ。金銭に地位に名誉ってな?さ、いくぜ』



 戦士が先頭に立って、謁見の間を出ていく。わたしがそのまま見ていると、勇者の身体を弱い光が包む。どうやら微弱な回復魔法の様だ。勇者が死ぬに死にきれず、足掻あがいているのだろう。


 だがそんな弱い回復魔法では、貫かれた心臓を修復することなどできないはずだ。やがて回復魔法の光が途切れる。だがその僅かな回復は、無駄にはならなかった。その回復魔法は、ほんのちょっとだけではあるが、彼女の生命を保たせたのだ。


 そして幾ばくかもしないうちに、身長3mはある恐ろしい化け物が謁見えっけんの間に入って来た。身体のあちらこちらに角やとげや刃が突き出ており、背中には大きな翼の様な物が生えている。更には全身に、眼の様な生体レーザー発生器官や生体熱線砲、生体粒子ビーム砲が……。




 えーと。……わたしだった。




 そう言えば、わたしは改造人間としての戦闘形態のままであった。一応潜入活動などもできる様に、人間形態になることも可能ではあるのだが。いや、人間の姿になるの、めんどくさいし。




*




 この後のことはわたし自身が知っている。見るべきものは見た。わたしは『過去知』の術法を打ち切った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る