召喚魔王様、むっちゃ頑張る ~悪の秘密結社の最強改造人間、魔王召喚されて異世界征服へ~
雑草弁士
第0話 プロローグ・ある秘密結社にて
唐突だが、数か月前にわたしは誘拐された。誘拐犯は、世界制覇を企む悪の秘密結社『JOKER』の手の者だったりする。というかそんな悪の組織が存在するのは、ちょっと古風なSF特撮番組の中だけだと思っていたのだが。
それはともかく、わたしはその組織に誘拐された。そしてお約束通り、戦力として改造人間にされた。わたしの改造人間としての出来栄えに満足した組織の科学者たちは、満面の笑みを浮かべて語った。
……わたしには最強の改造人間になる素質が眠っていたらしい。
わたしはただの、ちょっとばかり心の病を患っていたニート青年だったんだがなあ。ぶっちゃけた話、そんな素質はいらなかった……と言いたいところなのだが。改造手術の中で脳改造による洗脳が完了しているので、そんな事はかけらも言えなかった。
そう、脳改造である。洗脳である。その効果によるものだろう、わたしはこの組織『JOKER』に対して強固な忠誠心を持っている。と言うよりも、焼き付けられている。普通ならば誘拐されて改造されたのだから、悪印象を持ってもおかしくないはずだ。
だがしかし、さすが脳改造と言うところか。わたしはかけらほども、秘密結社『JOKER』への悪意は抱いていなかった。……まあ、仕方あるまい。こうなれば『JOKER』の世界制覇に、誠心誠意貢献するしかないだろう。
と、ここでわたしの改造を視察に来た最高幹部の1人である、グレイ・KING将軍が怪訝そうな声を上げる。
「見た目は恐るべき威容を誇っているが……。少しばかり、ごちゃごちゃしてはいないか? もう少し何というか……。すっきりとしたデザインの方が、格闘能力も高くなるのではないか?」
「ふふふ、ご心配には及びませぬぞ。最終調整前に、一度格闘戦の実戦テストを行わせております故に。これをご覧あれ。おい」
「はっ!」
わたしを改造した科学者グループの長、見た目は年老いてはいるがその頭脳は恐るべき物をもっているダーク・JACK博士が、部下に命じる。すると壁のスクリーンに、つい
うん、ちゃんと覚えてる。ウチの組織では一般の兵員として、生身の戦闘員の他に低位の改造人間、そして戦闘ドロイド……つまりロボット兵士を取り揃えて使っているんだが、そのロボット兵士を相手に無双したんだ、わたしが。無論、一般の兵員クラスに特別製の改造人間が勝ってもあんまり意味は無いんで、相手も特別に強化されたタイプが多数だが。
実のところ、わたしのテストで使い潰さずにソレを実際の作戦に用いたらどうなのかとも思うが。まあ何にせよ、スクリーンの中では最終調整前であるはずのわたしが、その強化された戦闘ドロイド多数を一瞬にして格闘戦のみでスクラップにしたシーンが映し出されていた。
「むう……。なるほど」
「ま、そういうことですじゃ。デザインがこう
科学者グループの長であるダーク・JACK博士の説明に、グレイ・KING将軍が頷く。ダーク・JACK博士は、更に続けた。ちなみにわたしは、薬液の満たされた巨大試験管みたいな水槽の中で、その話を聞いている。
この水槽は調整培養槽と言って、主に改造の最終段階に用いられる物だ。いや、改造の手法によっては初期段階から幾度か使われる事も無くも無いんだが。
「そしてこの改造人間の本領は、実のところ格闘戦ではありませぬ。中距離から遠距離戦における、大火力や精密狙撃による射撃戦闘こそが、こやつの本当の力ですわい」
「ふむ、了解した。で、実際の射撃戦能力の方はどうなっている?」
「額部を始め身体の各部位には、死角なく生体レーザー砲を装備。胸部中央の生体熱線砲、両腕の前腕部には生体粒子ビーム砲。他にも様々な遠隔攻撃能力を持っておりますわい」
「近寄られても、先ほどの映像の様にシャイニング・ACEに匹敵する白兵戦、格闘戦の能力はあるというわけか」
グレイ・KING将軍の言葉に、ダーク・JACK博士はにんまりと笑った。
「そのとおりですぞ。両腕の生体粒子ビーム砲は出力調整することでビーム剣の発生器官にもなりますじゃ。それに肘部から生えている刃を始めとして、全身至る所に生えている棘や刃は高周波
そしてこれまでは実験段階であった加速装置、いや生体器官ですから加速臓器、ですかな? 未だテストしてはおりませぬが、それも備わっておる故に無敵ですなあ」
「なんと!」
「守りも固いですぞ。全身を甲殻……強靭極まりない生体装甲板で覆っております。その上、万が一損傷を受けても頭脳などの重要部位が無事であれば、強力な自己修復能力で回復しますわい。
他にも各種様々な特殊能力を備えた、わしの……わしら『JOKER』科学陣の、最高傑作ですな。今までの最高傑作であったシャイニング・ACEなんぞ、ぺぺぺのぺい、ですわい」
「それは……。凄いな」
ダーク・JACK博士の自慢げな解説に、グレイ・KING将軍は言葉も無い。ダーク・JACK博士はさらに続ける。
「おまけと言ってはなんですが、長期間の単独行動に備えて補助頭脳を埋め込みましたでの。その補助頭脳には、わしらが知る限りの科学技術や、今現在表の世の中では失われてしまった奥義魔道の技術。それに一般的な知識として百科事典を丸ごとインストールいたしましたわい。
まあ他にも色々な知識を……」
「な、なに!?」
グレイ・KING将軍は驚いた。わたしもびっくりした。慌ててわたしが補助頭脳にアクセスしてみると、たしかに膨大な知識が詰まっている。わたしは巨大試験管の中で唖然としていた。
「ダーク・JACK博士、何故に『JOKER』の機密とも言える、貴殿の知る限りの科学技術や魔道技術などを!? たかが一介の改造人間に!? た、確かにそれだけの知識があれば、単独行動においても安心であろうが……」
「……本音を言わせてもらえば、わしはもう年寄りですからのう。自らの技術で改造に改造を重ねて生命を保ってはおる。だがしかし、いつまで保つか判らん。下手をすると、明日あたりポックリ逝くやもしれん」
「そ、その様な弱気な事を……」
「こやつがシャイン=エースを倒したならば、その後はこやつを後継ぎとして教育し、『JOKER』科学陣をまかせようかと思っておりますのじゃ。……いや改造するために調べてみてびっくりしましたわい。心を病むなどの精神面での弱さで芽吹かなかったものの、こやつの頭脳にはそれだけのポテンシャルがある!」
「な、なんと!?」
グレイ・KING将軍が驚愕の表情を露わにする。わたしも巨大試験管の中で愕然とした。自分ではそんなに頭が良いつもりは無かったのだが。ちなみにダーク・JACK博士はドヤ顔だ。
*
ぴこーん!
*
突然電子音が響き、部屋の奥の壁に飾られていたこの組織の紋章……その中央に埋め込まれた赤ランプが灯った。そして扉が開き、豪奢な長衣を纏った妖艶な女性が姿を現す。補助頭脳の知識によれば、たしかあの女性は……。
あの女性は、グレイ・KING将軍やダーク・JACK博士と並ぶ最高幹部の1人だ。大首領……様の秘書的な役割をしている……。いや、脳改造って凄いんだなあ。考えただけだって言うのに、大首領様を『様』づけしなきゃいけない気になってしまう。
「「ブラック・QUEEN女神官長!!」」
「お静かに。大首領様よりのお言葉がございます」
「「!!」」
わたしは思わず息を飲む。いや、巨大試験管の中で薬液に浸かっているため、飲んだのは薬液だった。とんでもなく不味い。
そこへスピーカーを通して声が響く。大首領様の声だ。
『よくやった、ダーク・JACK博士! かの怨敵、シャイニング・ACEを超える最高傑作の誕生を心から祝福しよう!』
「は、ははっ!」
『新たな最強戦士の誕生に、我自らそやつに名を贈ろうではないか! そうさの、わが組織の最強戦士なのだ……。よし、これより貴様は『ブレイド・JOKER』と名乗れ!』
ダーク・JACK博士もグレイ・KING将軍も驚愕する。わたしも驚愕した。まさか栄光ある我らが組織の名をわたしが冠することになろうとは。……もし改造前だったらプレッシャーに圧し潰されていただろう。
突然、調整培養槽から薬液が抜けていく。薬液がすべて抜けると、調整培養槽は床下へと引き込まれていった。
調整培養槽から解放されたわたしは、赤ランプが灯る組織の紋章に向かい、跪いて頭を下げる。というか、そうしなければならないと感じたのだ。繰り返しになるが、脳改造って凄い。
ダーク・JACK博士は感涙を浮かべ、グレイ・KING将軍は深く頷き、ブラック・QUEEN女神官長は相変わらず超然としている。そうだ、わたしは秘密結社『JOKER』の名を汚さぬよう、怨敵たる脱走者でヒーロー気取りのシャイニング・ACEを打倒し、世界制覇を成し遂げなくてはならないのだ。
脳改造の効果だろうが、わたしは自然にそう考えていた。
*
だがここで、異変が起きた。
*
『むっ!? なんだこの波動は!?』
「大首領様!?」
狼狽した大首領の声に、超然としていたブラック・QUEEN女神官長が、初めて動揺を露わにする。ダーク・JACK博士も慌てていた。
「馬鹿な! この本部基地は魔道的にも防御は完璧なはず! ……いや! まさか次元跳躍攻撃か!?」
「どういう事だ、ダーク・JACK博士!」
「次元を超えての魔道攻撃に対する防御は、基地建設当時、一応は想定してはおった。だが設置するための予算が通らなかったのじゃよ将軍!
予想される仮想敵は、各国の軍隊や警察、それに例の脱走者シャイニング・ACEの様に、この世界の中の敵だけじゃったのじゃ!」
わたしはこの急変した事態に対し、急ぎ3人の最高幹部の周囲に『抗魔結界』の術を行使した。補助頭脳に記録された魔道知識が、早速役に立ったのである。だが……。ついうっかりと言うか、わたし自身を守ることは完全に失念していたりした。
「ぶ、ブレイド・JOKER!!」
『おのれ、我が組織の戦力を奪い去ろうと言うのか!』
ダーク・JACK博士の悲痛な叫び、大首領様の怒りの声を背景にして、わたしの周囲に光の魔法陣が描かれる。わたしの補助頭脳の知識によれば、この魔法陣は未知の物であったが、強いて似ている物を挙げるとすれば召喚の魔法陣が近かった。
そしてわたしは暗黒の空間のただ中へと、吹き飛ばされたのである。
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