二話目 出動! そして、救助要請……
地下六階。
体育館ホールほどある空間の両脇に硬魂のコンピュータが鎮座している。二の腕くらいのコードが足元に入り組み、容易に歩くことすらままならない。
少しは整頓しろよとは思うものの不用意に触れることの方が恐ろしい。
津雲隊長はぴょんぴょんとうさぎのように進み。
これを作った彼女とその父親は、本当は宇宙人なんじゃないかと疑いたくなる。
「——さぁ、転送の準備だ」
津雲隊長はパソコンの電源をいれ、轟くシステムの起動音とともに、大型のエアコンが稼働する。
彼女がカチカチをマウスを動かしたあと、最後に強くenter keyを叩いた。
正面にある四方形の枠の中に紫色の渦を巻いたゲートが現れる。
「おぉ……」
「お前、何回驚くんだよ。いい加減なれろよ」
津雲隊長は呆れた様子で振り返り、デスクの上に腰をかけた。
「じゃあ、とっとと行って調査してこい」
「なんか、段々扱いが雑になってません? もう少し優しくして下さいよ」
「日頃の行いを振り返れば自ずとわかるはずだ」
自分の胸に手を当てて一瞬考えてみる。
しかし、何も思い当たるふしはなかった。
「ほんと、ムカつく」
ぼやいた彼女を放って、オレはゲートの真っ直ぐ前に立つ。
「ここから何処に出るんです?」
「海岸付近に落ちる手筈だ」
「えぇー、濡れるの嫌なんだけど。パラグライダーは?」
「お前らが使い捨てるせいで在庫切れだ。岩場に落下したいなら変えてやる」
「うぃーす。嘘でーす」
オレは忘れ物がないか身体をペタペタ触って確認したあと、ストレッチで体をほぐす。
「では、我々、いや私の為に! 行ってこい!
全く意味のないクラウチンスタートから駆け出し、
「アイキャン・フラァァイ!!」
と、オレは別の惑星へと飛び込んだ。
⭐︎
外に出て見えた景色は二つの青と、少し先にある緑に覆われた山。
そして、顔面に近づく空よりも濃い青色。
「…………いぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! これ死ぬ! これ死ぬぅぅ!!」
真っ逆さまに落下し、断末魔と共に水飛沫が上がった。
全身が海水に浸かり、頭が冷やされる。
今絶対、飛び込みの世界記録を越えただろ。
落下の直前に足先から落ちることに成功したが、痛み以外の感覚を感じていられない。
あいつ、帰ったら絶対泣かしてやるからな。
なんとか沖まで泳ぎ切ったオレは、
「——防水とはいえ、やっぱこれ重くなるじゃんか……」
首元から入り込んだ水をひっくり返して、木枝にかけた。
にしても凄いなぁ。ちゃんと森がある。
地平線の向こうに進む方が近く感じるほどの密林。人が羽虫と思えるような木が幾重にも連なっている。
獣に遭遇したら、裸のオレは格好の餌食だ。
最初に送られた調査員の仕事は現在地の安全の確認。明日までにオレの安否が保証されていれば、次の仲間が派遣される。
ここはちょっと日差しが暑いくらいで、全裸でいても恐らく問題はない。
最低限の食料はリュックサックに詰んであり、寝るのは適当にテントをはればいい。
初日は意外と暇で、誰も自分を咎める人は居ないから好き勝手できる。
……よし、遊ぶか。
オレはリュックからゲーム機を取り出して適当な木陰で遊び始める。
本来、一番最初に派遣されるということはリスクが高く、捨て駒にされるに等しい。
不祥事を記録し、後に来た人に対策をしてもらう。それを繰り返し、惑星に対する見解や知識を増やしていく。
良いやり方とは言えないが、オレはそれなりに気に入っていた。
だって、仕事しなくてもバレずに給料が貰えるじゃないか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます