一話目 出動! そして、救助要請……


 我々は、宇宙人だ。


 子供の頃、一本の映画を見た。


 宇宙人が登場開幕そう言った。

 パンデミックものだ。見て後悔した。無理矢理連れてきた親父に、死ね!と泣きべそかきなからキレた。


 ただ、親父は「宇宙人が自分から宇宙人って言うのは変じゃねぇか?」とぼやいていた。


 当時は、別に宇宙人なんだから宇宙人って名乗るのはおかしくないだろって思ってた。


 でも、彼らと同じ立場にいて気づく。


「——オレは、三河小路。人間だ!」


 声高々に、そう鏡の前で名乗った。


 ノックもせずに部屋の扉が開き、仲間の一人が呆れた顔でこちらを見ている。


「毎度、何やってんの? バカなの?」


「イメトレだよ。もし、知的生命体に出会ったらそう名乗るのさ」


「名乗るなバカ」


「じゃあ、我々は宇宙人?」


「名乗るなってそう言う意味じゃない。目立つなって言ってるんだ。危ない奴だったらどうするんだよ」


 逃げる。


 そう答えようと思ったが、流石にブチギレられると思ってこれ以上喋るのをやめた。


「隊長がお前を呼んでる。仕事だとよ」


「りょーかい」


 オレは一階の寮室を出て、エレベーターで地下五階に降りる。


 最端に『第一研究所』と書かれた看板が酷く傾いた状態で掛かっていた。


 部屋は足元が薄らと見えるくらいの光源しかしなく、棚にホルマリン漬けした瓶が並んでいる。


「——来たな。我々の望みは遂に叶うぞ」


 回転椅子をくるりと回した彼女は、嬉々とした表情でそう言った。


「我々の望み…………もしかして、あれが完成したんですか!」


「え?」


「男の願望、惚れ薬」


「いや、違……」


「コミュ症で同じくモテない貴方はきっと叶えてくれると信じてました!」


「……」


「あー、誰に使おうかなぁー。やっぱ金持ちに使った方がいいよなぁー」


 隊長は小柄な体をぷるぷると震わせ黙っている。


「どうしたんですか?」


「……し、死ね」


 なんで?


 ここは朝霞調報社。


 朝霞花木が起業した報道会社。会社自らが様々な研究・調査を行い。その結果を本の出版やラジオ、たった一時間程度のテレビで報じる。


 情報の蔓延るネット社会で、うちのような会社は毎度赤字が出なかったことに安堵する生活だ。


 ——転職したい。


 が、やりがいだけはあった。


「お前のせいで話がそれたが、知的生命体の存在する惑星を発見した」

 

 面白そうじゃん。


「とか言って、また生命体すらいない星に送る気じゃないですよね。もう騙されませんよ」


「すでに森と海が存在しているのを確認している」


「海まであったの? 宇宙世界での海じゃないですよね」


「あぁ。しかも、地球と全く同じ大気で、パンプキンスーツも不要だ」


「もう既に世紀の大発見じゃないですか!」


 隊長は小さな胸を張って、猪のように鼻から息を吐く。


「どうだ。凄いだろ」


「凄いっすよ! また欲をかいて、成果を独占しようとしているところがマジパナイっす!」


「君さ。本当は貶してるでしよ」


「気のせいです。でも、オレを呼んだってことはそう言うことなんですよね?」


「当然だ。私はあのクズの鼻パシを足で蹴り上げるためなら、なんだってしてやる!」


「そう決意してから、転落人生なのはウケますよね」


「黙れ、全部お前のせいだろ!」


 え、なんで? 関係ないやん。


 そう思いながらも、我らのリーダー朝霧津雲あさきりつぐもの鬱憤が消えるまで、オレは黙って頬をつねられ続けた。


 

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