しょうび調剤~マッチョな薔薇がお届けするあなたの色~
根古谷四郎人
第1話 はいズドーン!
「前から気になってたけど、お姉ちゃん香水つけてる?」
リビングでマンガを読みながら、美桜は大学2年生の姉、咲良に声をかけた。
「何で?」
「お姉ちゃんが動くとなんか匂うから。」
「え!?臭い?」
「違う違う!いい匂い。」
「あーそれはー……。え、美桜、彼氏でも出来た?」
「なんでよ!」
急に話を逸らした姉に美桜は反発する。その反応を見た咲良はますます面白がった。
「香水も良いですが、まずはメイクですぞ。拙者がお手伝い―」
「うちの高校はメイク禁止!お姉ちゃんも同じ高校行ったんだから分かるでしょ。」
「でも、友達とかとそういう話しない?」
「しない。大体―」
言いかけて、美桜はため息をついた。
「とにかく、彼氏はいない!いい匂いだったから気になっただけ。でももういい!」
「ごめんって。怒らないでよ教えるからさ。」
すっかりへそを曲げてリビングを出て行こうとする美桜に、咲良が謝りながら駆け寄る。そして、右手を美桜の目の前にぱっと差し出す。その瞬間、香りがふわっと鼻をくすぐった。目の前にあったのは、姉がいつも着けている真っ赤なシュシュ。
「……え?これ?」
「そうだよ。」
「てっきりハンドクリームとか化粧品の香りかと。」
「違うんだな~。しょうび調剤っていうとこで作ってもらった染料で染めたの。3年前にたまたま見つけてね。」
「調剤ってことは、薬局?」
「それが、薬は置いてないの。売ってるのは、その人だけの色と香り。だから美桜がお店に行っても、この赤色はもらえないよ。」
「なんだ。」
がっかりする美桜に、姉は何やら紙に書いて渡した。地図だ。
「逆に言えば、美桜の色がもらえるよ。百聞は一見にしかず!ね?」
「ここか……。」
咲良の地図を頼りにやっとたどり着いたのは、自宅から20分ほど歩いた路地裏にある小さな古い建物だった。薄緑の外壁はすっかり塗装が剥げ、ひびがあちこちに入っている。看板もかすれているが、かろうじて「しょうび調剤」と読めた。
「『あなただけのバラ色をお作りします。』……変なの。」
入り口に置かれた看板には、手書きでそう書かれていた。ドア越しに店の中を覗くと、姉の言う通り商品棚が無い。カウンターと椅子、ガラス瓶の入った棚があるだけだ。人もいないし、今日はお休みなのだろうか。
「で、でもせっかくここまで来たんだし。」
意を決してドアを開けた瞬間、
「ふわぁ……!」
鼻腔を抜ける、何ともいえない甘い香り。バラの香りだ。このお店、バラの香りで満ちている!しかも、よくよく嗅いでみると、1種類じゃない。ねっとりした甘い香りもあれば、優しい香りもある。気が付くと美桜は、夢中で店のあちこちを嗅いでいた。
「ふわー、いい匂い。」
「お気に召していただいて何よりデス!」
「ふぎゃあ!?うぎゃあああああああ!?」
美桜は二度驚いた。一度目は、後ろから急に男性の声がしたから。二度目は、その声の主が、カウンターにいつの間にか立っていた、頭がバラで体がガチムチマッチョの男だったからだ。
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