魔女学校の落ちこぼれマギーは恋人ができない

竹神チエ

謎の美少女現る??

 マギーは十三歳の女の子。

 魔女学校に通っているけれど、魔力はからっきし。

 授業は失敗ばかり。友だちだって一人もいない。


 そんなマギーにとって学校生活は薔薇色とは程遠いものだ。

 そしてこちらの色も薔薇色とは程遠い。


「さあ皆さん、媚薬は完成しましたか?」


 魔法薬学の先生はバッサバサの長いまつ毛をバッサバサさせながら生徒たちを見回した。恋の媚薬は魔女にとって基礎中の基礎のお薬。商売を始めるなら必ず陳列すべき商品だ。


 もしも上手に作れたなら、恋の媚薬は綺麗な薔薇色、ローズピンクに輝くはず。でもマギーの作った媚薬はというと……。


「あらマギー、一体何を混ぜたの⁉」


 先生は大声をあげる。


 マギーの作った媚薬はプスプスと沸騰し、色はどのローズじゃなくて真っ黒なドブ色だ。本当なら甘くかぐわしいローズの香りのはずなのに、マギーの作った媚薬は目がしみるほどの悪臭まで放っている。


 クラスメイトたちは大慌てで窓を全開し、パタパタとハンカチやノートを振って臭いを逃がそうと騒がしい。


「その、あのー。教科書通りに混ぜたんですけど」


 アレンジなんて一切加えていない。一つ一つ確認し、呪文も噛まずにちゃんと言った。混ぜる回数も速度もきっちり守ったのに、媚薬はプスプス沸騰するドブ色だ。


「あんなの誰も飲まないわ」


 気取り屋ダイアナが鼻をつまんで言う。彼女の作った媚薬は綺麗なローズ色。ううん、彼女だけじゃない。クラスメイト全員、美しい薔薇色の媚薬を完成させている。マギーはすっかり落ち込んで、めそめそと下を向いてしまった。


 最悪なことに、授業はこれで終わりじゃない。


 媚薬を完成させたら、お次は効能を確かめるため、魔女見習いたちは校外に出る。そして、めぼしい相手を見つけるとお手製の媚薬を飲ませるのだ。そうして、すっかり自分にメロメロになった相手を先生に見せ、評価を受ける。


 媚薬を使うなんて、そんなことしていいのか、というのは一般人の考え方。

 ここは魔女学校、何の問題もない。魔女と惚れ薬は相性抜群のアイテムなのだ。


 っていうのに、マギーのこのドブ色悪臭媚薬を誰が飲んでくれるだろう?


 だから授業が終わっても、マギーは先生のお願いして教室に残り、繰り返し媚薬を作り直した。でもどうしてもドブ色になる。一度だけ栗カボチャ色になったけど、悪臭はそのままだったし、良い香りが完成しても、見た目はやっぱりドブ色だった。


 そうして迎えた、次の授業。


 クラスメイト達はメロメロにした偽の恋人たちを、先生に紹介していく。気取り屋ダイアナは五人の恋人たちを引き連れて自慢げにしていたけれど、先生の評価はいまいちだ。


「ダイアナ、この人たち全員、ただ朦朧としているだけよ? これは惚れているとは言えないわ」


 ということで、やり直し!


 気取り屋ダイアナは顔を真っ赤にして怒っていたけれど、他の生徒たちだって似たようなもの。腕を組んでラブラブで登場した生徒もいたが、先生はすぐさま見抜く。


「媚薬を使ってないでしょ。元々付き合っている相手なのはお見通し!」


 なかなか手厳しい。


 けれど皆、誰かしらを連れてきている。


 マギーには媚薬を飲んでくれる相手も、媚薬を飲んだふりしてついて来てくれる相手もいない。だってマギーに友だちはいないし、恋人だっていないんだから。


 マギーは誰も飲まないドブ色の媚薬(悪臭だけは取り除けた)を手に、ハアとため息をつく。——と、窓をコツコツ叩く音に顔をあげる。


(あっ、ボーボー⁉)


 マギーの相棒、しゃべる箒のボーボーが柄で窓をコツコツ叩いているではないか。マギーはこっそり教室を抜け出し、ボーボーの元に急ぐ。


「こらっ、勝手に出歩かないって約束したでしょ!」

「でも主君っ」


 ボーボーはぴょこぴょこ跳ねる。


「主君のピンチは我のピンチでもある。だから我に任せろ、媚薬なんて必要ない。我は主君が大好きっ。我を見せれば先生も合格を出してくれるぞ!」


 マギーは想像する。

 わたしが媚薬で落とした相手はこの箒です♡

 ……そんなのクラス中の笑いものだ。


 でもボーボーの気持ちはうれしい。マギーだってボーボーは大好きだ。 

 だからマギーは授業ってことを強調して言った。


「ボーボーありがとう。でも媚薬の授業なんだから、媚薬の効果をちゃんと発揮しなくちゃ合格にはならないのよ?」


 今回の授業はマギー以外も苦戦している様子。まあマギーは媚薬すらまともに完成させられていないから、落ちこぼれなのは確定なんだけど……って、ボーボー⁉


「だったら我が媚薬になろうぞ!」


 そう叫んだボーボーはシュバッと宙返りしたかと思うと、着地した時には人間に大変身していた。しかも、とってもカワイイ美少女だ。


「主君っ、我がこの姿で獲物を捕獲してこようぞ。いざ参らんっ。待っておれ、獲物たちよ、ワーハハハッ‼」


 意気揚々と飛び出していこうとするボーボー。

 マギーはあわてて抱きつき止める。


「だめだめっ、どこに行こうとしてるのっ‼」

「むっ、この姿はダメなのか、主君。だったら美少年に……」

「どっちでもダメっ。早く箒に戻って‼」


 しょぼんとした美少女がシュルシュルと細くなり、あっという間に箒に戻る。


「主君、我はお役に立ちたいだけなのだぞぅ?」

「わかってるけど、わかってるけどー!」


 頭を抱えるマギー。


 謎の美少女(美少年?)が暴れ回る前に、今回の授業は早々にあきらめようと思うのだった。

 

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