勇者パーティーを追放された俺は、久しぶりに世界を救おうと思う。

夏のこたつ

第1話 追放

「お前はこのパーティーから追放だ」


討伐クエストから帰ってきて酒場で一段落していた俺に、同じパーティーの勇者であるカデンに、突然そう言い放った。


俺はエルリ。この勇者パーティーで回復師・・・いわゆるヒーラーというのをしている。主な仕事は怪我したパーティーメンバーに回復魔法をしたり、まあ、大体サポートだ。パーティーの役職の中でも重要な役職とも言える。


そんな俺は突然、パーティーメンバーから『クビ』を宣言されたのだった。


「な、なんでだよ?急すぎだし、冗談にしては笑えないぜ?」


「冗談なんかじゃねぇ、お前以外のメンバーの本音だ」


カデンはそう言いながら、座っている他のメンバーに目を向ける。

そんなカデンの視線の意味が分かったのか、メンバーたちはカデンと同じような表情を浮かべながら、


「エルリってさぁ・・・正直言って邪魔なだけなんだよね。アタシら、ゆーて怪我とかしないし、サポートも全部意味ないのばっかだもん」


「戦闘中はもちろん、ダンジョンの攻略の時とかもお荷物になってる自覚がないのか?メンバー全員から疎まれてるんだぞ」


魔法師のエイシリンと、盗賊のデインにも言われる。喋っていない他のメンバーも同じ意見だそうだ。


そう言われてもな・・・・・・特に何もするなっつたのはそっちなのに、なんで俺が責められんだよ。意味分かんねぇ・・・・・・・・・


「ということで分かったか?お前はこのパーティーにはいらねぇんだよ。だから―――――――――とっとと消えてくれ、お荷物くん」









そう言われ、さっさと酒場を出た俺。


なっっっっっっっんだよアイツらぁ!!!!

お前らがまともに戦えんの俺のお陰なんだぞ!?俺が常に回復魔法をメンバーに発動してるから怪我しないんだよ!!自分たちが強いとか、思い上がるんじゃねぇよ!!


路地裏の壁を思い切り殴りながら俺は、自分の黒くて長い前髪を掻き上げた。視線は、路地裏に捨てられていた薄汚れた鏡を向いている。


そこに映っていたのは、紅と蒼のオッドアイを持った俺の素顔が映っていた。

どれだけしても変わらない、生まれてからずっと同じままの瞳。

自分の顔を見ているとだんだん落ち着いてきて、ようやく状況の整理がつくくらいになった。


「普通に考えて、アイツら死ぬくね?ま、俺は悪くないけど」


薄情だと思われても俺、悪くないし。

勝手に追放して、勝手にクエスト行って、勝手に生活していく。

最早他人となった元仲間たちのその後を想像しながら、俺は賑わっている街を歩き回る。


「これからどうするか・・・・・・パーティーを探すか、いっそもう他の仕事するか」


腕を組んで悩む。だが、やっぱり他の仕事をしている自分の姿をが想像できない。

うーん・・・・・・騎士とかならできそうだし、騎士になろっかな。給料いいし、それなりにいい暮らしできそう。


「いや、騎士になるにはまず試験受からないとムリだ。めんどくせっ」


流石に試験受けるのはイヤだわ、体力に自信とか全くないもん。

このままだとお先真っ暗な人生に突入するしな・・・・・・困ったもんだ。


俺がそう悩みながら、店脇の段差に座ったその時だった。


―――――――――目の前に、女の子がいたのだ。

クリーム色の髪をハーフアップ?っていうのにしている、宝石みたいな紫色の大きい瞳が特徴的な、可愛らしい女の子。まあ、女の子って言っても17歳くらいだろうけど。


その子は俺の顔を下からじっくり眺め、しばらくしてすごい深く頷いた。

壊れた人形みたいだな・・・


「やっぱり!!ボクの魔力が反応したんだもの!!」


「えーっと・・・・・・お嬢ちゃんは迷子か?それなら駐屯所に・・・」


「あー!もう!気付かないの!?ボクだってー!!」


「え・・・新手のオレオレ詐欺?こわぁ・・・」


こんな小さい子まで詐欺する世の中だったんだな、今って。

引っかからないように気をつけよ。


俺がそう心に誓っていると、女の子は急に静かになった。

その子が纏っている雰囲気が、厳格なものに変わる。


「―――――――――伝説の勇者、アマラ。魔王から世界を救い、その実力と人間性を評価され、この国で最も強い騎士の地位を授かった最強の勇者」


女の子は静かに、そう言った。


女の子が言ったことは誰でも知っている、何百年前に世界を救ったとされる勇者の話だ。だが、その勇者の名前は誰も知らない。知っているのは、かつての勇者と共にパーティーを組んでいたメンバーだけ。


この子は一体―――――――――・・・・・・


「ボクはアスト。アストライア。アマラと共にパーティーで世界を救った、伝説の回復師だよ。久し振りだね、”アマラ”」


アスト、ライア・・・・・・。

伝説の回復師の、アストライア・・・・・・・・・。


「ああああああ!?アストか!?」


「気付くのおっそい!!転生しまくって感覚鈍ったの!?」


「ごめんって!!会うとか想像しないじゃん、普通!!」


アストライア、アマラと一緒に世界を救ったメンバーの一人と言われている。


「お前、男だったじゃん!性別変わってんの!?」


「転生してんだから変わることもあるに決まってるでしょ、逆にアマラはずっと男だったの?」


「うん、男だったわ・・・・・・んで、用はなに?わざわざ俺を探し出して、相当重要なことだろ?」


俺の質問に、アストは「そうだねー」と言いながら晴れやかな笑みを浮かべた。


「ボクらともっかいパーティー組もっ!!」

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勇者パーティーを追放された俺は、久しぶりに世界を救おうと思う。 夏のこたつ @natu_0106

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