第5話

 商店街はギルドとは別の意味でにぎやかだ。プレイヤーやNPCが入り混じり、あちこちで取引や雑談が行われている。露店では怪しげな薬からアクセサリーまで売られていて、見ているだけでも楽しい。


 私は防具屋に立ち寄ってみる。いま装備しているのは軽装アーマーだけど、もう少し防御力を上げたい……とは思うものの、重い装備は動きが鈍くなるから避けたいところだ。


 「いらっしゃい! スカウト向けの軽量防具なら、こちらがオススメでっせ!」


 店主NPCが元気よく声をかけてくる。並んでいるのは、革製品から金属を部分的に使用したものまでさまざまだ。


 試着可能なシステムがあるので、私はいくつか試してみる。


 (軽さと防御力のバランス……うーん、どれがいいかな)


 結局、いまよりほんの少し防御力の高い“レザーガード+2”というのを買うことにする。そこそこ高かったけど、レグラーナに行く以上、少しでも生存率を上げたい。


 「はい、毎度あり! あんたみたいに身のこなしが良さそうな子にはぴったりだよ」


 店主の言葉に軽く手を振りながら店を出る。次は回復ポーションやスタミナ回復系のアイテムを買い込んでおきたい。あのダンジョンでは長時間の戦闘が想定されるし。


 「いらっしゃいませ、どんなポーションをお探しですか?」


 ポーション屋の女性NPCがにこやかに迎えてくれる。ここでも品揃えをチェックし、体力回復の中級ポーションを10本、スタミナ回復の薬を5本ほど購入。さらに毒消しや麻痺治療薬などの状態異常対策も少しだけ。


 (よし、これで準備は万端かな。あとは……)


 食料はあまり必要ない。というのも、このゲームでは空腹システムはあるものの、そこまで厳しくはない。長丁場になりそうな予感がするので、念のため携帯食を数個だけ買っておけば十分だろう。


 商店街を一通り回り終えると、街の広場でクランが出発式のようなものをしているのが見えた。どうやらさっきの「ドラゴンスレイヤーズ」が勢揃いしている。多数のプレイヤーがそれを見物している様子だ。


 (おお……なんか盛り上がってるなあ。まるでお祭りみたい)


 そんな光景に一瞬足を止めたものの、私はすぐに踵を返し、別の方向へ歩き出す。ソロで動く私にとって、大人数のパーティはちょっと息苦しい。


 そうこうしているうちに、フレンドリストが点滅した。誰かがメッセージを送ってきたみたいだ。


 (誰だろう? リアルの友達はこのゲームやってないし……)


 画面を開いてみると、そこには「ユマ」という名前が表示されていた。


 「ユマ……あ、昔のゲームで知り合った人かな?」


 私は首をかしげながらメッセージをタップ。


 > 『久しぶり、コトハ。覚えてるかな? 前に別のVRMMOで一緒にパーティ組んだことがあるユマだよ。アーデント・オンラインを始めたって聞いて、検索してみたら見つかったから連絡してみた!』


 おお、そういえばそんな人がいたっけ。確か、私がまだ他のVRゲームをやっていた頃、たまたま野良パーティで一緒になって、息が合って意気投合した仲間がいた。


 > 『今度よかったら一緒に遊ばない? 私はまだレベル低いから迷惑かもしれないけど……練習に付き合ってくれると嬉しいな』


 (そうか……どうしよう。レグラーナ攻略を最優先にしたいけど、たまにはこういう交流も悪くないかも)


 私は少し考えてから、返信を打つ。


 > 『久しぶり! ユマ、アーデント・オンラインに来てくれたんだね。今私はちょっと大きめのダンジョンに挑もうとしているところなんだけど、落ち着いたら一緒に遊ぼうよ。よかったら街に戻ったときに声かけて。』


 メッセージを送ると、すぐに返事が来た。


 > 『ありがとう! 楽しみにしてる! レベル上げ頑張るね』


 ふふ、こういうやりとりはほっこりする。普段はソロでも、たまには人との関わりもいいものだ。


 (とはいえ、今は魔導都市レグラーナ……あそこに焦点を当てたい)


 決意を新たに、私は街の外へと足を運ぶ。いよいよ、本格的に出発だ。

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