第4話
ギルドへ戻ると、相変わらず活気がある。いくつものパーティがワイワイ騒ぎ、クエスト受注や報告をしている。その喧騒を抜け、奥の席を見ると……リドの姿はなかった。
(いない? さっきまであそこにいたのに)
私は少し拍子抜けしつつ、カウンターのNPCに声をかけた。
「ねえ、さっきの“ダガーのリド”って人、どこ行ったか知らない?」
NPCは腕を組みながら首を振る。
「さあな。さっきまではそこにいたが……払うもんを払わずに、どっか行っちまったらしい。酒代もツケっぱなしだとよ。あいつは昔からそうだ」
……おいおい、けっこういい加減な奴なんだな。少し不安になってきたけど、封筒だけ渡して情報をもらえないなんて困る。
「仕方ない……少し待てば戻ってくるかな」
そう思って、私はギルド内のテーブルで待機することにした。昼間だったせいか、プレイヤーも多く、情報交換にはうってつけ。
しかし、30分経ってもリドは戻ってこない。仕方なく、ほかの人に話を聞きながら待つことにする。
テーブルに集まっているプレイヤーたちに声をかけてみると、何人かはレグラーナの情報を断片的に教えてくれた。
「レグラーナの奥には魔術師たちが封じた結界があるらしい」
「いやいや、あそこには巨大な魔獣が守ってるダンジョンがあるんだぞ」
「とにかく死にやすいらしい。ソロで行くなんて正気じゃないぜ」
やっぱり人によって言ってることがまちまちで、情報が錯綜している様子。
(こりゃあ、自分の足で確かめるしかないか……)
ふと、ギルドの入口が騒がしくなった。見れば、先ほどの有名クラン「ドラゴンスレイヤーズ」のメンバーがどやどやと入ってきて、受付に集まっている。
「よし、全員そろったな! レグラーナ突入だ!」
リーダーらしき男性が声を張り上げると、周囲の冒険者たちは色めき立つ。みんな興味津々だ。
「お、始まるか? 見物だな」
「何人ぐらいで行くんだろう?」
ざっと見て二十人以上はいそうだ。さすが大手クラン、火力も回復もタンクもそろっていて、これなら雑魚敵も蹴散らせそう……だけど、あのレグラーナを本当に攻略できるのだろうか。
(まあ、私には関係ない話だけど)
そう思っていると、そのクランのリーダーが私のほうに目を向けた。顔見知りでもないはずなのに、何故かまっすぐこちらに来る。
「君、確かスカウト職だよね? よかったら一緒に来ないか? 我々は幅広く仲間を募っていてね。スカウトは貴重なんだよ」
いきなりの勧誘だった。驚きつつも、私はあいまいに笑って首を振る。
「ごめんなさい、私はソロで行くつもりなんで……」
リーダーは少し呆れたように笑う。
「ソロ? レグラーナに? そりゃ無謀だ。悪いことは言わん、やめときなさい。あそこはパーティでも全滅続出なんだぞ」
周りのメンバーからも「そうだそうだ」「若いうちは無茶をしがちだが……」などと口々に言われる。
「大丈夫ですから。お気遣いありがとう」
私は軽くおじぎして、その場を離れる。だが、クランメンバーたちは去り際に「気が変わったら声をかけて」と言い置いていった。
(スカウトという職業はパーティ戦では重宝されるけど、私はそっちに興味がないんだよね……)
しばらくしてもリドは戻ってこない。仕方なく私は、ギルドの一角で地図を広げ、レグラーナへのルート確認を始める。魔導都市そのものはかなり広大で、街区ごとにエリアが区切られている。
「城門から右手に進むと廃墟の塔があって……さらに奥に進むと……こっちが居住区の跡地? それとも商業区?」
重ね合わせのマップを確認してみるが、実際には入り組んでいる道が多くて、どこがどう繋がっているのか把握しづらい。
「うーん、やっぱり実際に行ってみないとわからないかもね」
地図をしまい、ぼんやりとギルドの喧騒を眺めていると、入り口のほうから見覚えのあるフード姿がちらりと見えた。
(あ、リド!?)
私は急いで立ち上がり、そちらへ向かう。しかし、フードの人物はすぐさま裏口のほうに姿を消してしまう。
「ちょっ、待って!」
私は人混みをかき分け、裏口から外に出る。そこには細い裏路地が続いている。足早に逃げようとするフードの男に追いつき、声をかける。
「リド! あなたが探してた小包、見つけたよ」
男はピタリと立ち止まり、こちらを振り返った。
「ああ……悪いな、用があって、どうしてもここを離れたかったんだ。封筒を返してくれたら、情報をやる」
そう言いながら、リドはこっちをじろじろと見回す。どうやら私が嘘をついていないか確認しているらしい。
私は背負っているバッグから封筒を取り出して差し出した。
「これでしょ? 中は見てないよ」
リドは確認するかのように封筒を開け、ちらっと中身を確かめると、ホッとしたように息をついた。
「なるほど、確かに俺のものだ。助かった。さて約束だ、情報を教えてやる」
ほっと胸をなでおろしかけた私だったが、ここで念押しが必要だと思い、言葉を続ける。
「お願い、レグラーナの詳しい情報が欲しいの。ボスがいる場所とか、結界がどうとか。あとユニークシナリオに繋がりそうなヒントがあればぜひ」
リドはうーん、と唸りながら、またしてもフードの奥でにやりと笑う。
「そんな大それたこと、全部は知らないさ。でも、俺が見たもの、聞いたものは教えてやる。まず、あそこは大まかに4つの区画に分かれている。塔や城壁のある外郭区、荒れ果てた居住区、魔術の研究施設だったらしい研究区、そして中心部の城郭区だ。どこもかしこも強敵だらけだが、中心部にはとびきりの化け物が潜んでるって噂だよ」
「化け物……」
「そう。で、研究区には昔の魔術師の残留思念か何かがあるらしく、結界のようなものが張られていて、そこを強行突破しないと先へは進めない。俺はそこまで行ったけど、ボロボロにやられて逃げ帰ってきた」
リドは苦笑いしながら、封筒を大事そうに抱える。
「結界を破るには特殊な魔道具が必要らしいが、詳しいことはわからん。うわさでは“賢者の石板”と呼ばれるアイテムがキーになるとか」
「賢者の石板……」
メモしようと思ったが、このゲームのシステムでヒントを覚えておけば、大抵は自動でメモ登録される。私は心の中で復唱し、しっかり認識する。
「それと、ユニークシナリオってのは、おそらく研究区か中心部で発生するんじゃないか。現に、一部の猛者たちがこっそり攻略を進めてるって噂を耳にしたからな」
これはビッグニュースだ。やっぱりあの場所には何かがある。
(よし、これは燃えてきたぞ!)
私は胸の中でガッツポーズをする。
「ありがとう、助かった。おかげで次の目標が見えてきたよ」
「はは、頑張れよ。あんたがそこまでやる気なら、俺は止めはしない。ただし、死なないようにな」
リドはそう言って歩き出す。どこへ行くのか、気になるけれど、今は追いかける用もない。私にとって必要だったのは情報だけ。
見送ったあと、私は一度装備を整えるために商店街へ向かおうと考える。この街には防具屋や武器屋、ポーション屋など、さまざまな店が揃っている。
(研究区か、中心部か……どのルートを通るにしても、まずは外郭区や居住区を抜けなきゃだね)
そして、その先にはどんなモンスターや罠が待ち構えているのか、想像するだけでワクワクが止まらない。
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