第77話 明るい城内

 城内は、随分と明るくなっていました。不必要に明るい、というべきでしょうか。

 どれだけの魔法の灯りが使われているのか、ちょっと本気で計算しないといけないほどです。

 私を出迎えるため……というよりも、討ち取ったお兄様やミランダお母様の幽霊が現れるのを恐れているようにも見えます。

 私のところに来たら一刀両断ですが、できれば話の一つも聞いてあげたいものです。

 案内され、応接の間に。通常家族が会って話をするような場所ではありませんが、そこに通されました。私の家だと応接の間は三種類五部屋あって、非公式で秘密なものから公式で家臣を集めたものまでありますが、その中でも一番大きなところでした。

「良く帰ってきました」

 私が帰着の挨拶をする間もなく、上座にいた母が立ち上がって言いました。貴族教育のせいで、その意味が分かってしまうのを、少し悲しく思えます。

 母が先に発言するのは私を上に置いているせい。立ち上がったのも同じです。

 つまり、本当に母は反乱を起こしたのでしょう。そして私は反乱の大義名分、というわけです。

 ミヤモト家では伝統的に剣聖の紋章を高く評価していますから、それで私が正統、という話になったのでしょう。またお母様が正妻だったのも、効いたわけです。

 首を動かすことは不調法なのでできませんが、見たところ、お母様の実家の騎士や貴族がいないところは良かった気がします。つまりあくまで、ことはミヤモト侯爵領、だけの話であると。

 母に返事をする前ですが、もう先輩とお茶をしたくなりました。

 居並ぶ騎士たちや家臣……中央から見た陪臣たち……がうやうやしく頭を下げます。呆れたことに九割ほどの部下がいました。お兄様やミランダお母様についた者たちはそれだけしかいなかったという事です。

「今、帰りました。お母様」

「事情を何も知らないあなたに、話をしなければなりません」

 お母様はそう言いました。何が起きてどうなったかはさすがの私でもおよそ分かってしまうのですのですが、様式美、というか、形式として説明しなければならないのでしょう。私ははい、と言って背筋を伸ばしました。

 居並ぶ家臣のうち、一人が音を立てて倒れました。私に襲い掛かろうとしていた貴族でした。

「私を襲おうとしていました」

 いちいち説明しないといけないことを煩わしく思いながら言います。倒れた家臣の身体が改められ、毒の短剣が出てきて直ぐに私の正しさが証明されました。この動きも、母の仕込みかもしれません。降伏したお兄様派の家臣に命じて、家を存続させるためにこのようなことをさせて、ことさら私の紋章が強く、正しいことを印象付ける、そういう話なのかも。

「剣聖紋は相変わらずのようね。手を動かしているところすら見えなかったわ」

 お母様はそう言って笑いました。私を手招きして、当主の座に座らせます。お母様は立ったまま、家臣たちに号令を飛ばしだしました。

 ああ、これはお父様も死ぬ方向かも。

 別にどうということはないいつもの貴族生活なのですが、学校を経験したあとだと、あっちのほうが楽しかったなあとう気がしないでもありません。

 まあでも、あの学校も両断してしまったし、王女は殺すつもりですし、人生は中々ままならないものです。

 お母様の差配に口を出すほど事情に詳しくもなく、私は頷きながら母の話を聞きます。この場は家臣たちへの説明会というていのようです。

 当然事前に根回しはあったでしょうから、多分に形式的なものです。


 さっき先輩と別れたばかりなのに、もう先輩に会いたくなりました。先輩が読書をしている様を横でじっと眺めて、お肉を食べたいです。

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