第64話 あくの剣聖さん
蘇った先輩は飢餓を解決したいなどと言い出しました。まあそれは分かるのです。前から言っていたことですから。
とはいえ、だがしかし。
え。首を切られてまで言う話ですか。
私が抗議の気持ちでにらんでも、先輩はのほほんとしています。駄目だこの人、危機感が、ない。
「王女から命を狙われてまで、この国の飢饉を解決する必要など、どこにもない気がしますが」
私が言っても、どこ吹く風という感じです。
「普通ならそうかもしれないね」
「先輩にはあるんですか」
「ある」
妙に力を込めて言います。それが面白くありません。もっとこう、私を可愛がるとか色々あるのでは。
「……一応聞いておきます。理由はなんですか」
「飢饉で苦しむ民には、上の事情など一切関係ない。もちろん、私の事情も関係ないだろう」
先輩は静かに言いました。先輩は自分をチェスピースの部品かなにかとでも思っているようです。自分を人間と思ってないのかも。
「だから、王家とミヤモト家の間を取り持って、飢饉対策に動きたいと」
「うん」
「認められません」
私はにべもなく答えました。
「そんなに飢饉対策をしたいのなら、うちの領地でやってください。以上」
「いやいや、ファルガナ国だけでどれだけの人がいると思っているんだ。それだけじゃない。ファルガナがどれだけの農産物を他国に輸出していると思っているんだ。ファルガナの安い食料は長年他国の食料自給を阻害してきた。今梯子を外されたら、問題はファルガナだけにとどまらない。連鎖的な食料不足が発生して世界的な食料不足が発生する」
「そんな理屈は聞きたくありません」
「猫ー」
「なんですか。それは? あの絵がなにか」
「ああいや、独り言だ」
良く聞こえる独り言もあったものですが、先輩は難しい顔で考えています。私を説得しようとか、そういうつもりのようです。
まあ、まったく説得される気はないのですが。説得確率〇です。むしろ絶対に説得されませんが、なにか。
先輩は私の顔をちらりと見た後、肩を落としました。
「逆に尋ねるが、どうして王家との関係を改善しないんだい? 貴族として考えれば、直ぐ答えは出ると思うんだが」
「私は貴族以前に剣聖でした。先輩が刺されて、それをはっきり自覚しました」
より正確に言うならば、王女が先輩の名前を呼んだ時に貴族の立場や貴族の損得より嫌悪が勝った。もういいだろうと思ったのだった。これより私は何よりも先に剣聖として生きる。先輩は私のもの。これはもはや動かない。邪魔するものは全部斬る。それの何が悪い。
私は言葉を続けました。
「剣聖としてお答えしますが、貴族が気に食わなければ貴族を斬ります。王家が気に入らなければ王家を斬ります。それだけのことです」
「もしかして、私の尋ね方が悪かったかい?」
先輩はそんなことを言います。私は横を見ました。
「どうでしょう。分かりません」
「機嫌を悪くしないでくれ。話がややこしくなる」
「ややこしくありません。むしろ過去一番単純です。あの王女は斬ります。邪魔するのは全部斬ります」
「まてまてまてあー。ややこしくなるという言葉が駄目だったか」
「し・り・ま・せ・ん」
私はすくっと立ち上げると先輩を部屋に閉じ込めました。話を単純化するためにまず王家とこの国を滅ぼしてから話の続きをしようと思いました。
紋章が真っ黒い光をあげています。そうそう。今の私の気分はそんな感じ。
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