第61話 現状把握した先輩
布を身体に巻くと、先輩は古代の賢人のよう。違和感がないのが不思議です。
「制服姿より似合っていますね……」
「着物により近いからね。さておき」
先輩は普段と変わらぬ様子で部屋を見渡しました。
「ちなみにここはどこだい?」
「ええと。今全力で私の領地に移動中です」
「なるほど」
先輩は少し考えて、苦笑しました。
「僕を助けて王女から避難中ってところかな」
「はい。そうです」
先輩の苦笑が、一段深くなりました。王女が失敗したな、という風です。実際そうなのですが、どういう気持ちなのだろうと思ってしまいました。
「それは悪いことしたね。このまま時間が開いて家同士の対立になるとまずい。僕が釈明しに行ってこよう」
私は先輩の手を握りました。
「この際王家と対立しても仕方ありません。先輩が第一です」
「軽々しくそんなことを言うもんじゃ……」
先輩は私の表情を見て、言葉を失いました。
私は口を開きました。
「軽々しくはありません。家も了承していますし、領民も巻き込む可能性も覚悟しています」
先輩は難しい顔をした後、天井を見ました。
「こじれたな」
「控えめな表現ですね。先輩は殺されかけたんですよ」
「まあ、あれはあれで彼女の愛情表現みたいなものだ。それ自体は大したものでは」
「不謹慎です」
私はベッドの縁に座って先輩の顔を見ないようにしながら、微妙に、僅かずつ近づきました。
「不謹慎でない、交際をすべきです」
「王女はそのあたりが歪んでしまっててね」
「王女の話なんかしていません、先輩の、先輩の話です」
「友人を選べというのはまあそうなんだろうが、どうせ学校を辞めるまでのつきあいだ」
本当に友人、なんですかと口から出かかりましたが、我慢しました。
「ならばもう大丈夫ですね。私が校舎ごと切断しました」
先輩が変な声を出しました。顔は見ていません。
「いや……ええと、王家とこじれるのはまずいだろう」
「覚悟は終わっています」
「その覚悟は助けられた側としては嬉しいかぎりだが、ミヤモト家に迷惑は掛けられない。校舎破壊は重いが、なんとか話をつけてみようと思う。悪いが学園に戻ってくれないか」
「駄目です」
私が言うと、先輩は一瞬言いよどみました。
私は先輩が何か言うのを止めて、一方的に喋ります。
「あ……あんな女のところにはやりません……よ?」
「なんで疑問形なんだい?」
「じゃあ、あんな女のとこには先輩をやりません。あと顔を見ないでください。恥ずかしいので」
自分で分かるくらい、真っ赤です。
先輩はううむと、うなった後頭をかきました。
「まあ、なんというか。ええとだね、王女とは身分差があって、そんな心配するようなことは」
「あります。むしろ、完全に先輩を我がものにしようとしていました」
先輩が反論する前に、私はもう一度、ありますと言いました。先輩は思案顔をしています。
「こう、まったくそんなそぶりは感じられなかったが」
「お言葉ですが、私が見たときには取り乱して、ヨ……先輩は僕のものだとか言っていました」
「私はものではないのだがな」
「そういう意味での感じではありませんでした。物扱いな感じでは」
「そうなのか」
先輩は熟考に入りました。私ではなく王女を選ぶかもしれないと、まあその時は先輩が真っ二つですが。
「王女がどういう心持だったかはおいといて、まずはミヤモト家と王家の対立を避けたいのだが」
「なぜですか。先輩は殺されかけたんですよ?」
「それについては感謝しきりだが、両家が対立しては飢饉対策ができない」
「? そこでなぜ飢饉が出てくるんですか?」
「自分がなんでここに生まれてきたのか、ずっと考えていてね。心残りを……飢饉を解決したいと思っている」
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