第59話 騎士戦

 夜のとばりに長いプラーナ光を残しながら、’’勇者の故郷号’’の追跡が始まりました。

 騎士級の中は揺れて地獄を見ると言いますが、この子は飛ぶように進んで、揺れることがありません。地面に脚がついた感覚がないから、実際飛んでいるんでしょう。

「すごいね。この子」

「これ、多分お貴族様が乗る君主級ロードクラスだよ」

「わあ。酒場の娘姉妹が乗るにはすごく、似つかわしくないね」

 まあ返しませんが。貰ったからには転売するまで私たちのものです。

 これだけで大金持ちではすまないはず。

「先輩、悪いことしてたのかなあ」

「してないわよ。ただ作っただけ」

 お姉ちゃんは断言しました。昔からこの人は確信を持って間違えることがあるので、私は目をすがめました。

「作る? 常習性の強い薬何を作ってたの?」

「その妄想から離れろって。あいつ夜中に騎士級ナイトクラスを作ってたのよ。入学から、毎日」

「先輩が騎士匠ナイトマイスターの紋章をもっていたってこと? あれ、でもそれだと変だよね。騎士匠は君主級を作れないって財産管理の授業で聞いたよ?」

 騎士匠の紋章は数百年に一人くらい出る紋章です。君主匠ロードマイスターはもっと珍しくて過去千年で二人しか生まれていません。しかもそのうち一人はエルフです。

 狐につままれた気分です。こっちにはいないけど。

「それができるから、ここにあるんでしょ」

「えぇー。なにそれ」

 先輩は両手が右手ではありませんでした。だったら、持っている紋章は一つだけのはず。

「???? それに、先輩お金持ってなさそうだったよ」

「ケチだったのよ」

「私たちにこれくれたのは?」

「うるさいなあ。いいから追いつくのに集中!! そういうのは私が考えるから!」

「完全に逆じゃない? その役割」

「うるさいうるさい」

 姉はまるで取り合ってくれません。お姉ちゃん、考え事は苦手だって騎士科に入るまでは宿題全部私にやらせていたのに。

 私は操縦席の左右の壁がしゅごーと迫ったり遠ざかったりするみたいに頬を膨らませました。まあでも、先輩がお金持ちなら私が嫁入りするのもいいなあ。お姉ちゃんには酒場をあげよう。うん。

 夜間用の偏光サングラスを下ろして夜間視界を得ました。そもそもこっちは浮いているから、ナイトキャリアーと同じかそれ以上に速度が出るはず。

 あとは、どういう経路で移動距離を短縮するかだな。

 操縦を機体任せにしてほとんど揺れないことをいいことに、私はそろばんを出して計算をしました。おおざっぱな見積ですが、ないよりマシなはず。

「この先、川があるから、その上を飛んでいけば多分追いつけるよ。お姉ちゃん。会合予想時刻は最大でも二十分くらい」

「そうもうまくいかないわよ」

 いつの間にか私の代わりに前方監視していたお姉ちゃんが言いました。

「敵がいるわ。二機」

 私は敵の姿を見ました。五kmくらい先でしょうか。道を塞ぐように二機の騎士級がいました。騎士でいうなら一分で到達する距離です。

 酷く太った、というか、道化のように見える丸い装甲を纏った機体です。縁には三角の模様が歯かなにかのように並んでいました。盾を持たない代わりに重装甲にしたようです。

 それが、大きな断頭用の両手剣を地面に突き立て、持っています。

’’こんばんは、殺し合いにはいい夜だね’’

 念話が飛んできました。私とお姉ちゃんだけじゃなく、この子も顔をしかめています。金属製なので表情はないけど。

「そう? 急いでいるんだけど」

 お姉ちゃんがそう返すと、笑いが返ってきました。

’’つれないこと言いなさんな。ああでも、返信してくれたから、機会はやろうじゃないか。今すぐ逃げるなら、襲わない’’

「さすが騎士さまって言われたいわけ?」

’’いいや脚の労働者フットワーカーさ’’

 会話が途切れました。お姉ちゃんが機体を止めたからです。賢明だと思いました。

「君主級では騎士級に勝てないよ。お姉ちゃん。しかも二機」

「逃げ切れるとも思えないけど?」

「……そうだね」

 こっちと違って向こうは地面を蹴ってその反動で加速し、速度を出せます。こっちにも脚はあるけれど、どちらかと言えば綺麗な脚であることが第一に求められているはず。貴族が背後に君主級を背負って演説するためです。他の機体より脚を長く作ってあるとも聞いたことがあります。

「どうしよう。お姉ちゃん」

「そういえば言い忘れたけど、あんた美の女神に誓いを立てたわよね」

 もう嫌な予感しかしません。

「加護の代償は、逃げないことよ。どんな戦いでも」

 なるほど。女神さまに呪いの言葉みたいなことを吐いていた意味が分かりました。

「謝って!!」

「誰がやるか。会敵エンゲージ

「わーん!! 会敵エンゲージ

 勇者の故郷が戦闘マヌーバを始めると、向こうはいい笑いを飛ばしてきました。そうじゃなくっちゃとか、なんとか。

 私はそれどころではありません。紋章とこの子の動きたがっている動作に合わせるだけで精一杯です。

 お姉ちゃんは機体にかけられたマントを投げ捨てると、盾と斧の装備で正面から最短距離で敵に近づきます。

 通常君主級は見栄えのために剣を装備しているのですが、この機体は片手斧。先輩はこの機体を戦場の立て看板にするつもりはなかったようです。

 そう、斧が一番なんだ。複座だから。

 お前は戦うために生まれてきたんだね。いいよ。私もお姉ちゃんもそういう紋章を持って生まれてきた。

「下半身は私。I have control.」

「I copy.you have control.」

 二機同時に突撃を受けないように斜めに位置取りして私は剣聖さんに鍛えられた紋章を全力駆動させました。ヘビーウェイトで機体が地面にめり込みます。八〇〇tを超えた荷重がかかっても勇者の故郷は警告ログ一つはきませんでした。

 大きめの丸盾で一機目の突撃を受け止めると相手の機体に体当たりして二機目の突撃の盾にしました。

「上半身は私がやるわ。I have control.」

「I copy.you have control.」

 お姉ちゃんが片手斧でもう一機の騎士級の頭を叩き割りました。下半身が使えないのに腕のスイングと武器の重さだけで一機撃破。さすが攻撃者の紋章です。

’’バカな!!’’

「舐めプなんかするから」

「こっちは急いでんのよ」

 二機の騎士級を相手に戦って勝てる君主級なんて話に聞いたこともありません。私は時価総額がいくらになるか考えて震えました。平和な時代が終わるのなら、どれだけ価値があがるのか。

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