第50話 反乱起きる

 ともあれ、お母様は味方に出来たと思う。めでたい話だ。

 あれ、でもそれだけ? この内容だけを急いで届けるとは、ちょっと信じがたい。

 受け取ったときに貰った箱の底を調べたら、ほんとにないからと書かれた紙が一枚でてきた。なるほど。

 それにしても、先輩とお喋りしたかった。

 先輩の顔をみないとしおれた羊歯シダみたいになってしまう。勉強をする気にもなれず、私は寝台の上で先輩の書いた猫なる生き物の絵を眺めた。大事な戦利品だ。

 そろそろ夕食かな。どうしようかな。面倒くさいなと思っていたら、火急の用件ですと押し問答する声が聞こえた。直ぐに着替えて、玄関へ向かった。

 やはりなにかあったのだろう。

 階段を下りる途中で吹き抜けのホールを見る。見知った姿があった。あれは領地騎士団の誰だったか。人だかりを押しのけるために家名を出した。

「ミヤモト家のイオリと申します。失礼」

「おひぃ様!!」

 騎士が、涙を浮かべていった。ちらりと紋章を見る。反応はない。荒事ではないのか。

「はい。なにかあったのですか」

「大声では話せませぬ」

「とはいえ、二人きりにもなれませんよ」

「はい。書類をしたためております」

「なるほど。こちらに」

 私が軽く見ると、押し問答は終わった。守衛たちは倒れた。

「こちらを」

 その場で火急の知らせを見る。


 反乱のお知らせだった。反乱か。反乱を許すほど弱い騎士団でもないはずですがと読み進めて、三度見した。

「あの」

「そこにある通りです」

 母が、反乱を起こしていた。既に父と城を制圧し、私の婚姻が決まるまでは自らが主権を握ると主張しているとあった。

 なるほど。なんでもかんでも剣聖の紋章のせいにしていたが、私の行動や性格の一部は母方の血筋が影響していた。

「ええと」

「ど、どうにかしてください……」

 脱力したか四つん這いになって使者を務めた騎士は言った。気持ちは分かる。夫婦喧嘩で侯爵領が荒れたら騎士団も泣くだろう。私は泣きたくはならなかったが、ひどい頭痛は感じた。大変不本意だ。

 お母様にそんな激情が眠っていたとは思わなかった。それにしても私の婚姻が決まるまでとは、つまりお兄様を差し置いて、私が家督を握るとでも言うのだろうか。それもおかしな話だ。お母様はお兄様も可愛がっておられた、と思う。

 少し考え、自信がなくなった。なにせ先ほどまでうちは夫婦仲良いほうだろうと思っていたのだ。まったく自分の見立てに自信が持てなくなった。

 なんでこんなことに。私が手紙を送ったせい? まさか。もしそうだったらいやだな。


 賊と違ってお母様を斬るわけにもいかず、私は困った。正直、斬ったり突いたりできないモノの相手は苦手だ。

「分かりました。」

 騎士が死にそうな顔をしているのでとりあえずそう言って、私はいったん待機させた。足早に歩きながら自分の手持ちの札を考える。こういう時に相談できそうな相手が先輩しかいないが、え。こんな話先輩にしてもいいのかな。

 ダメな気はするが、どうせ婿にするならまあいいか、という気もする。自分の紋章を見た。青く輝いている。

 まあ、そうよね。

 私の手札は一枚きり、それを使わない手はないわ。

 それで、夕食をとりやめて先輩のところに行くことにした。なんだかんだと言って先輩に会いたいだけ、かもしれない。

 先輩は男子寮だろうか。この時間だと部室にいるかどうか怪しいが、とりあえず部室に行くことにする。男子寮に押しかけるのは最後の手段にしたい。守衛を殺さないように手加減するのが面倒くさい。

 スカートの裾を持ち上げるために前をもって、小走りに。

 部室から光が見える。王女殿下がいないようにと祈りながら合鍵で扉を開けた。

 居た。先輩と目があった。

「ミヤモト嬢?」

「はい。そうです」

 なんだか間抜けなやりとりだと思ったが、他に返事のしようもない。

「別の人に見えましたか」

「制服姿でないと、まぶしく見えてな」

「ええと、褒められても何も出ませんからね」

 赤くなる頬を隠すために横を向いてそう返事した。うっかり照れ隠しに校舎を両断するかと思った。

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