第36話 外伝:ニューチャレンジャー!
どうも、文官候補生のハスコ(9)です。また会いましたね。なんて。
突然ですがうちの家はそれなりの規模の酒場兼宿屋をやっていまして。代々、戦士を輩出しています。話が繋がってないように見えますが理由があって、うちの初代とされる人は勇者に付き従って大活躍したとされる戦士なんですよね。それで平和になったあと、酒場の親父になったというわけです。貴族にもなれたらしいのですが、そんな柄じゃないと辞退したそうで。
おそらくはそれが良かったんでしょうね。うちの初代は天寿を全うできました。逆に貴族に召し抱えられた勇者や賢者はみんな家が続かずに滅んでますもん。まあ勇者の血は今の王家に残っているとか聞いたことはありますが。
そんな家系なので、当然右手の甲に現れる紋章は戦士ばっかりです。お姉ちゃんの持っている攻撃者の紋章は、血筋的にはかなり稀だと聞いたことがあります。この紋章、酒場の営業では喧嘩の仲裁くらいでしか役に立たないんですが、家系としてはものすごく大事にされています。
いつか勇者様が再びこの地に現れたら、その時も第一の友として馳せ参じるのだと。
お父さんもおじいちゃんも、本気の目でいってました。男の子はこういうときいいですよね。まあ現実問題勇者の紋章なんか、もう年百年かでてきていないんですが。それでもうちの家は、ずっと待ってるんですよね。おねえちゃんはそういう泥臭いのが大嫌いで、勇者よりいいチンポもってきたるわと家を飛び出していきました。いやもうほんとあの前のめりすぎてやべえ人生どうにかして欲しいです。
それで私は王立学園へ。ええ。姉の監視というか、転落防止柵みたいなもんです。ついでに私は酒場を継がずに文官になるつもりでした。おねえちゃんがことさら騒ぎ起こして家をでたのは、やっぱりというか、私に家を譲りたかったからだろうなあと。お姉ちゃん、自分の子供に戦士が出なかったらどうしようって、前にぽつりと言ったことがあるんです。でなくたっていいじゃないと、あの時大声で言えなかった私には、お姉ちゃんをフォローする義務があると思うんです。
ついでに王都でキャリアウーマンとかやりてえと思っていましたが、そんなん無理とは学校の最初のテストで知りました。
ああでも、最近は酒場継いでもいいかなと思いました。騎士科に、私より落ちこぼれている先輩がいたんです。アリマ先輩。私と同じ転生者です。江戸時代の人らしいです。確かに座ってる時背筋伸びてるし、口をぼんやり開けたりしないので、間違いないかなあと思います。前世の私は能をちょろっとやっていたんですが、お稽古の先生がまさにそんな感じだったのです。
正直アリマ先輩は、卒業しても就職困ると思うんです。そこでうちですよ。幸い先輩はものすごく計算が得意でトヨタって筆名で数学の本をだすくらいの人なんで、経理はばっちり。これだ、これだ。
「と、思うんだけど、お姉ちゃんどう思う?」
私は回想をやめてお姉ちゃんに尋ねました。今日はお姉ちゃん文官科にいます。なんでも騎士科は春の剣聖さん迎撃祭りとかで要塞化をやってるとか。お姉ちゃん、陣地作りとか致命的に下手な上にやる気もないのでこっちに逃げてきたというわけです。
お姉ちゃんはアリマがあんたの婿にぃ? とか言いながら、腕を組んで考えました。
「あの男、欲がないから酒場の親父でもひょうひょうとやるとは思うんだけど、あれが親戚になるのちょっとヤダ」
「いいじゃない。遺産の取り合いにならないかもしれないよ!」
「最初から遺産なんかいらんわ。遺産ってようは酒場への永久就職じゃない」
「姉妹でやろうよ!」
「い・ら・ぬ。というかうちらの代で潰しちゃえあんな家。酔っ払いがあんたの尻とか触ったらぶっ殺してやる」
「自分の尻触られて半殺しにしてたよねお姉ちゃん」
「手加減したのは今でも反省している」
「私はお姉ちゃんが殺人犯にならないでよかったって思ってるよ」
「大丈夫。官憲に捕まらなきゃいいのよ」
我が姉ながら犯罪者の鑑みたいなこと言ってて慄然とします。攻撃者の紋章が、そういう性格を助長しているのかなぁ。
「それで先輩はフリーなの?」
「フリーってなによ」
「お付き合いしてる人とかいない? 人気出そうだよね。あの人」
「あんた眼鏡の度があってないんじゃない?」
「え? この間変えたばっかりだけど」
「嫌味くらいわかれ。アリマは女性人気0よ。いや、大赤字よ。学科、特に数学とか物理とか操縦学を教えるのは教師よりはるかにうまいし、だから感謝してる人はものすごく多いんだけど」
「まって、それで人気でないってある意味すごくない? 変な性癖とかあるの? お尻触ってくるとか」
「そういう俗っぽさがあったら私も好きになれそうなんだけど、それがないのよ。なさすぎて気持ち悪い」
「世の中には優しいだけの人もいるんだよ。去年なくなったうちの街にいた太陽神殿のおじいちゃん神官とかそうだったじゃん」
「ああうん。それそれ。もうぴったり、今腑に落ちたわ。アリマが人気ないのはそれだわ。ノリが完全に聖者とかそんな感じ」
「おねえちゃんおじいちゃん神官が亡くなった時、わざわざ帰ってきて葬儀で大泣きしてたじゃん」
「人として尊敬すんのと、恋人にしたいは別なの。あんたもいい加減その違い分かりなさい」
「えー」
「えーじゃない。不幸になるのはあんただからね。アリマはあんたにも優しいでしょうけど、あんただけを愛したりはしないわ。だから反対」
「子供やお姉ちゃんも愛してほしいかも」
「愛の種類が違うっていってんだろ」
お姉ちゃんは私の耳をひっぱりました。痛い痛い。耳がエルフになる。
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