第15話 死体を探す剣聖さん

 それで、こっそり部室に入ろうとしたら鍵がかかっていた。仕方ないのでドアの鍵を爪の先で切断した。弁償は先輩に会った時にしよう。

 いつも先輩が座っている席に座って机を枕に座って寝ることにする。本は読まないが本の匂いは嫌いではない。そこに先輩のかすかな匂いが混じっている気がする。

 そのことに関して深く考えることもなく、私は即座といってよい早さで寝てしまった。この瞬間は私の社会生活問題など、気にならなかった。その考えが挟む余地もなく、安心して寝た。


 目が覚める。窓の外はもう暗くなっている。どれだけ寝たのか私は慌てて立ち上がった。布が落ちた音で、肩に上着が掛かっていたことに気付いた。

 背筋が凍る。これは、やってしまったかもしれない。


 私の紋章は私が寝ていても常時発動している。不埒な人間が近寄ってきたらそれだけで惨殺されているはずだ。しかも起きている時と違って手加減が効かない。

 先輩の死体を探す。あれ、ない。なんで?

 頭がぐるぐるする。冷静になろう。先輩を殺してないのは本当に良かった。さすがに今回は私が悪いので、殺していないのなら、幸いだ。

 死体をもう一度探してため息をつく。良かった。あれ、じゃあ私の肩に掛かっていた上着はなんだろう。


 王女殿下、だろうか。でも、王女殿下のご遺体もなかった。もちろんそれ以外も。

 王女殿下が気配を殺して私に近づいた? できるのだろうか。暗殺者の紋章を持つ者が持っている暗殺衝動を、私の紋章は敵意とみなして自動反応するはず。それに距離が近いほど、私の紋章が自動反応する確率が高くなるはずだ。ありていにいって王女殿下の実力では不可能だろう。

 一番ありそうなのは私が死体が残らない殺し方を覚えたということだ。便利そうだが人としてどうなのだろう。


 もう一度部室を見渡す。ないよね。よかった。上着を拾って、確認する。良く見ればこの上着、あちこち擦り切れている。

 上着を抱きしめてみる。先輩のような気がする。あれくらい弱いと私の紋章も反応しないのだろうか。

 上着を畳んで机の上に置き、思い直して持って帰ることにした。出入りの商人に依頼して、お詫びとして新たに作らせよう。鍵の修理も一緒に。

 慌てて寮に帰っていると、校庭の地面が濡れて雨の匂いがしていた。やっぱり先輩だったんだな。この調子だと雨季が来るのが早まるのかもしれない。実家に手紙を書いておかないといけない。

 使いをやって、出入りの商人を急ぎ呼び出す。午後も遅い時間だったが即座に第四番頭がやってきた。この人は商会における高級貴族相手の外販専門の人だ。無茶を聞くのが仕事なのでこちらとしては遠慮なしに使うことができる。

 依頼すると、髪に白いものがまじる第四番頭は言葉を選んだ。

「本当にお急ぎでしたら、既製服という手もありますが」

「きせい……服? ですか」

 第四番頭は恭しく頭をさげる。

「はい。庶民では身体に合わせて服を作るのではなく、いくつかある服に合わせて身体を調整するのです」

 まったく想像できない話だが、それはそれで大変そうだ。それにしても服を事前に作っているなんて、さすが王都という感じだ。規模感が違う。私の実家だったら、少なくない服がそのまま不良在庫になるだろう。

「方法は問いませんが、これと同じ大きさで作って欲しいのです」

「採寸をさせていただいても?」

「どうぞ」

 第四番等についてきたテイラーたちが即座に採寸する。襟を測っただけで終わったようだった。

 第四番頭が、解説をしてくれた。

「当商会の作ったもののようです。同じものは在庫がございます」

「良いものを用意できるかしら」

「それならば新たに作らせましょう。幸い型紙はございます。明日朝には間に合うかと。素材を良いものにすればいいでしょう。あと、擦り切れている場所を中心に補強をしておきます。加飾はあまりしないほうがよろしいでしょうか」

「それでお願いします。ああそれと」

「はい」

「錠前を一つ。丈夫そうなものを」

「衣装箱用でしょうか」

「いいえ。ドアにつけるようなものを。とりあえず」

「かしこまりました」

 一切の詮索をせず、第四番頭たちは帰っていった。彼らと話をしていると、学園は無駄ばかりだというのが分かってしまう。私も気をつけないと、洗練された所作を忘れてしまうかもしれない。

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