第10話
「ふう……なんとか片付いたな」
「はあ、はあ……思ったよりキツいわ。数が多すぎる」
エリスが息を切らしながら杖を下ろす。俺も汗が噴き出していた。こんな連中がまだ森の奥にいるかもしれないと思うと、身震いがする。
ふと、先ほどの少女のほうを振り返ると、彼は腰を抜かしたように座り込んでいた。
「大丈夫か? 怪我はないか?」
エリスが心配そうに近づくと、少女は何度もこくこくとうなずき、涙を拭う。
「す、すごい……魔女様……? こんなに強いなんて……」
言われてみれば、少女も杖を持っている。だが、あまり使い慣れていないのか、戦闘中は全然役に立たなかったようだ。
「お前、どうしてこんな森にいるんだ? それも一人で」
俺の問いに、少女は少し戸惑ったように視線を彷徨わせる。
「えっと……ボク、迷子、というか、逃げてきたんです」
「逃げてきた? 何から?」
「……村から、です。ボク、魔法を使うと変なことが起きてしまって……それで村の人に追い出されそうになって……」
なるほど、厄介な事情があるらしい。少女は魔法使いの素質を持っているが、何らかの理由で暴走させてしまい、周囲から恐れられているというわけか。
「そうか……名前は?」
「メイ……メイって言います」
メイと名乗った少女は、少し不安げな顔をしている。年端もいかない子がこんな場所を一人で彷徨っていたんじゃ、そりゃ魔物に襲われるのも当然かもしれない。
「メイ、ひとまず安全な場所へ移動しよう。このまま森を通り抜けるつもりだけど、君も一緒に来るか?」
エリスが優しく声をかけると、メイは驚いたような表情を浮かべる。
「え……でも、迷惑じゃないですか? ボク、魔法をうまく制御できないし……」
メイの眼差しには、どこか自分を卑下するような暗さがあった。まるで、自分の存在が他人にとって厄介なものだと思い込んでいるように見える。
「何言ってんだ。俺だって魔力を持ってるんだぜ。俺も最初は暴走しかけて大変だったんだよ。でも、こうしてエリスに教えてもらいながら、少しずつコントロールできるようになったんだ」
そう言って、俺はわざと指先にほんの少し魔力を灯してみせる。メイは目を丸くして、まるで珍しいものを見るような顔をする。
「男の人で……魔力? 本当にそんなことってあるんだ……」
エリスも微笑んで頷く。
「ええ、レオンは“魔男”なのよ。正式な資格や家柄なんてなくても、力を持つことはできる。メイ、あなたにもちゃんとした指導者がいれば、魔力は扱えるはずよ」
メイは一瞬うつむき、やがて意を決したように頭を下げる。
「……お願いします。ボク、魔法を捨てたくないんです。でも、どうすればいいのか分からなくて。もし、少しでもボクに教えてくれるなら……」
俺とエリスは顔を見合わせ、頷いた。こんな小さな子を見捨てるわけにはいかないし、俺たちも後々、仲間が増えるのは心強い。
「決まりだな。俺たちと一緒に来い。まずはこの危険な森を抜けて、近くの町で一息つこう。それから、ゆっくり話を聞かせてもらうさ」
メイは涙目のまま笑って、何度も頭を下げている。どこか俺が昔の自分を見ているような気分になる。周囲に馴染めず、力の制御もできず、自分の存在にモヤモヤを抱えていた――そんな時期が、俺にもあった。
「(よし、メイ。お前の力になってやる。俺だって、まだまだ修行中だが……そのぶん、エリスがいるからな)」
そうして、俺たちはメイを仲間に加えて森の奥へ進んでいく。周囲にまだ魔物が潜んでいる可能性は高いが、三人ならきっと切り抜けられるはずだ――いや、そう信じたい。
「エリス、気を引き締めて進もうぜ。ここでヘマはできねえ」
「ええ、分かってるわ。メイ、私たちの後ろをしっかりついてきてね」
「はい!」
ほんの少しの間だけ不安が胸をよぎる。それでも俺は剣を握り、メイとエリスに目配せをしながら先頭を歩き出す。
ザクザクと足元の落ち葉を踏みしめ、木漏れ日に照らされながら、俺たちの小さな隊列は森の奥深くへと入っていった。危険の先には何が待っているのか――俺は熱くたぎる闘志を感じながら、前へ進む。
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