第13話 迷宮の課題と新たな訪問者
お試し営業が成功し、迷宮に訪れる客も徐々に増え始めてきた。温泉や庭園を目当てにやってくる冒険者や商人、ヒーラーたちは、癒しを求めながらも迷宮の新しい魅力に期待している様子だ。
「この調子なら、迷宮の評判も広まるだろうな」
商人はチラシの反響を見ながら嬉しそうに呟いている。だが、俺はそんな簡単に喜べる状況ではなかった。お試し営業の課題がいくつも浮き彫りになり、運営の難しさを痛感していたからだ。
迷宮運営の最大の課題は、訪問者のルール遵守だ。営業初日に冒険者たちが花畑に勝手に入った件もそうだが、訪問者全員が迷宮を癒しの場として尊重するわけではない。
「ルールを破るやつは後を絶たない。何かもっと直接的に罰を与える仕組みが必要かもしれないな……」
俺はガイドを呼び出し、新たな仕組みを検討し始めた。
《提案:迷宮内の監視システムを強化し、違反者には即時罰則を適用することが可能です》
「監視システム? それはどういうものだ?」
《迷宮内に魔力感知装置を設置し、ルール違反が発生した場合に警告を発する機能です。また、必要に応じて侵入者を拘束する小規模な罠を自動的に作動させることも可能です》
「それだ!」
俺はすぐに魔力感知装置を迷宮内に設置することを決めた。必要な資源を集め、魔力炉を利用して装置を起動させる。
迷宮全体に設置された魔力感知装置は、エリアごとに侵入者の動きを監視し、ルール違反が発生した際に俺の元へ即座に通知を送る仕組みだ。
「これで迷宮の秩序は守られる。訪問者たちも簡単にはルールを破れないだろう」
設置作業を終えたその日、迷宮に新たな訪問者が現れた。
今回の訪問者は、上品な服装をした貴族風の男と、その護衛と思われる二人の戦士だ。貴族風の男は迷宮の入り口で立ち止まり、掲示板をじっくりと読み込んでいた。
「ここが噂の癒しの迷宮か……興味深い」
男は軽く笑みを浮かべながら迷宮の中に足を踏み入れる。その様子を見た俺はすぐに警戒態勢を取った。
「貴族か……商人が広めた噂が思ったよりも広範囲に届いているのかもしれないな」
俺はシャドウハウンドを派遣し、彼らの動きを探らせた。
貴族の一行は温泉エリアに到着すると、男が興味深そうに湯気が立ち上る光景を眺めていた。
「なかなかいい場所だ。これを利用する冒険者たちの気持ちも分かる」
だが、護衛の戦士たちは迷宮の様子を警戒しているようで、温泉エリアを見回りながら小声で話している。
「おい、本当にここが安全な場所なのか?」
「分からんが、主人が楽しんでいる以上、俺たちも気を抜くわけにはいかん」
俺は物陰からその様子を見守りながら、どう出るべきかを考えていた。貴族風の男がただの客なら問題はないが、彼がこの迷宮に別の意図を持っている可能性も否定できない。
温泉エリアで休憩を取った後、貴族の一行は庭園エリアへと足を運んだ。美しい花々が咲き乱れる光景を見た貴族風の男は、満足げに笑みを浮かべた。
「これは素晴らしい。だが、こんな場所が誰の手によって運営されているのか、気になるところだな」
その言葉に護衛の戦士が頷きながら答える。
「主人、この迷宮の主に会いたいのですか?」
「当然だ。このような迷宮を管理する人物ならば、ぜひ顔を合わせて話をしてみたいものだ」
彼の言葉を聞いた俺は深く息をつき、姿を現す決意をした。迷宮の主として、訪問者と向き合うのも俺の役目だ。
俺が姿を現すと、貴族風の男は驚きながらも落ち着いた様子で俺を見た。
「ほう、君がこの迷宮の主か。噂に聞いた通り、なかなか興味深い人物だな」
「何の用だ?」
俺は彼を警戒しながら問いかけた。男は穏やかな口調で答える。
「私はただ、この迷宮に興味を持った一人の訪問者だ。だが、この場所の価値を高める提案ができるかもしれない」
「提案だと?」
「そうだ。この迷宮は癒しの場として素晴らしいが、それだけでは終わらない。君が望むなら、私の力でこの場所をもっと特別な存在にしてみせよう」
その言葉に、俺は新たな挑戦を予感すると同時に、一層の警戒を抱いた。
貴族風の男の意図はまだ掴めない。だが、彼との出会いは迷宮の未来に新たな展開をもたらすのは間違いないだろう。
「さて、この男の提案にどう向き合うべきか……」
俺は湯気に包まれた温泉を眺めながら、小さく呟いた。癒しの迷宮はまた一つ、未知のステージへと踏み出そうとしていた。
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