第9話 侵略者を客に変えるアイデア
自然庭園エリアが完成し、迷宮は新たな段階へと進化を遂げた。広がる草花、湧き水の流れる音、そして優しい光――温泉エリアに続いて、この庭園もまた、迷宮を特別な場所にしてくれる要素になるだろう。
「だが、この庭園をどう活かすかが問題だな……」
俺は庭園の中心に座り込みながら、これからの計画を練っていた。癒しの迷宮として認知されるには、さらに何かが必要だ。ただ癒しを提供するだけでは侵略者が後を絶たない。だからこそ、侵略者を「敵」ではなく「客」として迎え入れる方法を考える必要があった。
その夜、ゴブリンとインプ、シャドウハウンドと一緒に温泉エリアでくつろいでいると、ふとアイデアが浮かんだ。
「侵略者が癒しを求めて迷宮に来るなら、こっちから癒しを提供する施設を作ればいいんじゃないか?」
俺は興奮しながら立ち上がり、ガイドを呼び出した。
《新たな施設を登録しますか?》
「もちろんだ! 癒しの迷宮をさらに魅力的にする施設を探してくれ!」
画面にいくつかの選択肢が表示された。
1. 「休息の館」:侵略者が滞在できる安全な場所を提供
2. 「迷宮カフェ」:飲み物や食べ物を提供する施設
3. 「癒しの池」:特別な回復効果を持つ水辺エリア
「どれも面白そうだな……」
迷った末、俺は「休息の館」を選ぶことにした。この施設を使えば、侵略者をただの敵ではなく、迷宮の滞在者として迎え入れることができる。滞在中に迷宮のルールを伝え、協力関係を築くことも可能だろう。
《休息の館を建設するには次の資源が必要です――木材50、石材30、魔力結晶15》
「また資源か……でも、これは絶対必要な投資だな」
俺はゴブリンとインプ、シャドウハウンドを連れて迷宮内を探索し、必要な資源を集めることにした。これまでの経験で資源集めにも慣れてきた俺たちは、効率よく迷宮の隅々を回り、必要な量を集めることに成功した。
資源を魔力炉に投入し、休息の館の建設を開始すると、迷宮全体がわずかに震え始めた。
「来るぞ……!」
数分後、庭園エリアの隣に立派な建物が現れた。木材と石材を組み合わせた、どこか温かみのあるデザインで、周囲の自然と調和している。
「これが休息の館か……すごいな」
館の内部には簡易的なベッドや椅子、そして温泉エリアから引いた湧き水を使った小さなプールまで備えられていた。
《休息の館が完成しました。この施設では侵略者を滞在者として迎え入れ、癒しを提供することができます》
「よし、これで迷宮の魅力がさらにアップしたな」
休息の館を試す最初の機会は、意外にもすぐに訪れた。その翌日、またしても人間の影が迷宮に近づいてきたのだ。
「侵略者か……いや、もしかして……」
俺は慎重に様子を伺いながら、侵略者たちの動きを確認した。今回は2人組で、剣士と魔法使いのようだ。
「ここが噂の癒しの迷宮か……本当に温泉があるのか?」
「確かだよ。冒険者ギルドでも評判になってるし、噂だけで帰るのはもったいない」
どうやら、俺たちの迷宮が「癒しの場」として広まり始めているらしい。侵略者ではなく、興味を持って訪れた冒険者たちのようだ。
俺は彼らに危害を加えるつもりがないことを示すため、迷宮内のモンスターたちに攻撃を控えるよう指示を出した。そして、温泉エリアで待機していると、剣士たちが驚きながらやってきた。
「こ、これが本当に迷宮の温泉か……すごい!」
剣士たちは湯気の立ち込める温泉を見て感動している様子だった。俺は温泉の隅から声をかけた。
「ようこそ、癒しの迷宮へ」
驚いた様子で俺を見る彼らに、迷宮のルールを説明した。癒しを求める者には迷宮の施設を自由に使わせること、ただし迷宮を荒らしたり、敵対行為を行えば容赦しないこと――。
剣士たちは頷き、温泉で疲れを癒した後、休息の館に向かった。
「これで侵略者をただ敵としてではなく、客として迎えられる……」
俺は休息の館の完成に満足しながら、新たな可能性に胸を膨らませた。これからの迷宮運営は、戦いだけではなく、癒しと交渉を軸にしたものへと進化していくだろう。
「次はもっと大きな仕掛けを考えるか……」
俺は新たな目標を見据えながら、迷宮全体の地図を眺めて次の一手を考え始めた。
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