第7話 侵略者との交渉と温泉の秘密

温泉エリアを登録してから数日、迷宮の雰囲気が明らかに変わった。ゴブリンやインプの活力が上がり、シャドウハウンドも迷宮内を軽快に動き回っている。魔力循環が向上したことで、迷宮全体の調子が良くなっているのが感じられた。


そんなとき、シャドウハウンドが突然低く唸り声を上げた。


「また侵略者か?」


シャドウハウンドを先頭に迷宮の入り口へ向かうと、やはり3人組の人間が侵入してきていた。一人は剣士、一人は狩人、そして最後の一人はローブを纏った魔法使いだ。


「ここが噂のダンジョンか……意外と立派だな」

「油断するな。何が潜んでいるか分からない」


彼らは温泉エリアを目指して迷宮を進んできているようだった。どうやら、温泉の噂を聞きつけて調査に来たらしい。俺は迷宮を守るため、彼らの行動を阻止する準備を始めた。


侵略者たちが温泉エリアに足を踏み入れると、湯気に包まれた神秘的な光景に一瞬驚いた様子を見せた。


「これが噂の温泉か……こんな場所に本当にあるなんて」


狩人が慎重に周囲を見渡しながら呟く。魔法使いは杖を掲げ、何かを探るように呪文を唱えているが、湯気が視界を遮って思うようにいかないようだ。


俺は温泉エリアに仕掛けた「高温蒸気トラップ」を発動させるタイミングを伺っていた。


「よし、今だ!」


俺が罠を発動させると、温泉から高温の蒸気が吹き出し、侵略者たちを包み込む。


「熱っ!」

「ぐあっ、なんだこれは!」


剣士が慌てて盾で蒸気を防ごうとするが、完全には防ぎきれない。狩人は弓を引く余裕もなく後退し、魔法使いも呪文を中断せざるを得なかった。その隙を見て、ゴブリンとインプが動き出す。


「ギィィ!」


ゴブリンが剣士に突撃し、武器を弾き飛ばす。インプは狩人に向けて火球を放ち、弓を壊すことに成功した。シャドウハウンドは素早い動きで魔法使いの背後に回り込み、その杖を奪い取る。


侵略者たちは完全に追い詰められていたが、剣士が手を挙げて叫んだ。


「待ってくれ! 降参する!」


剣士の言葉に俺は少し驚いた。侵略者が降参するなんて想定していなかったからだ。


「……何のつもりだ?」


俺は物陰から声をかけた。剣士は傷ついた体を支えながら答える。


「俺たちはただ、このダンジョンに興味があって来ただけだ。本当に戦うつもりはなかった。どうか話を聞いてくれ!」


話し合いを持ちかけられた俺は、一瞬迷った。だが、侵略者をただ倒すだけではこの先発展はないかもしれない。彼らと接触することで、新たな情報や可能性が見つかるかもしれないと考えた。


「いいだろう。だが、妙な真似をしたら容赦しないぞ」


俺は彼らを温泉エリアの端に誘導し、そこで話を聞くことにした。


「この温泉……一体何なんだ?」


剣士が傷を癒すために湯に手を浸しながら尋ねる。俺は迷宮の主として温泉について知っていることを伝えた。ここが迷宮の魔力を循環させる重要なエリアであること、モンスターたちの癒しの場として機能していること――。


「なるほど……これが噂の『癒しの迷宮』の正体か」


魔法使いが感心したように呟く。その言葉に俺は首を傾げた。


「癒しの迷宮? 何だそれは?」


彼らの話によれば、この迷宮は他のダンジョンとは違い、侵略者を撃退しつつも癒しや安らぎを与える独特の存在として周囲に知られ始めているらしい。温泉の力が外の世界にまで影響を及ぼしているようだった。


「俺たちはその噂を聞いてここに来たんだ。もし許してくれるなら、この迷宮について外に広めることもできる」


剣士の提案に俺は考え込んだ。


侵略者を受け入れることはリスクがあるが、迷宮を「癒しの場」として発展させるには、外部との関係も必要かもしれない。


「いいだろう。ただし、条件がある」


俺は彼らに向き直り、次のように告げた。


「この迷宮に手を出さないこと。そして、侵略者が来たときは俺に協力することだ」


剣士たちは互いに頷き合い、了承の意思を示した。こうして、迷宮に新たな可能性が生まれる交渉が成立した。


「よし、これで一つ前に進めたな……」


俺は温泉の湯気を眺めながら呟いた。迷宮がただの防衛拠点から発展の場へと変わり始めている。この温泉は、俺たちの未来を切り開く大きな力になるかもしれない。


「次はどうするかだな……」


俺は迷宮全体の地図を見ながら、新たな計画を立て始めた。戦いと交渉を通じて、迷宮の主としての第一歩をしっかりと刻み始めていた。

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