水晶の腕輪

「ほら、早く出しなさいよ」

「い、嫌っ! 蒼依、本当に今日は」

「は? 何? 私に逆らう心算つもり? ――あんたが?」

「痛っ!」

 ぐいっと、蒼依が琥珀の手首を引っ張り着物の小袖が捲れると水晶玉が並んだ腕輪を、奪うように引ったくった。

「あっ」

「な〜んだ。ちゃんと溜まってるじゃない。霊力玉」

 蒼依は、普段から蔑み見下している姉のものにも関わらず、奪った腕輪を自分の腕に付けるとほう、とその玉に見蕩れる。

「あたし、あんたの事は大嫌いだけれど、ほんとあんたのだけは羨ましいわ」


 見てくれは、透明で何の変哲もない水晶玉が組紐で繋がった腕輪。

 しかし、代々月読命から神託を得て、祭祀を行う月詠家の姫巫女にとっては、大切な呪具の一つだった。

 霊力玉の腕輪――。霊力を高く持つ月詠家の女が身につけると、繋がった水晶玉が霊力の高さに応じて、月読命の力を借り受けられ、月白げっぱく色に光り輝く濃さが決まる代物。

 そして、現月読命の姫巫女である月詠蒼依には、人並み以下の霊力しかなく、代々月詠の姫巫女に受け継がれてきた呪具であるその霊力玉の腕輪を身に着けても月白色は、弱々しい光でしか灯らない。

 其の為、蒼依は、朔月の忌み子と冷遇されているが自身よりも格段に霊力の質が高い実の姉の霊力玉の腕輪を奪って使い、周りを騙して姫巫女としての勤めを果たしていた。

 

「琥珀姉さんは、誰からも愛されないんだから、これからもあたしの陰として生きていくの。……ふふ、あたしのお陰で朔月の忌み子として扱われるあんたの力がやっと報われるのよ。あんたのその霊力だけは、代々月読命に仕え、姫巫女として祈祷や祭祀をする月詠家にとって、出し惜しみするには勿体ないんだから。当代の姫巫女であるあたしに使われて嬉しいでしょ?」

「……っ」


 愉しそうな声音でニヒルに嗤いながら姉を見つめて、けれど、その瞳は何処か仄暗く、逃がさないと言っているかのような執拗な執着の証だった。

 ころころと無邪気な嗤い声で嗤う蒼色の少女に対して、何か言おうと口をパクパクと開閉するも音にならず、諦めたように唇をきゅっと噛み締め何も言えず下を俯く白銀の少女。

 

 ――そう、血の繋がった家族全員から月詠家の出来損ないとされ、異なる容姿と異様な体質の所為で朔月の忌み子とされている姉こそが、その実、月詠家の歴代随一の類い稀なる澄んだ霊力の持ち主であり、真実ほんとうの月読命の姫巫女である。

 

 ◇◇◇◇


 場所は変わり、帝都にある、とある洋館にある洋室にて。

 一人の青年の傍に、少女が佇み、そして青年が小さな笑みを零しながら呟く。


「やっと、やっとこの日が来た。……漸く貴女を迎えに行けますよ。――月詠琥珀さん。我が愛しい花嫁さん」

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