第14話 白鳥便【ソレイユ書房】

「どうもー! 白鳥便でーす!」


 開店前のソレイユ書房。

 静かな朝に、明るくて元気な声が響き渡った。


「あ、リリアドさん。お疲れ様です!」

「ちわっす! アオイさんはいつも朝早いっすね!」


 リリアドさんは、白鳥便として荷物を運搬してくれる天族さん。

 向日葵書店との書籍移動などで、いつもお世話になっている。


 ちなみに、本も世界を跨ぐ検閲を通らないといけないから、直接向日葵書店とソレイユ書房を行き来できない。

 わたしとお兄ちゃん問わず、自分で買った本なら自由に跨ぐことができる。

 その辺は少し難しくて、いつか制度を国王に替えてもらおうとか考えているんだ。


「にしても、不思議っすよねー」


 運んできてくれた荷物は、リリアドさんが軽々持ち上げて店内に入れてくれる。

 カウンター内に置いてもらって、伝票に確認の魔力を注げば配達完了。

 そんなときに、リリアドさんがぼそっと言った。


「人間界は、荷物を木箱じゃなくてこんな箱にいれるなんて。紙でできた箱なのに、耐久性はいいんすよね。さすがって感じです」

「確かに。こっちだと段ボールってないですよね」


 お兄ちゃんが書籍を入れて移動をかけてくれるのは、いつも段ボールだ。

 人間界では当たり前のことだって聞いていたし、わたしも慣れてきているからそんなには疑問を感じていない。リリアドさんも、ここ何年も配達してもらってるから慣れてるはず。

 きっと、普段のことが急に疑問に感じちゃったんだな。


「段ボールって、ただの紙じゃなくて厚紙らしいですよ」

「へぇ」

「それに、基本的には三層構造になってるみたいです。だから、丈夫なんだと思います」

「すごいっす。やっぱ、何百年生きてても人間界には驚かされますね」


 リリアドさんは、ご長寿の種族。

 それでいて、姿形は変わらないという。

 揃いも揃って美形なものだから、本当に羨ましい。


「最近、ヒナタさんから『かふぇおれ』をもらったんすよ。それがまぁ、不思議な味で。すごいおいしくて、人間ってすごいなって思いましたね。昔飲んだのは、めちゃ苦かったものだったので」

「誰でも飲めるように甘くしたものだったんですね。リリアドさんは初めてだから、お兄ちゃんが甘めのものにしてくれたんだと思いますよ」

「え、じゃあ少し苦みが強いものもあったりするんですか?」

「ありますよ。お兄ちゃんに言っときますね」


 ありがとうございます! と嬉しそうに微笑んだリリアドさん。

 さすが美形。笑顔が眩しい。


 そういえば、とふと思った。

 リリアドさんの話し方は、人間界の若者の言葉ばかりだ。

 その言葉遣いは、いつから使われているんだろう。

 そうじゃなくて、これがリリアドさんの言葉であって、人間界の若者たちが真似したみたいになっているのかな。


「この口調っすか? つい最近の、十年前くらいっすかね」


 聞いてみると、そんな答えが返ってきた。

 天族の時間感覚は、ご長寿ならではで少しおかしい。

 普通だったらびっくりするようなことも、さらりと言う。


 ただ、わたしとお兄ちゃんは違う。

 慣れていた。


「人間界の流行りとか、本とかの口調で真似したいなって思ったやつを使ってるんですよ」

「以前の口調は、どんなのだったんですか?」

「えーと、なんだっけな」


 少し考えたリリアドさんは、あっと思い出したように笑った。


「あれです。『ござる』を使ってました」


 まさか、びっくり。

 ヨーロッパ系の金髪超イケメンから出てくる言葉が、『ござる』だなんて。

 そのギャップがおもしろくて、思わず大きな声で笑ってしまった。


「時代劇とかにハマった時期ですね。ちょうど、その舞台の時代が終わって、おもしろおかしく表現されていった時代です」


 やっぱり、本場を見てたのか。

 江戸時代とかにこんなイケメンがいるということを想像すると、おもしろいんだけれども、不思議な気がした。


「アオイさんが気に入られたのなら、ござる口調でヒナタさんのところ行ってくるっす!」

「いいね! お兄ちゃんの反応教えて!」


 楽しみが増えた。



 *



 段ボールにぎっしり詰められた、書籍たち。

 まずは、取り置きと定期購読のお客様の本を分けてから、棚へ差していく。


「君は、あの棚ね」


 人間界の書店と違うのは、棚差しを魔法で行うこと。

 どこの棚に差すのか決めてから、本に魔法をかけてあげる。

 すると、本はぱたぱたと飛んで行って棚に収まるのだ。


「いつ見ても、アオイの魔法はすごいわね」


 コロン……とベルを鳴らしてドアを開けたのは、友人のリアナだった。

 ドアは、開店時間になると開くように魔法をかけてある。

 開店時間だ。


「いらっしゃい、リアナ。ごめんね、ちょっと棚整理してるけど」

「いいのよ。朝一番で来たからね」


 リアナは、綺麗な銀髪を長く伸ばした少女。

 氷魔法を得意としていて、その腕は魔法学校で首席を取るぐらいなのだとか。

 そんなリアナは、いつも人界書を求めて来店してくれていた。


「今日はどんな本が入ったの?」

「とりあえず純文学ね。あとは、ライトノベル系かな」

「ライトノベルね。確か、レイチェルが騒いでたわ」


 王都の中でも小さな街並みだからこそ、住んでいる者はみんな家族のようなもの。

 そのため、リアナもレイチェルも仲が良かった。

 レイチェルは魔法学校に通ってはおらず、別の学校に通っている。

 魔法界と言えど、魔法を使わない者も多くいる。そのため、レイチェルが通うような学校は、いくつもあるのだ。


「ソレイユ書房で、本を頼んでるんだって」

「そうなの。さっき入ってきたから、連絡しようと思って」


 電話がないから、人間界のような連絡ができない。そのためにこっちで発展したのは、『伝書鳥』だ。

 手紙を、魔法で鳥の形にする。そして、風魔法で飛ばすのだ。

 魔法を使わない者は魔道具で代替するなど、色々な工夫が施されている。


「あ、帰ってきたよ」


 レイチェルに手紙を飛ばして、少し経ったころ。

 ぱたぱたと伝書鳥がやってきた。

 わたしの前でお辞儀をして、鳥は手紙の形に戻る。

 差出人は、レイチェルだ。


「『今すぐ取りにいきます』だって。さすが、早いね」

「レイチェルっぽいな」


 リアナは、そう言ってくすくすと笑った。


「そうだ。アオイに頼みたい人界書があるのよ」


 思い出したように、リアナは口を開いた。

 この、取り寄せの申し込みとか在庫チェックとか、本当に大好き。

 自分は本屋さんをちゃんとやれてるんだなって、すぐ分かるから。


「いいよ。何の本?」

「『未来を開ける扉が、自動ドアだったら?』っていう本」

「へぇ。珍しく物語じゃないんだ」

「そう。ちょっとおもしろそうだから読んでみたくって」


 在庫を確認をしてみると、店頭にはなかった。

 だけど、向日葵書店の方にはある。


「取り寄せしとくね。一冊でいい?」

「おばあちゃんも読みたいって言ってたから、2冊お願いします」

「わかった」


 取り寄せをする手続き。

 羊皮紙に走らせる、羽ペンの音。

 これらが全て、わたしを『書店員』だと言ってくれる証。

 だから、本屋が好きだ。


「ところで、未来への扉って自動ドアなの?」

「うーん。一般的には自動ドアじゃないと思うよ」


 たぶんね。

 知らないけど。

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