第13話 星座物語【ソレイユ書房】
向日葵書店から帰るとき、お兄ちゃんのことが本当に心配だった。
『大丈夫だよ』
お兄ちゃんはそう言って笑ってたけど、どれだけ無理したか理解していた。
だって、わたしとお兄ちゃんは一心同体だから。
「ヒナタなら大丈夫よ。貴女が信じなくて、誰が信じるのよ?」
ソレイユ書房に来たアイリス。
ばんっとカウンターに白い箱を置いて、わたしを軽く睨んできた。
「だってわたし、お兄ちゃんがいなくなったら生きていけないもん」
「物理的にそうなってしまうのは、私には何とも言えないわ。でもね、そうならないようにするのが、アオイの役目でしょう?」
魔法が使えるわたしと、使えないお兄ちゃん。
なぜ、このような差が生まれているのかは両親の出自の理由から。
それを理解して仲良くしてくれているアイリスは、わたしをいつも支えてくれていた。
──これも、いつか終わっちゃうんだな。
わたしたちの運命。
それは、今を生きる人たちが考えられないほど遠い未来。
言葉にして誰かに言うなんてことは、アイリスにでさえできなかった。
「わたしができることは、お兄ちゃんを守ることだから」
「そう。それでいいのよ。貴女がヒナタの一番の理解者で在ってあげなさい。そうすれば、ヒナタは救われるはずだから」
「ありがと、アイリス。少し楽になった」
「よかったわ。じゃあ、安心して食べられるわね」
アイリスはほっとしたように微笑むと、白い箱をぐいっとわたしに差し出した。
「我が家が誇るシェフが作ったお菓子よ。夜にでも、ヒナタと食べなさい」
「うわ、ありがとう! 今度、お礼するね!」
わたしは、アイリスに大きく笑ってみせた。
*
昔むかし、大昔のこと。
魔法界には月が三つ存在していたと言われている。
それはただの伝承でしかなく、神話ともされている話。
誰も、その話が本当だと言うことができない。
あったかもしれないという事実を、ただ頷くだけ。
でも、星は違う。
繋ぐ星が異なるだけで、様々な星座が生まれる。
だから、星にはたくさんの物語がある。
書房の閉店時間。
店締めをやって、戸締りをして。
きちんと全てを終わらせて、二階にある自宅へ戻る。
階段を登って、玄関の扉を開けた。
「お兄ちゃん?」
かすかに、お兄ちゃんの気配を感じた。
明かりも付いていない部屋。魔法でランタンに火を灯す。
それから、部屋全体にも明かりを付けて、ベランダを見る。
そこに、お兄ちゃんはいた。
「どうしたの? 連絡もなしに」
ソレイユ書房に来るときは、きっちり連絡を入れてくれるお兄ちゃん。
そんなお兄ちゃんが、連絡もなしにやってきた。
何かあったのだろうか。
「ちょっとね」
お兄ちゃんは、ベランダに座り込んで、壁に背を預けていた。
なんとなく、その隣に腰かける。
肩が触れると、お兄ちゃんの優しいぬくもりを感じた。
「こっちの世界の星空を見たくなった」
しばらくぼんやりと星を眺めていると、お兄ちゃんが言った。
星に手をかざして、寂しそうに微笑む。
「ミネルウァ座が見れるから」
「人間界にはないんだっけ」
「うん。ない」
世界が違うと、見方も考え方も違う。
だから、同じ星座なんてない。
繋ぐ星々が違うから、そこに紡がれる星座も神話も違うのだ。
「人間界の星空も好きだ。でも、魔法界の星空は安心する。なんでだろう」
「お母さんが見守ってくれてるからじゃない?」
お兄ちゃんが好きな、ミネルウァ座。
それは、わたしたちの母親の証。
「葵がいてくれてよかったって思うんだ」
不意に、お兄ちゃんがそう言った。
「葵がいなかったら、僕は孤独だ。人間界は時間が短いから、僕は孤立する」
「魔法界は時間が長いからね。だから、人間は儚くて美しいよ」
短い命だから、輝くものがある。
終わらない命は憧れるけれども、その先に待つのは地獄のような苦しみ。
お兄ちゃんは、それを人間界でより感じているんだと思う。
紡がれた星は、お兄ちゃんに『人間界の血』を与えたから。
「ご飯、食べてく?」
星を眺め続けるお兄ちゃんに、そう問いかけた。
「一人で食べるの、今は嫌でしょ? 用意するから、食べていきなよ」
「……僕が作るよ」
お兄ちゃんが立ち上がった。
わたしを見て、ふっと微笑む。
「お礼もかねて。母さんの味、食べないか?」
「いいね。じゃあ一緒に作ろうよ」
差し出してくれた、お兄ちゃんの手。
それを握って、立ち上がる。
お兄ちゃんの手は、大きいのにどこか儚い。
わたしは、『魔法界の血』を受け継いだ者。お兄ちゃんを守るためなら、どんな魔法を使おうが厭わない。それが、わたしの願いだ。
双子だから、わたしとお兄ちゃんは繋がっている。
この世界からお兄ちゃんの姿が見えなくなってしまっても、お兄ちゃんを探し出す。
大好きなお兄ちゃんを守るために。
「そういえば。双子座の運勢、先週からずっと下の方だったらしいよ」
「え! だからアイリスがくれたお菓子が崩れてるの!?」
「ほんとだ。ブルーベリーが落ちてる」
「やだぁ!」
星は、きっとわたしたちを見守ってくれている。
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