中編
お茶会の後、屋敷に戻った私に両親から深々と頭を下げられた。
どうやら、お茶会の前から私とジェイドが婚約破棄することを知っていたらしく、ジェイドから婚約破棄の件は話さないで欲しいと口止めされていたとのこと。
「ジェイド君から『婚約破棄は自分の口で言いたい』と言われて……だから、今日まで黙っていた。本当にすまなかった」
「お父様……」
悲しそうに頭を下げたお父様に、私はとてもやるせない気持ちになった。
その後、私は両親に勧められるがまま『療養』という名目で領地に籠った。
婚約破棄された令嬢が、社交界でどのような目に遭うのか分かっていたから、領地に引き籠るように勧めてくれたのだろう。
そうして、ジェイドと婚約破棄をして1年の月日が経った。
◇◇◇◇◇
ジェイドとの婚約破棄で受けた傷がある程度癒えて、伯爵令嬢としての務めを果たそうと前向きな気持ちになった時、突然ジェイドの双子の弟ルカが、わざわざランスター領の屋敷を訪れた。
「やぁ、久しぶり。アニカ」
「ルカ!」
穏やかで紳士なジェイドと違い、ルカは天真爛漫な自由人である。
だけど、ジェイドと同じく心優しい彼は、いつか私のところに謝りに来るだろうと思っていた。
だから、彼の訪問は特に驚かなかった。
「元気そうで本当に良かった」
「ルカ……」
使用人達が深々と頭を下げる中、安心したような笑みを浮かべたルカを私は笑顔で出迎えた。
――やっぱり双子だから、笑った顔がジェイドにそっくりだわ。
長い間、婚約者としてジェイドの笑顔を傍で見てきた私は、ジェイドの同じく金髪碧眼のルカの笑顔に、癒えたはずの傷が少しだけ開いた。
――いけないわ、ジェイドと重ねるなんてルカに失礼よ。
「アニカ?」
「いえ、何でもないわ。それよりも、ジェイドは元気かしら?」
――本当は聞きたくない。けれど、
「あ、そのことなんだけど……とりあえず、どこか落ち着けるところで話しても良い?」
「えぇ、分かったわ」
近くにいた家令の案内で、私とルカは客室に入った。
ルカと向かい合わせで座った私は、紅茶とお菓子を用意してくれた使用人達が出て行くのを見届けるとルカに視線を戻した。
「それでルカ、ジェイドは元気なの?」
――婚約破棄から1年経った。きっと新しい婚約者が……
「兄さんなら……亡くなったよ」
「えっ?」
――ジェイドが、亡くなった?
「どういう、こと?」
脳裏に蘇るジェイドとの眩しい日々。街にデートも行ったし、お互いの屋敷に行ってお茶会だってした。
そんな彼が亡くなった?
ルカの言葉が受け止められず、唖然とする私。
そんな私を見て、ルカは沈痛な表情をしながら両肘の上で両手を組んだ。
「兄さんは生まれつき、難病にかかっていたんだ」
「難病?」
「あぁ、10歳を境に体の機能が少しずつ死んでいき、20歳になる時には命を落とすという病気なんだ」
「っ!」
命を落とすことが避けられないその病気は、1000万人に1人かかると言われ、治療法が未だに見つからない難病だった。
その病気にジェイドが患っていた。
「でも、ジェイドからそんな話、一度も聞いたことない」
――ジェイドはずっと私に笑顔を向けていたから。
「うん、そうだと思う。でもよく考えて。兄さんが10歳の誕生日を迎えた日から、兄さんと街にデート行くことが無くなったんじゃない?」
「た、確かに……」
私とジェイドとルカは同い年で、8歳でジェイドの婚約者になった私は、使用人達や騎士を連れて、よくジェイドと街に遊びに行っていた。
けれど、ジェイドが10歳の誕生日を迎えた時を境に、彼と街に行くことは無くなり、彼と会うのは決まって彼の屋敷になった。
「それに、婚約破棄をした時、兄さんはいくつだった?」
「っ!? 19歳だった」
――つまり、彼は亡くなる1年前に婚約破棄をしたのね。
「それじゃあ、どうして私と婚約したの?」
――自分が亡くなることを分かっていたはずなのに。
唖然とする私を見て、悲しい顔をしたルカが懐から便箋を取り出すと、そのまま私に差し出した。
「これは?」
「兄さんからの手紙。そこに、アニカと婚約した理由が書かれているはずだよ」
「ここに、婚約の真意が……」
『君に薔薇色の人生を送らせるよ』
婚約した時の彼の言葉を思い出した私は、便箋から手紙を開くと、恐る恐る開いた。
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