君達のバラ色な未来にエールをこめて ~二十歳を祝う会の一場面より~【カクヨムコン10短編】

尾岡れき@猫部

二十歳を祝う会【表】

「二十歳を祝う会にご参加の皆さん、今日、来賓の皆様も皆さんの成人を祝うためにこの場に集いました。皆さんがこれまでの努力と成長を経て、ついに一人前の大人としての一歩を踏み出すこの瞬間は、まさに華やかで希望に満ちたものです。これからの未来、多くの挑戦と冒険が待ち受けています。しかし、その度に皆さんは必ず成長し、新たな自分を見つけるでしょう。改めて、皆さんがこの大切な日を迎えられたことを心からお祝い申し上げます。 皆さんの未来がどれだけ挑戦に満ちていても、それと同じくらい【バラ色】に輝くことを心から祈っています」


 市長さんの、声が市民ホールに響くが、全然、頭に入ってこない。


(バラ色かぁ)


 正直、私の人生は、くすんでしまっている。

 別に、小・中・髙でイジメに遭ったワケでも、不登校になったワケでもない。ただ、彼を失った。それが、痛い。


 たった、1年――小学校3年生の時、彼の妹とクラスが同じだった、あの時が一番楽しかったように思う。


 だから、ラノベで言うような幼馴染みって言えるような関係でもない。だいたい、家が隣でもない。妹さんが、好きだったアイドルが私も推しだっただけ。彼はそんな彼女に付き合わされ、三人――保護者付きで、専門店を回ったりした。言ってみたら、ただそれだけの関係だ。


 小学校4年生になって。

 クラスが一緒になったら良いなぁって、お気楽な私を待っていたのは――。




【家庭の都合で引っ越ししました】

 無機質な先生の一言だけが、今も私の頭の中で響いている。





■■■



 

 同窓会なら、会えるかも?

 誰かが、もおしかしたら知っているかも――。


 そんな想いを抱いた時もあったが、すぐに諦めた。

 あるワケない。


 仮に、彼や妹ちゃんが帰ってきたとしても。小学校3年生までしかいなかった土地の成人式に、誰が出たいと思うだろうか。


 みんな、それぞれコミュニティーができあがっている。まして彼は一歳上――。

 かっ、と熱くなる。


 去年のことを思い出す。

 彼が成人式。もしかしたら、会えるかもしれない。そんな一抹の期待を抱いた、私。本当にバカ――。


 あいつに見て欲しい。

 着飾ったりとか、オシャレとか。そういうことが苦手な私が、馬子にも衣装で頑張ってみたけど。結局、現実は優しくない。


「……以上、二十歳の誓いとさせていただきます」


 気付いたら、新成人を代表の挨拶――二十歳の誓いも終わっていた。


 何を期待していたのか、自分でもよく分からない。そもそも、二十歳という自覚もない。大事なものは、だって小学校の時に、置き忘れてきた気がするから。


 だって、この会場には4000人もいる。午後も、同数の人が押し寄せる。そもそも、この数のなかで、探そうと思う方が――。










「えっちゃんだよね!」

「……へ?」


 声をかけられた子の方を振り向く。同じく振り袖姿の――私よりきらびやかな、まるで黄色地に牡丹を描いたデザインは、私を引っ張り回した、タカちゃんの笑顔が、瞼の裏に一瞬、焼きつく。でも、それもすぎにかき消えて。今じゃ、私より長身なスマートなお姉さんが、目の前にいた。


「……タカちゃ、ん?」

「やった!」


 ぎゅっと抱きつかれる。


「あ、あのね。タケちゃん……まだ式典は……終わってなくて――」

「あのね! お兄ちゃんはね、二十歳を祝う会の実行委員で、ね。ほら、あそこで司会している、冴えないヤツ!」


 タカちゃんの言い方が酷い。

 場は騒然として。

 司会のヨウちゃんは、呆然と、私達を見ている。


(司会! 司会! ちゃんと進行して! この流れは、後は閉会する流れでしょ?!)


 このままじゃ、タカちゃんと私のせいで、今年の成人式はハチャメチャ。羽目外しすぎ新成人って報道されちゃうから!




『えっちゃん……?』


 ヨウちゃんが呆然とする。、今は秋を確かに。マイクで、名前を呼ばないで!


『……会いたかった』


 うん、私も会いたかったよ。でも、それは今じゃない!


『えっちゃん、俺……』


 今は二十歳を祝う会の真っ最中。私達の再会を祝う会じゃない!


『ずっと、ずっと好きだった!』


 マイクで拡散される、ヨウちゃんの声。

 報道陣のカメラから焚かれるフラッシュ。


 市長が立ち上がって、そこからスタンディングオベーション。

 参加者全員、拍手の嵐に、】私は呆然としてしまう。





「あ、あの……」


 私、ヨウ君になんて言うのが正解なんだろう。

 タカちゃんに手を引かれて、私は舞台の中央へ。


「えっちゃん……」

「ヨウちゃん、その……わ、私もです」

 もうパニックになった私の声を、音響が拾い、会場全体に拡散させていく。これ、どうなって――。






 もう、わけが分からない。

 かろうじて、分かることって言ったら。


 私、ヨウちゃんに抱きしめられていた。

 暖かくて。

 ずっと夢を見ていたこと。


 でも、叶うはずがないと、諦めていたけのに……。








 ――皆さんの未来がどれだけ挑戦に満ちていても、それと同じくらい【バラ色】に輝くことを心から祈っています。







 市長さんには申し訳ないけれど、なんて月並みなスピーチなんだろうって、思っていた。




 くすんだ毎日だった。

 二十歳になってもきっと変わらないって――。

 そう思っていたのに。






 色々な感情がグチャグチャに、攪拌されて。

 本当は、嬉しくて嬉しくて仕方がないけれど。

 今は――お騒がせ新成人の烙印を甘んじて受けようと思う。











 だって。

 私が今、見ている世界は。

 これまでに見たことがないくらい、カラフルだった。

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