第3話 そびえ立つ「お城」、レイの「気持ち」
「
そこは巨大なドームのような空間となっていて、床面には地球とよく似た緑の草原が広がっていた。その所々に、小規模な建物が点在している。
それらの建造物を構成する素材は、植物由来のものに見えた。つまりは、太古に見られた「木造家屋」にそっくりだったのだ。
草原のあちこちには小さな川が流れていて、そばに建つ家屋に取り付けられた水車を回していた。これだけのテクノロジーを持ちながら、なぜこんな原始的な動力を使っているのだろうか?
円形の柵で囲まれた広場の中では、地球の「馬」によく似た四足歩行の生物らしきものの群れが、のんびりと散歩している。
そして、その草原の中央にはいくつもの尖塔を持つ、石造りのような見た目の高層建造物がそびえていた。その姿は、旧世紀ヨーロッパエリアの「お城」にしか見えなかった。
「……何なんだ、ここは」
その異様な空間へと調査艇を降下させながら、私はやっと口を開いた。
「
瞳を輝かせて僕を見つめながら、アシスタント・レイがはしゃぎ声を上げた。その反応はもはや、完全に異常動作の域に入っていたが、今はそちらに対処する余裕はない。
「レイ、安全に着陸できる地点を確認してくれるか」
「アイ、サー! 降下地点を確認!」
様子はおかしくても、ちゃんと元気に仕事をしてくれている。この際、もうそれだけでいい。
ナビゲータのキーを素早くタップして、レイは進路の設定を行った。指示を出す人間に対する可視化のために、あえてそのような物理的な操作を行ってみせることになっている。
調査艇はスムーズな降下を続け、周りを囲む灌木の枝葉を揺らしながら、開けた地面へと着陸した。全く衝撃のない、いつ接地したのかも分からないような見事な着地だった。
「さすがだ、レイ。完璧な
思わず、ほめ言葉が口をついて出た。完璧なのが当たり前の機械相手にそんなことを言っても意味はない。私もおかしくなっているようだ。
「お褒めいただき、ありがとうございます!
レイはもはや、微笑みを浮かべているようにさえ見えた。いや、これはもう明らかに表情が変わっている。顔の部分には、実は変形可能な軟質セラミック素材が使われていたらしかった。
二人で本格的な調査に入る前に、彼女の状態をきちんと把握しておく必要がある、私はそう判断した。
この旅に出発して初めて、レイにアナリティクス・ドックに入ってもらい、改めて全機能の検査を行った。
その結果は、驚くべきものだった。パートナー用のアンドロイドとしての機能を、彼女は完全に備えていたのだ。つまり、レイはただの無感情な業務用ロボットではなく、感情表現が可能な仕様で設計されていたのだった。
イベントログを見ると、この「人工物」に近づいた辺りで、ロックされていた感情が開放されたことが確認できた。しかもそれは、事前に設定された動作スケジュールに組み込まれていたらしい。
一体なぜ、アシスタント・ロボットにそんな機能を実装したのか? そして、調査対象に到達した時点で作動するように設定されていたのか?
「申し訳ありません。わたしにも、分からないのです」
彼女はそう繰り返すばかりだった。
「もし、今後のミッションに問題が出ると
「いや、その必要はないだろう」
と僕は慌てて答えた。彼女の表情が、あまりに悲しげだったからだ。その澄んだ瞳からは、今にも涙がこぼれ落ちてきそうだった。
「今後もしっかり、アシスタントを頼むよ」
「はい!
ぱっと明るい顔になったレイが、そう言って頬を赤らめた。なぜ、そんな機能まで作りこんだのだ。もはや僕は、はにかむ彼女の可憐な姿を直視できなくなっていた。
(その4「『人工物』の正体、暖かい手のひら」に続く)
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