第3話 YUMMY!
驚き過ぎて、しばらくはスマホ画面を見たまま固まってた。
しばらく呆然としていたが、既読無視状態になっていることに気が付いて、慌ててメッセージを作成する。
『まだ考え中。メシ氏は?』
この頃には、『メシ氏』と呼びかけるくらいは出来るようになってた。あぁでもこれで返事が来てしまったら、自分ルールの『二往復』がそれに対する返信で終わってしまう。いや、この場合はメシ氏から来たからノーカンか? などと思っていると、返事はすぐに来た。
『ウチは今日、スパゲティ。ナポリタン。レトルトじゃないやつ。』
なんだよそれ、美味そうじゃん。しかも何、レトルトじゃねぇんだ? いや、ナポリタンってアレだろ? ピーマンと玉ねぎとウィンナーか? そんで茹でたスパゲッティにケチャップ。うん、俺でも作れそうだ。
『じゃあ俺もそれにする。作ったことないけど、調べて作ってみる。』
『健闘を祈る。画像忘れずにな。』
そんな返信が来たから。
ちょっと調子に乗ったんだと思う。
『メシ氏も送れよ。』
ついそう送ってしまった。たぶんなんか気が大きくなってたんだと思う。週一、二往復のやりとりという関係だったけど、今日初めて向こうからDMが来たから、調子こいた。
やべって思った。すぐに既読がついたのに、返事が来なかったのだ。
踏み込み過ぎたかも。もしかしたらまだ飯画像の投稿については癒えてない部分があるのかもしれない。
さぁっと血の気が引いて、背中がひやりと寒くなる。けれど、既読がついてしまったから取り消せない。とりあえず買い物を済ませて帰宅した。
宣言した以上、今日の飯はナポリタンだ。もうそういう口になってるし。そんで、なんか汁物だな。味噌汁ではないよな、さすがに。そんじゃスープだ。確か前に缶詰のやつをもらったはずだ。あとはサラダだけど、あいにくレタスしかない。せめてトマトがあったら良かったけど、買うの忘れたわ。いいかレタスオンリーで。
ナポリタンは思ったより簡単だった。玉ねぎとピーマンを薄く切ってウインナーと炒め、そこにケチャップ。ちょっと水分を飛ばしたら、茹でたスパゲティを投下して絡める、と。
缶詰のスープは鍋に入れて温めるだけ。それとちぎっただけのレタス。マヨネーズをぶっかけて食う。
それをテーブルの上に並べて、スマホのカメラでパシャリ。
で。
「これ、送って良いんかな」
ためらってる俺がいる。
いや、送って良いはず。だって送れって言ったのメシ氏の方だしな!? まぁ俺が調子こいたせいでちょっとアレな感じになってるけども。
「いや送るよ、送るって」
誰に、というわけでもなくそんなことを呟いて、えいや、と画像を送る。
『出来た。ナポリタン。レタスだけのサラダ。スープは缶詰のコーンスープ。』
ドキドキしながら待った。
まだ既読はつかない。
五分ほど待ったところで諦めて箸を持つ。フォークなんて洒落たもん使うか。日本人ならスパゲティだって箸だ。
麺を一口すすって、まぁまぁじゃん、なんて評価を下していると、スマホが振動した。画面上にDMのアイコンが現れる。どう考えてもメシ氏だろう。
とりあえず反応があったことにホッとしてSNSを開く。
『本当に初?めっちゃうまそう。』
そんな言葉があって、いつもと変わらぬテンションに安堵する。『マジで初めてだよ』と打とうとした時だった。
パッと文字が上に移動し、その空いたスペースに滑り込ようにして飛び込んで来たのは、数ヶ月ぶりの『TASTE GOOD!』である。
「……は、マジか」
『盛り付け、うまくいかんかった。』
その言葉は事実だった。
何せ白い皿のあちこちにはスパゲティの麵がなぞった赤い線が走っている。
もしかしたら他のやつらともこういうやり取りをしているのかもしれない。しれないけれども、引用で拡散されない鍵アカウントにもかかわらず、頑なに沈黙を守っていた俺んちメシ氏が、数ヶ月ぶりに飯画像を上げてくれたのである。こんなのテンション爆上がりに決まってる。ていうか。
皿、『YUMMY!』って。
いつもの『TASTE GOOD!』ではさすがにナポリタンは入りきらなかったのだろう。それには副菜のほうれん草のおひたしが盛られていた。そりゃそうだ、
たぶんこういうのが好きなんだろうな。うん、なんかもう一周回ってオシャレな気がして来た。それにほら、今回はナポリタンだしな。
色々言葉を飲み込んで、やっと『うまそう。そっち食いたい。』と返す。リップサービスなんかじゃない。どんなに盛り付けがアレでもやっぱりメシ氏の方が美味そうに見えるのだ。いや、実際美味いんだろう。何せ俺のナポリタンは今日初めて作ったやつだし。
すると、数秒も経たずに『ありがとう』と返って来た。
それから――、
『食いに来る?』
と。
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