回収専門店 ルリラ 勇者にならなかった魔術師と拾われたルリラ

紫糸ケイト

魔術師 タリラ·ルリラ



 私は師匠、ピリラ·ルリラに恋をしていた。

同性で、しかもガキだった私を育ててくれた母親のような人だったけれど、私は彼女の特別でいたかった。

自分でもおかしい事だってのは分かってる、いやおかしいなんて話じゃないな、異常だ。

戦いで傷つく彼女を見るのが嫌だった。

私以外の子供の面倒を見るのも嫌だった。


『ママはね、強い子が好き! 大好きよ!』


 赤い髪を揺らし、鮮血のような綺麗な瞳、そして女性らしいスタイル。

そのどれもが欲しかった、私だけの物にしたかった。

だから、私は強くなった。

誰にも負けないぐらい強くなれば……師匠はきっと私を認めてくれると信じて……ここまで来たんだ。


 私は強い、最強の魔術師だ。

勇者も越えた、転生者も殺した、降臨者は私を恐れた。

私、タリラ·ルリラは最強だと……思っていた。


『立てるか、タリラ』


『私を舐めるな、バルトロス!』


『バルトロスさんにタリラさん! あ、アイツは何回殺せば死ぬんですか!?』


『転生者なら神の魔術でどうにかしたらどうだ、奥の手を使うなら今だぞ、クォーツ』


『……タリラは、アタシが守るんだから』


『セクション! お前……腕が……』


 白銀の鎧は、星すら撃ち抜くバルトロスの銃撃に耐える。

赤いマントは剣の一番だったセクションの剣撃を受け流す。

ガラスのような透明な剣は、私が何度折ってもすぐに再生する。

死を振り撒く白銀の王。

私の目の前にいるソレは……魔王と呼ばれていた。


 四度殺した。

皆ボロボロになりながら、魔王を四度も殺した。

しかし、奴は何度殺しても蘇る。

誰も口にしないが、私達では魔王に勝てない事を理解してしまった。


『タリラちゃんおかえり! 魔王討伐おめでと~』


『……師匠、私じゃ勝てなかった』


『……かて、なかったの?』


『神の魔術を何度も使った、師匠から教わった大魔術も、私のオリジナル魔術も全て使った! でも、勝てなかったんだ!』


 壊滅のバルトロスと転生者クォーツが足止めをしてくれたおかげで、私と仲間のセクションは逃げ延びた。

彼らがいなければ、私はここにいなかっただろう。

怖い、戦うのが怖い。

負けるのは初めてじゃないけど、あんなにも……恐怖を感じたのは初めてだった。

今は師匠の……ママのぬくもりが欲しい。


『勝てなかったんだ……そっか』


『……ママ、怖い、怖いよぉ!』


 彼女のぬくもり。

匂い、言葉、声。

全てが私を包んでくれていた。

私は師匠を抱き締めたが、彼女は私を突き飛ばした。


『弱いタリラちゃんは大嫌い』


 師匠は泣いていた。

優しい笑顔で、言葉とは違う暖かみある表情だった。


『そ、それは……私だって頑張った!』


『頑張るだけなら誰でもできるのよ?』


『師匠……嫌だ、行かないで』


 私は魔王から逃げた。

そして、師匠は私の元を去ってしまった。

弱い私に呆れた彼女は、最後に一つだけ贈り物をしてくれた。


『私は新しい子を育てに行くわ、タリラちゃんじゃダメだったんだもの』


『いや! 頑張るから、見捨てないで! ママと離れたくない!』


 泣いてしがみつく私は師匠の魔術で弾き飛ばされ、意識を手放そうとしていた。

それでも、あの朦朧とした中で彼女が言った事は忘れない。


『強くなったら、また会いに来てね……待ってるから』


 目覚めた時、足元に金色に輝くお守りが一つ置かれていた。

それは、とても複雑な魔術が幾重にも組み込まれていて、私ではその中に込められた情報にアクセスする事ができなかった。

だけど、この中にある情報の一端を掴むぐらいはできて、私はそれを心の支えに生きている。

いつか、師匠をもう一度抱き締めて……それから……。



 「師匠!」


 夢……だよな。

この夢にどれだけ苦しめられればいいのだろうか。

かつての仲間二人は行方不明、セクションと私の二人では魔王を一度殺すのがやっとだろう。

未だ、師匠の求める強さを手に入れていないのに、この夢は何度も私に忘れるなと警告をするように、強くならないと師匠には会えないのだと余計な事に教えてくれる。


 それでも、私は強くなった。

まだ魔王には届かないかもしれないけれど、まだまだ強くなる方法を見つけたんだ。

辛い、寂しい、自殺を考えた時もあった。

でも、師匠が待っている。

どこかで私を待ってくれている。


 どんな子供を育てているのかは分からないけれど、貴女は私だけの師匠で、私だけのママだ。

絶対に手に入れる。

貴女の体も、心も、爪の先から髪の毛一本まで……全て私の物だ。


「待っててくれ、師匠」


 私が師匠から最後に教わった事は、弱い事は罪であり、強さこそが正義である事だ。

罪を背負いたくなければ、強くなるしかない。

弱いままならば、罪を背負え。


「お師匠様ー! 朝ごはんできましたよー!」


「ああ、今行く」


 私は回収師、タリラ·ルリラ。

このお守りの解析の為に異世界の触媒を探している。

ソレがいくら高価でも構わない。

そのために、私は様々な人との出会いがあり、情報を手に入れられて、金も稼げるこの仕事を始めたんだから。


「おはよ、ラタ」


「おはようございます、お師匠っ!」


 




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