第2話
あれから数日。俺は変わった。
あの日、ひよりの言葉に背中を押され、すぐに行動を開始した。
自分を鍛え直し、心を強くし、あの二人を徹底的に見返す準備を進めた。
そして、計画の最終段階が今日、完成する。
昼休み。教室の中はざわざわとした空気に包まれている。
俺の視線の先には、あかりと安藤が仲良く弁当をつついている姿があった。見ているだけで反吐が出る。だが、今日は違う。
(お前たちの偽りの王国は、ここで終わりだ)
「安藤、ちょっと話があるんだ」
俺が安藤を名指しすると、教室の中が一瞬で静まり返った。
「あぁ?」
安藤はいつもの調子で俺を見下しながら立ち上がる。
「お前みたいなヤツに話なんてねぇよ」
「いや、あるんだよ。大事な話がな」
俺は冷静に言い返す。安藤の目つきが険しくなり、クラスメートたちが次第に興味津々の顔つきになる。
「お前、最近また何かやらかしたらしいな」
「は?」
その言葉に、安藤の顔色が変わる。もちろん、俺が知っているのはこいつが裏でやっている恐喝や暴力事件のことだ。だが、その証拠を掴むのに苦労した。
俺はスマホを取り出し、録音データを再生する。
教室中に、安藤が恐喝する生々しい音声が響き渡った。
「――ッ!? おい、それどこで手に入れたんだよ!」
「どこだっていいだろ。お前のしてきたことだ」
安藤の顔が青ざめる。周囲のクラスメートたちもざわつき始めた。
「お前……!」
「動くなよ。分かってるだろ? ちょっとついて来いよ」
「喧嘩売ってんのか!」
「どうした? 乗れないってのか? 臆病者」
「……上等じゃねえか! 吠え面かかせてやるよ!!」
そう告げると、奴は大人しく俺の後を着いて来る。
教室から出ようとした瞬間、元カノのあかりこちらを見て来たが、人睨みするとビクっと面白いように震えていた。
所詮、勢いに乗れなきゃ一人じゃなにも出来ないイキり女。それがあの女の本性ってことか。
「おい、どこまで連れて行く気だ? 助っ人でも呼んで待ち伏せでもしてんのかよ、ああ!」
教室のある棟から離れ、昼の時間には使われていない別棟までやって来た俺達。
後ろで勝手にキャンキャン吠えている男が煩わしいが、それもここまでだ。
俺は一つの部屋の前まで着ていた。
「ここまでくれば、いくら騒いでも人は来ないだろうな。感謝しろよ? お前がいくら喚いても情けない姿を見られなくて済むんだ」
「ほざくんじゃねえ!! そっくりそのまま返してやるぜ……このっ!!」
拳を振りかざしてきた安藤。部屋の扉を開きつつ横に動いて交わし、勢いをつけたまま空振った奴の間抜けな背中に蹴りを入れて部屋へと叩き込む。
「がぁ!!?」
「さあ、お楽しみはこれからだ安藤。こんなんで一々悲鳴を上げないでくれよ」
薄暗い部屋。
床に倒れ伏すそいつに向かって、俺は吐き捨てるように言った。
後ろ手で部屋の扉を閉め、そして鍵を掛ける。
これで、こいつの逃げ場は無くなった。
「へへっ、やっとかよ」
「待ちくたびれたぜぇ。へっへっへ」
扉が閉まると同時に聞こえてくる声。
それはこの部屋に待機していた男達の声だ。
「な、なんだお前ら!? やっぱお前助っ人呼んでたんじゃねぇか!!」
「それがどうした? 何も最初から俺一人で相手するなって言って無いだろうが。それにほら、周りの連中の顔をよく見て見ろよ」
「あ? 何言ってんだ、こんなどこの誰だか知らない――がッ!!?」
それ以上言葉を言う事も出来ず、待機していた男の一人に背中を蹴られる安藤。
「おいおい酷いじゃないか。忘れたか? 以前お前に女を盗られた木村だ。もっと言えば、ここに今集まってる連中は全員お前に恨みがある奴ばかりってな」
その言葉に同調するように、静かな笑い声が響き渡る。
そう、これは俺の手に入れた力。組織力だ
俺はまず何よりも情報を集めた。元々評判の悪い男だ、必ず恨みを持ってる奴がいる。
この数日を掛けてそいつらに声を掛けた回った。復讐する機会を与えると言えば、みんな二つ返事で快く答えてくれた。
あの音声データだって、こいつらの一人から貰ったものだ。
録れたの偶然らしいが、いつかの為に復讐の為に取って置いたらしい。
いくら安藤が喧嘩の経験がある不良といっても多勢に無勢。
今なんてまさに、この響き渡る声にビビってるのが手に取るようにわかる。
「な、なんだよお前ら!? 一人じゃ何も出来ないからって寄って集って!」
「それの何が悪いんだ。所詮お前はクズ。クズにはクズに合わせて好きにやるだけだ。それがお前ら頭の悪い不良の世界のルールなんだろ?」
「俺達はわざわざその土俵に下りてやったんだ。むしろ潔いって褒められる場面だろ? ……まあいいや、そんなことより」
座っていた奴も立ち上がり、全員が安藤を囲んで見下ろす。
いくら頭の悪い安藤でも、これから自分がどうなるかは嫌でもわかる。
「ふ、ふざけんな! やめろ! お前ら後で許さないからな!!」
「……後なんかない。お前はもう終わりだ」
俺のそんな台詞を発端に、囲んでいた男達が一斉に安藤へと襲い掛かっていった。
俺は部屋のカーテンがしっかりと閉じられているか確認しつつ、男達に嬲られ始める安藤に目をやり、その様を鼻で笑うのだった。
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