第3話 御守りを買う男
「川崎大師」という言葉を耳にしたとき、多くの人が思い浮かべるのは観光地としての姿だろう。厄除けで有名な寺院として、毎年初詣には多くの参拝客が押し寄せる。しかし、俺にとって川崎大師は、それ以上の意味を持つ場所だった。
この街で探偵稼業をしていれば、必然的に普通では説明のつかない事件に巻き込まれる。そして、そのたびに俺は、川崎大師に助けを求めることになった。俺がこの寺を訪れるのは今回が初めてではない。過去に何度も、超常の力が絡む難事件を解決する際、この寺の僧侶たちの力を借りてきた。
特に、本堂を預かる僧侶の一人である
翌朝、俺は川崎大師を訪れた。正面の参道はいつも通り、土産物屋や飲食店が並び、厄除け飴や団子の香りが漂っている。だが、参拝客の賑わいを横目に、俺の足取りはどこか重かった。
本堂の前に立つと、木の柱と瓦屋根の大きさに圧倒される。歴史を感じさせるその姿には、どこか安心感すら覚える。だが今日は観光気分で来たわけではない。
「隆円さん、いますか?」
声をかけると、少しして本堂の奥から僧侶が姿を現した。袈裟をまとい、穏やかな表情を浮かべた彼は、確かに隆円だった。
「佐藤さん、久しぶりですね。また厄介な案件ですか?」
隆円の口ぶりは、俺の状況を完全に見透かしていた。
「ええ。悪魔絡みの厄介な案件です。今回もお力をお借りしたくて」
「なるほど。詳しく聞かせていただけますか」
俺は簡単に今回の状況を説明した。川崎区池上町で起きた失踪事件の裏に、心を操る悪魔ダンタリオンの存在があること。そして、その悪魔を追うために、特別な力を宿した御守りが必要だということを。
隆円は黙って頷きながら話を聞いていた。
「なるほど。ダンタリオンですか。厄介ですね。しかし、佐藤さんならきっとやり遂げられるでしょう」
そう言うと、隆円は俺を本堂の裏手に案内した。そこにある小さな部屋は、普通の参拝客が入ることのない場所だった。簡素な畳敷きの部屋に、机と座布団が置かれている。その壁には古びた仏像や巻物が飾られており、空間全体が荘厳な雰囲気を醸し出していた。
隆円は机の引き出しを開け、黒い布で包まれた御守りを取り出した。
「これが、特別な御守りです。煩悩を焼き払い、大厄を消除し、邪悪な存在に対抗する力を秘めています。ただし、力が強い分、使用者にも負担がかかります。以前もお伝えしたように、あなた自身の意志が問われます」
「覚えています。覚悟の上でお願いしたい」
俺はそう言って、御守りを手に取った。その冷たい感触と重みが、ただの物ではないことを感じさせた。
「気をつけてください、佐藤さん。この御守りは、あなたの意志を試す存在でもあります。もしその意志が弱ければ……」
「暴走する、だろ? 大丈夫。今回は俺も準備してきた」
俺は隆円に礼を言い、御守りを懐にしまった。その背中越しに、隆円が小さく祈りを捧げているのが聞こえた。
境内を出た俺は、再び池上町の廃墟に向かう準備を進めた。川崎大師の助けを借りられるのは心強いが、それだけで解決するほど甘い相手ではない。
――「あなたが強い意志を持たなければ、御守りの力が暴走する可能性があります」
隆円の言葉が頭をよぎる。だが、躊躇している時間はない。ダンタリオンの力に囚われている人々を救うには、前に進むしかないのだ。
「……やるしかないな」
自分にそう言い聞かせ、俺は準備を終えた。そして、次なる戦いに挑むため、再び池上町へと向かった。
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