第14話 調理
「前田、包丁上手いな」
「確かに……」
始まった調理実習。
大友と二人、前田さんの意外な料理技術に驚く。
「まあバイトでやってるからね。皆が失敗しても、肉じゃがだけはうまいのが食べられるよ」
包丁を手に、前田さんはカッコいいことを言う。
「ひっひっひ。みそ汁は、任されたよ」
一方横野さんは、みそ汁の鍋を魔女みたいにかき混ぜながら言う。
「普通、夫婦ネタにされるんだったら横野さんの格好だよな」
「確かに」
ドラゴンのエプロンで、奇跡の男女ペアルックを完成させた俺と一ノ瀬さん。
そこに大友を含め、残ったのは三人。
「そんで、俺たちはどうすんだ?」
「せっかくだし、二人には初めての共同作業をしてもらいたいんだけどなぁ」
ニヤニヤしながら言う前田さんは、完全に俺たちをいじりにきてる。
一ノ瀬さんは、笑いながらそれを了承。
「そういうことだったら、私たちは炊き込みご飯を担当するよ。私が材料を切っておくから、お米を研いでもらってもいいかな……涼介さん」
「っ!?」
「いいね、一ノ瀬!」
新婚夫婦かのように、突然名前を呼んできた一ノ瀬さんに、思わず顔が熱くなる。
楽しそうな一ノ瀬さんと、前田さん。
俺はもう、恥ずかしさに顔を背けるしかない。
「お願いしてもいいかな?」
「……分かった。ていうか一ノ瀬さん、料理したりするの?」
「お手伝いで時々してるから、慣れてるよ。そんなに料理の腕が心配かな?」
「いや、普段と勝手が違うから……ケガには気を付けて」
「っ! ありがとうーっ! 見ててね、カッコいいところ見せちゃうから!」
一ノ瀬さんはパッと笑顔になって、気合を入れて袖をまくる。
「……なあ、お前たちマジで夫婦じゃないんだよな?」
「ああ」
「ええっ、そうなの? 涼介さん!」
「やめろって! その名前で呼ぶやつ!」
「あははははっ」
一ノ瀬さんは笑って、新婚夫婦みたいなノリを仕掛けてくる。
それでいて、包丁の使い方は見事な物だ。
上手に具材を切り分けていく。
「よかったなぁ、佐藤。いつでも嫁にできちゃうじゃん」
「もう婚約は済ませた?」
「してねえっての!」
ニヤニヤしする前田さんと横野さんに、いっそう顔が熱くなる。
「……俺はリンゴでもむいてるか」
大友はそう言って、リンゴを手に取った。
待ってくれ! できれば俺も、この状況から逃げ出したいんだけど!
しかし、そんな願いはかなわない。
結局そのまま俺は、三人にいじられながら米を研ぐことになったのだった。
◆
「おおーっ、前田さんの肉じゃがうまいな!」
「うんっ、上手だね」
「まあ、普段から作ってるからな」
そう言いながらも、大友と一ノ瀬さんの言葉に、ちょっと照れている前田さん。
「では、ドラゴン夫婦の炊き込みご飯も」
横野さんはもぐもぐと口を動かした後、一言。
「これはなかなか」
俺は一ノ瀬さんと一緒に、安堵の息をつく。
「上手にできて良かったね。はい涼介さん……あーん」
「っ!?」
「おっ!?」
「これは……!」
前田さんと横野さんが、興味津々とばかりにこちらへ視線を向けてくる。
一ノ瀬さんの箸の先には、星形に切った人参。
こんなところにも見られる、前田さんの技術。
それはさておき、『あーん』はないだろ『あーん』は!
しかもこれ、される方が圧倒的に恥ずかしいやつだぞ!
「ほらほら佐藤、早く食べてあげないと一ノ瀬が……みさきが寂しがるだろ」
「ここは早く『あーん』するべき」
こいつらはぁ……っ!
完全にニヤニヤしながら、急かしてくる『前横』コンビ。
当の一ノ瀬さんも、俺をうかがうように首を傾げる。
「…………っ!」
仕方なく俺は、サッと人参を口に入れた。
「涼介さん、おいしい?」
味なんて分かるわけないだろ、この恥ずかしい状況でっ!
「佐藤、佐藤」
ドキドキしながら、人参を噛む俺。
すると前田さんが、横に来て耳打ちしてきた。
「…………ってのはどう?」
な、なんてことを言い出すんだ、こいつは!
………でも。
こうなったらもう、破れかぶれだ。
その悪魔的ひらめき、乗ってやるよ!
俺は肉じゃがから、大きめにカットされたジャガイモを取って差し出す。
「はい、あーん」
「……えっ?」
まさかの反撃に、思わず目を見開く一ノ瀬さん。
そうだろう。
人参ひと欠片くらいなら、ちょっと恥ずかしいくらいで済む。
でもじゃがいもは、大きく口を開けないといけない。
それはなんか、すごく恥ずかしい……!
でも、これだけでは終わらないぞ。
「ほら、口を開けて……み、みさき」
「うええっ!?」
俺は前田さんの指示通り、新婚キャラで押し通す。
すると一ノ瀬さんは、顔を赤くして視線を困らせ始めた。
それから一度、深呼吸。
まるで覚悟を決めるかのように、大きく開けた口にジャガイモを入れた。
「どう一ノ瀬? 味の方は」
前田さんが、ニヤニヤしながら問いかける。
「も、もう……」
「もう?」
「味が全然分からないよーっ! 恥ずかし過ぎて何を食べてるのかも分からない……っ!」
顔を真っ赤にしながら、水を飲む一ノ瀬さん。
分かるよ、その感じ。
俺も全く同じ症状だったし。
「あー楽しかった。ドラゴン夫婦は、いじりがいがあるねぇ」
「まったくその通り」
「「うぐぐ……っ」」
満足そうにうなずく横野さん。
前田さんの楽しそうな笑みに俺たちは、唸り声をあげることしかできなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます