第12話 すれ違い

「こんなに可愛い同級生と仲良くなっちゃったら、ひかりさん怒るんじゃないかな」


 美月はニヤニヤしながら、俺の方を見上げてくる。

 妹の言う『ひかりさん』っていうのは、大友のことだ。

 本名『大友ひかり』

 あいつあの感じで、名前は中性的なんだよな。

 ちなみに美月は『ひかりくん』って呼んでたんだけど、先輩だからということで『さん』付けに変えたっていう経緯がある。


「ひかり……さん?」


 さっきまでウキウキだった一ノ瀬さんが、なぜか突然ゴクリとノドを鳴らした。


「今日も朝、ひかりさんと話してたよね」

「ああ、ゲームの話をしてたんだよ」

「どうなの? やっぱりひかりさん、お兄ちゃんに仲良しの女の子ができて怒ってる?」

「まあ……どういうこと? みたいなのはよく言われるかな」


 お前なんで一ノ瀬さんと仲良くなってんの!? どういうこと!? みたいな。


「私の件で詰められてるってこと……!? さ、佐藤くんは、それに何て返したの!?」

「まあ、一ノ瀬さんだからって」

「それで許されるのー!?」


 一ノ瀬さんは、驚きの面持ちを見せる。


「私も、もう捕捉されてるんだ……」


 そして、きょろきょろと辺りを見回し出した。


「そ、それで、ひかりさんって、どんな人なの?」

「お兄ちゃんと、いつも一緒だよね」

「いつも一緒!?」

「この前も朝一緒で、そのままコンビニに寄ったりしたなぁ」

「うぐぐ」

「あいつ新し物好きだからさ、新商品を一緒に半分にして食べたりして」

「半分こ! うぐぐぐぐっ!」

「でも食べ方が雑だからさ、セーターの胸元に粉とかこぼすんだよ。だから払ってやると「どこ触ってんのよ」とか言い出すんだよな」

「あははっ、ひかりさんらしいね」

「……む、胸をっ?」

「本当に仲いいよねぇ。あ、そうだ! 昔なんですけど笑っちゃった事件があって、一緒にプールに遊びに行った時、帰ってきたら二人のパンツが逆だったんですよ!」

「どういうことなのーっ!?」


 懐かしい事件だ。

 市民プールに遊びに行ったら、脱衣所のロッカー前で大友が荷物をぶちまけて、俺もひろおうとして色々こぼしたんだ。

 そんで慌ててひろったんだけど、俺も大友も近所のユニシロで下着を買うことが多くて、入れ違ったって話だな。

 あれから手提げカバンはやめたんだよ、お互い。


「そ、それって……佐藤くんがひかりさんの下着を履いて帰ってきたってこと……?」

「はいっ、そうなんです!」

「ええええええ――っ!?」


 唖然とする一ノ瀬さん。

 なぜか、顔が赤い。


「まあ、めずらしい事件だけど。そんなに驚くことか?」

「お、驚くよーっ! だって、ええっ!?」

「あと、時々泊まりに行ってるよね。ひかりさんが泊まりに来ることもあったし」

「と、泊まりに……!? もうご家族公認ってこと……!?」


 それを聞いた一ノ瀬さんは、なぜかフラフラと貧血のような足取りに。


「夜遅くまでガタガタうるさかったけど、何してたの?」

「そそそそれは聞いちゃダメーっ!」


 一ノ瀬さん、なぜか美月を全力で引き留める。

 あの夜は、つい格闘ゲームで熱くなっちゃったんだよな。

 どっちも専用コントローラーを台に乗せて遊ぶから、うるさくなっちゃうんだよ。


「で、でも、いつのまに……」


 一ノ瀬さんはなぜか、前後不覚状態だ。

 一体どうしたっていうんだろう。


「いや、小学校からの付き合いだから」

「小学校から付き合ってるの……!? そんなのもう、おしまいだよぉ……」


 大きくため息をついて、ガックリと肩を落とす。

 ……うーん。

 なんかさっきから、微妙に嚙み合ってない感じがするんだよなぁ。


「おー、佐藤と美月ちゃん! それに一ノ瀬さんも」


 するとそこに、見慣れた顔がやって来た。


「あ、噂をすればひかりさん!」

「ひ、ひかりさんっ!?」


 一ノ瀬さんはビクリと大きく身体を震わせた後、そーっと顔を向ける。

 それからゆっくりと、目を開く。


「……あれ?」


 そして、その動きを止めた。


「ちょうど今、お前の話をしてたんだよ」

「そーなん?」


 大友はそう言って、自然に俺たちの横に並ぶ。


「ひかりさん……?」


 一ノ瀬さんが、大友を見て首を傾げる。


「俺、大友ひかり」

「……あ、ああーっ!! そういうことかあっ!」


 一ノ瀬さんはなぜか、『全ての線がつながった!』とばかりに手を叩いた。

 そして何度もうなずいた後、大きく息をつく。そして。


「カバン持ちしようよ!」


 突然の提案。


「へえ、懐かしいな。この人数ならそこそこいいゲームになりそうだ」


 でも、大友は早くも乗り気だ。


「大友君はグーを出してね!」

「お、心理戦か?」

「私たちは、皆でパーを出すから!」

「それゲームになってなくねえ!? 俺一人が背負う罰じゃねえか!」


 なぜか頬をふくらませながら、大友を詰める一ノ瀬さん。

 よく分からないけど、帰り道は賑やかで楽しいものになった。

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