第11話 勘違い

「一ノ瀬と佐藤って、仲いいよね」


 休み時間、前田さんが振り返ってそう言った。


「えへへ、そうかな?」

「あんまりイチャイチャしてると、佐藤が勘違いしちゃうぞ」

「そうなの?」


 楽しそうに、俺に問いかけてくる一ノ瀬さん。


「してねえよ」


 俺は首を振る。

『俺のこと好きなのでは?』の勘違い率は、100%なんだよ。

 これは大友と何度も話し合って出た結論だから、間違いない。


「ていうか一ノ瀬の方はどうなの? 前に言ってた好きな人は、一ノ瀬の気持ちに気づいてるの?」

「気づいてないみたい」

「そうなんだ」


 ……なるほど。

 そいつは一ノ瀬さんの気持ちに、気づいてないのか。

 俺はなぜかちょっとだけ、ホッとしながら息をつく。


「どうしたの、佐藤」

「いや、別に」

「このまま気付いて欲しくないみたいな感じぃ?」

「佐藤くん、そうなの?」


 一ノ瀬さんは顔を寄せて、見つめてくる。


「ほら一ノ瀬、そんなに近づくとまた佐藤が勘違いしちゃうぞ」

「えへへ、そうなのー?」


 二人はニヤニヤと、楽しそうに俺をいじってくる。


「だ、だからしてねえって」


 さらにそんな俺たちを、横目でうかがう横野さん。

 ああもう! めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど……っ!



   ◆



「ありがとう! 続きを読むのが楽しだよーっ」


 横野さんに借りた漫画をカバンにしまって、私は教室を出る。

 そうだ、今ならまだ佐藤くんに追いつくかもしれないっ。

 早足で校舎を出て、そのまま校門へ。

 予想通り、そこに佐藤くんの背中を発見。


「佐藤くん……あれ?」


 そのまま駆けつけようとしたところで、一人の女子が佐藤くんのもとに駆けてきた。そして。


「ええっ!?」


 なんとその女子はそのまま、佐藤くんに飛びついた。

 待ち合わせでもしてたのか、二人は自然な笑みを見せながら隣り合って歩いていく。


「…………」


 胸を撃たれたかのような衝撃に、思わず呼吸が止まる。

 ど、どういうこと……?

 話を聞きに行きたいけど、怖くて進めない。

 私がそうして、二人の後ろでドキドキしていると――。


「新しいペンが欲しいの」

「それなら、このまま買いに行くか」

「うんっ」

「自然と、デートに……っ」


 足元が崩落したかのような感覚に、フラつく足。

 二人は止まらない。


「せっかくだし、駅の方まで行こうよ」


 そう言ってその女子は、佐藤くんの腕を取った。

 明るい髪色のショートカットが似合う、かわいい女の子。

 制服はうちのじゃないから、別の学校の生徒だ。


「きゃっ」


 衝撃の光景に、いよいよ無くなる平衡感覚。

 何かにぶつかって、私はそのまま尻もちをついた。

 見上げると、そこにあったのは――。


「電信柱……?」


 どうやら前後不覚だった私は、電信柱にぶつかってしまったみたいだ。


「一ノ瀬さん?」


 聞こえた声に、顔を上げる。

 そこにいたのは、かわいい女の子と一緒の佐藤くん。


「大丈夫? まさか電信柱にぶつかったの?」


 佐藤くんは、心配そうに声をかけてくれる。

 でも私は、その顔が見られなかった。

 もちろん、横のかわいい女の子も。


「同級生?」

「ああ、同じクラスの一ノ瀬さん」

「そうなんだ」

「一ノ瀬さんにも、紹介しておくよ」

「っ!?」


 そう言われて、思わず跳び上がりそうになる。


「こっちは美月」


 な、名前で呼んでる……!?

 佐藤くんが、女の子を名前で呼んでる……っ!!


「美月です。よろしくお願いします」

「俺の妹ね」

「はい……ん? いもうとさん?」

「はい。兄がいつもお世話になっています」

「本当に、本当に妹さんなのっ?」

「はい。このお兄ちゃんからは想像できないかもしれませんけど」

「余計な事を言うんじゃない」


 座り込んだまま、あらためて見上げる。

 とてもかわいい妹さんは確かに、ちょっとだけど佐藤くんの面影があるかも……!


「それより立てる? 調子悪いとかない?」

「うん。大丈夫、ありがとう」


 佐藤くんの手に引かれて、立ち上がる。


「ちょっとボーっとしてて、電信柱にぶつかっちゃったんだよ。えへへ」

「ケガがなくてよかったな」

「うん」

「……へえ」

「なんだよ」

「お兄ちゃんにこんなかわいい友達がいたなんて、ビックリだなぁ」

「美月ちゃん……!」

「でも、妹としてはうれしいかも」

「美月ちゃんっ! もう私の妹になって!」

「一ノ瀬さんの妹なら、大歓迎です」


 思わず、足取りが軽くなる。

 そうだよね! 妹さんだったら一緒に帰ってもおかしくないし、飛びついたり、腕を組んでもおかしくないよ!

 何より、また佐藤くんのことが知られて良かったかも!


「出た、一ノ瀬スキップ……」

「それなら今日は、お買い物はやめておこっか、お兄ちゃん」

「あっ、いいよいいよ。私のことは気にしないで」

「それだったら一ノ瀬さんも一緒にどうですか? お兄ちゃんもきっと喜びます」

「そうなの? 佐藤くん?」

「え、まあ、どっちでもいいよ」

「ほらほらお兄ちゃん、一ノ瀬さんみたいなかわいい人と一緒にデートできるなんて、めったにないチャンスなんだから!」

「美月ちゃーん!」


 いつもみたいに、困惑する佐藤くん。

 もうすっかりいつも通りだ。


「そういうことなら私も、ついて行っちゃおうかな」


 そう言って、美月ちゃんの反対側に並ぶ。

 思わぬ展開に、足も弾んじゃうよ!


「でもお兄ちゃんのこんなところを見られたら、怒られちゃうね」

「怒られるって、誰にだよ」

「ひかりさんだよ」

「……ひかりさん?」


 出てきた不穏な名前に、私は思わず息を飲んだ。

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