第40話

◇7. 謎の黒い人影

 ドクドクと脈動が耳にこだまする。

 ゼアハは冷たくなった指先で壁をつかもうとするが、滑(すべ)って身体がずり落ちていく。

 「イリス……どこ……へ……」

 口から血と苦しげな吐息(といき)が混じり、声にならない言葉が噛(かみ)み殺される。

 そんなとき、不意に視界の端に“黒い人影”が近づいてくるのを感じた。


(誰だ……? イリスはこんな背丈じゃ……ない……仲間か……? ルシファード? いや、違う……)

 ぼんやりとしか見えないが、その影はゼアハの仲間とも思えず、イリスとも異なる体格だった。

 「……む、ぐ……」

 彼は意識が薄れゆく中で、血にまみれた洞窟の床に倒れ込む。聞き取れないほどの小さな声が、影の方から聞こえた気もするが、ゼアハにはもう判断できない。


 甘い毒の香りが依然として漂い、眷属の身体を蝕み続ける。その限界の痛みを抱えながら、彼は不死が故に死ぬこともできず、ただ薄れゆく意識に溺れる。

 (……おいおい……こんな……ところで……俺が…………)

 最後の思考が闇へ沈み、目の前が完全に暗転する刹那、黒い影がまた一歩近づいたのが分かった。

 しかしゼアハには、それが何者かを確かめる力が残っていなかった。

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