第4話(完)
魔導格闘士メラーグ=ナグルマンの遺品捜索の依頼を出した、故人の友人だという女性、その自宅。
遺品・痕跡回収人レミーは依頼者と向かい合ってテーブルにつく。隣には、本人が希望し依頼者の了承も得て、剣士リトが同席。
レミーは回収したものを差し出した。魔物からはぎ取った、こぶしの跡が残った毛皮。
「魔力痕跡がわずかに残っていて、ギルドに登録されている魔力パターンとも一致しました。メラーグ=ナグルマン氏が魔物の胸に残した傷に間違いありません」
依頼者の女性はとまどいながら毛皮に目を落として、そして尋ねた。
「これは……この魔物に……メラーグは、殺されたんでしょうか……?」
「胃の中から遺品などは見つからなかったので断言はできませんが、この魔物の強さや、わたしたちが出会った時点でこの魔物が生存していたことを考えると、その可能性が高いと思います」
レミーはずっと変わらない、張り詰めたような無表情で回答する。
女性はおそるおそるといった様子で毛皮にふれて、話すことがまとまらないまま、口を動かした。
「それじゃあ……彼がこうして魔物にした攻撃は……これは……」
「隙をついて一撃を食らわせたか、襲われながら一矢報いたのか、そのあたりの経緯は分かりません。が」
レミーはひとつ息をつき、少し目を伏せて、それから女性にまっすぐ目を向けて、言った。
「この魔物は、わたしと戦ったとき、わたしが手に魔法を集めたことにかなり警戒を示していて、お腹をさらすことにも抵抗を見せていました。推測するに、このメラーグ氏の炎をまとった打撃が相当にこたえて、似たような攻撃に過敏になっていたんじゃないかと思います。その警戒を逆に利用して、わたしたちがこれを倒す糸口になるほどに」
表情を変えずに、ただまっすぐに前を見て、レミーは告げた。
「元・魔王討伐隊のわたしが倒すのに苦慮するほどの魔物に、それだけの痛打を与えた。それはメラーグ氏の実力の証左で、誇っていいものだと、わたしは思います」
女性はぼうぜんと、レミーの正面で向かい合っていた。
それから目を落として、こぶしの跡のついた毛皮を手に取った。
「そうですか」
そして涙を流して、毛皮を、そこに残った故人の力の証明を、抱きしめた。
「そうですか……」
静かに泣く女性を見ながら、剣士リトはただ黙って、じっとしていた。
昼下がりの街並みは、町人や商人、それに冒険者と、さまざまな顔ぶれが雑多に通り過ぎていく。
その人並みの中の一部として、遺品・痕跡回収人レミーと剣士リトは歩き、言葉を交わした。
「その……いろいろ、あざっした。助けてもらったり、仕事を見せてくれたり……」
「いいよ。きみを助けられて、わたしもうれしい」
相変わらずの無表情のまま、レミーは言った。
リトは話題をひねり出すように、口を動かした。
「仲間も無事で……俺固定パーティ組んでないから流しのメンバーだけど……ちゃんと生きて帰ってきたことを喜んでくれました」
「そっか。よかったよ。生きてることが一番だからね」
淡々と、レミーは言う。
リトは少しのあいだ口をつぐんで、迷って、それから意を決して切り出した。
「魔王討伐隊、って……俺、詳しく知ってなかったから、聞いたんだけど……隊は八人いて、生き残ったのは三人で、あとの五人は、魔王を倒したときに魔王城の空間ごと消滅して、遺体も遺品も残ってない、って……」
レミーは何も言わず、歩き続ける。
そんなレミーに顔を向けて、リトは尋ねた。
「そのときの仲間なのか? あんたが本当に取り戻したいのは。遺品回収の仕事をしてるのは、そのためなのか?」
レミーは立ち止まった。
リトも立ち止まって、おずおずとレミーの顔をうかがった。
通行人が通り過ぎていく。
レミーは表情を変えないまま、淡々と言った。
「取り戻したいけど、わたしは取り戻せないから。だからせめて、取り戻せる人の遺品は、取り戻してあげたいって思うよ」
そう言ってレミーは遠くの方、日の差す方に目を向けた。
日の光を受けて、黒髪に混じる虹色の髪と、眼鏡の奥の虹色の瞳とが、とろけるように光った。
リトにはそれがなんだか、消え入りそうに見えた。
「……俺もっ」
ほとんど考えなしに、リトは口を開いた。
「俺も、あんたの仕事、手伝えないかな? 一人で戦うの大変だろうし、今回みたいに、二人いるからやれる戦略とかも、あるだろうし……」
迷うように、視線を斜め下に落としながら、リトは絞り出した。
「なんか……レミーさん、このままほっといたら、いつかどこかでいつの間にか、死んでそうだし……」
レミーは虚をつかれたような顔で、リトを見た。
その表情のまま、声を漏らした。
「驚いた。死ぬ心配をされるのなんて、何年振りだろう」
「や、すんません、生意気言って……俺の方が、断然弱いしすぐ死にそうなのに……」
レミーはリトに歩み寄って、顔を近づけた。
「でも、悪い気はしないよ。どんな形であれ、生きててほしいって思われるのは、悪い気はしない」
そうしてリトの頭を、手でなでた。
「ありがとう」
リトはどきりとした。
ずっと張り詰めていたようなレミーの顔が、そのときは少しゆるんだように、リトには見えた。
レミーはリトから離れて、背中を向けながら言った。
「当面はわたし一人でできるし、正直に言っちゃえばきみの実力じゃついてきてもらうのは心配だから、今は気持ちだけ受け取っておくよ。もっと強くなったら、また声をかけて」
そう言って、レミーは振り向いて、真剣な目を向けた。
「それまで死なないようにね。お互いに」
しばらくの間、二人は見つめ合った。
そうしてからレミーは、また背を向けて、歩き出した。
その背中に向けて、リトは声を張った。
「リト=ボロディア! 剣士のリト=ボロディアだ! 覚えていてくれなんておこがましいかもしれないけど、俺は剣士のリト=ボロディアだ!」
レミーは振り返った。
そうしてリトを見つめて、変わらないまま無表情で、まっすぐに告げた。
「レミー=アリアード。ダンジョン内遺品・痕跡回収人の、レミー=アリアード」
そうして薄く、ほんの薄く、笑った。
「覚えておくよ、リトくん」
ダンジョン内遺品・痕跡回収人レミー=アリアードの回収記録 雨蕗空何(あまぶき・くうか) @k_icker
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